モンスター

MONSTER
脚本・監督 パティ・ジェンキンス
出演 シャーリーズ・セロン  クリスティーナ・リッチ  ブルース・ダーン  スコット・ウィルソン  リー・ターゲセン  アニー・コーリー  プルイット・テイラー・ヴィンス
撮影 スティーブン・バーンスタイン
編集 アーサー・コバーン  ジェーン・カーソン
シャーリーズ・セロンのメイクアップ担当 トニー・G
衣装 ローナ・メイヤーズ
音楽 BT
2003年 アメリカ作品 109分
ナショナル・ボード・オブ・レビュー…ブレイクスルーパフォーマンス(シャーリーズ・セロン、以下、受賞者同じ)
全米映画批評家協会賞…主演女優賞
ブロードキャスト映画批評家協会賞…主演女優賞
ダラス・フォートワース映画批評家協会賞…主演女優賞
シカゴ映画批評家協会賞…主演女優賞
サテライト映画賞…主演女優賞
ベルリン国際映画祭…銀熊賞(女優)
ゴールデングローブ賞…主演女優賞(ドラマ部門)
アカデミー賞…主演女優賞、他
評価☆☆☆☆


これがシャーリーズ・セロン?
なりきりメイクで別人のようになっていることは知っていたが、実際にスクリーンで見ると、驚いてしまう。
それだけでもすごいのに、演技のほうも大熱演なのだ。
数々受賞した主演女優賞も、じゅうぶんに納得がいく。
この役柄は、美人のままのシャーリーズでは説得力がないだろう。徹底的なメイクには話題性だけではなく、必然性がある。

観終わってから思い返してみると、シャーリーズと共演のクリスティーナ・リッチ、この2人のシーンがほとんどだったのにも驚く。いや、他の俳優の出番も、それはあることはあったのだが、ほとんどは、シャーリーズやクリスティーナとの絡みではなかったか。

物語は、ハイウェイで客を拾う売春婦として生活していた実在の女性アイリーン・ウォーノスを描く。彼女は、1年間に7人を殺害した罪で2002年に死刑となった。ティリア(映画ではセルビー)という女性とともにアメリカ中を渡り歩いたが、1991年に逮捕され、6度もの死刑判決を受けている。

映画は、アイリーンが持ち金も残り少なく、生活に絶望しているときに、セルビーと出会うところから始まる。セルビーがアイリーンに話しかけたのは、セルビーが同性愛者だからである。
ここで2人が出会ったことで、アイリーンの運命は変わる

スケート場で、ジャーニーの曲“Don't Stop Believin'”(「ドント・ストップ・ビリービン」)が流れる。お互いに、この曲好き、と言いながら、アイリーンは、滑れないセルビーをリードして滑る。ともに恋に落ちたことを確信する2人。
スケート場から出て、アイリーンはセルビーに言う。「私は男も女も嫌い。でも、あなたは好き」
強烈な愛の告白であるとともに、それまで彼女が、いかに他人から嫌な目に遭ってきたのかが垣間見える台詞だろう。
こんな自分を好きになってくれる人間が、ここに、いる。
エンドクレジットでも、“Don't Stop Believin'”の曲が流れ、いっそうスケート場のシーンの印象を強くした。

アイリーンは、ある晩、客から暴行を受ける。客が持っていた拳銃で、思わず相手を殺してしまった。
その後、アイリーンは、自分が生きていくためのよりどころとも言えるセルビーと、一緒に暮らしはじめることになる。
警察を恐れ、精神的にもハイウェイ売春の仕事を続けることができなくなった彼女は、まともな仕事を探すが、なかなか見つからない
セルビーは、面倒を見てくれるって言ったじゃないの、なのに、この暮らしを見てよ、という態度を見せるようになる。

さて、クリスティーナ・リッチである。彼女は「アダムズ・ファミリー」(1991年)に出演した10歳くらいのときから、たいへん個性的で印象深い女優だった。
この映画での彼女は、結局はアイリーンに生活費をたかるヒモさながらの存在になる女性なのだ。まるで小悪魔。そして、クリスティーナは、その役に、ぴったりハマッていたのである。

生活のためには、ともかく、お金が要る。
それまでアイリーンがやっていた仕事、つまり、道端で男の車を止めて、その車に乗り込み、売春をするというのは、すごく危険なことに思える。車だから、下手をすれば、どこへでも連れていかれてしまうし、相手によっては何をされるか分からない恐ろしさだってあるだろう。そういう面から考えても、アイリーンは高級な娼婦とはお世辞にも言えない存在なのだった。

アイリーンは、セルビーとの生活を守るために、再びハイウェイに立つ。ただし、今度は以前とは少しやりかたを変えて…。

シャーリーズ・セロンは、コンタクトをして義歯をつけ、ゼラチンでまぶたの周りに重みをつけ、2時間弱もかかるメイクをして変身した。
体重を13キロ以上増やしたという。
下着姿になるシーンがある。ぶよぶよと太った肉を見せつけられ、これもまた衝撃だった。
ここまで、さらけだすか。と彼女の女優根性に舌を巻いた。
まさか、肉までメイクじゃないよなあ、とは思うが。

アイリーンがセルビーと別れるシーンでの、シャーリーズの演技もすごい。抑えきれない感情のうねりが伝わってきて、こちらまで泣けてきた。
セルビーとの電話を盗聴されていると気づいたアイリーンが、セルビーに罪をきせないようにする場面にも、ぐっとくる。

殺人が悪いことなのは当然だ。その点においてアイリーンを弁護することはできない。
しかし、彼女をそういう行動に追い込んだのは、いちがいに彼女のせいだけではない。周囲から得られる愛情というものは不可欠なのだ。
愛情のない人間が、社会が、彼女をモンスターにした一因だ、というのは間違いない。
悲しい物語である。

映画館で隣に座った女性が、暴行シーンや殺人シーンのところで、「あ〜」という感じで、観るに耐えないというような声を出していた。それだけそのシーンが、緊迫感に満ちたものであったことを示す反応と言えるだろう。

ドキュメンタリーの「シリアルキラー アイリーン 『モンスター』と呼ばれた女」も、観てみたい。

〔2004年10月30日(土) ワーナー・マイカル・シネマズ 板橋〕


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