シンプルに映画に描きとめる。
淡々と、端正に。それで観客に通じているのがイーストウッドの映画ではないかなあ。
下手な小細工はしない。
以前、演出方法として一発撮りでOK、繰り返して「テイクいくつ」なんてやらない、と噂に聞いたことがある。
たぶん、起用する俳優が優れているから、一番目のテイクでも失敗しないし、最初の集中力の入った演技を欲しいのかもしれない。
今年のアカデミー賞授賞式の始めのほうで、チラリと映ったイーストウッド老、まさに、そこらへんの「おじいちゃん」みたいだったけど、映画監督としては素晴らしすぎる。
本作も、ある「アメリカ人の狙撃手」を追い、戦場のシーンでは厳しい現実をシャープに眼前に見せながらも、エンターテインメント性も備えている見事さ。
戦場と家庭生活の対比も良い。
多くの敵を殺したのは、戦場にあれば、もちろんそうせざるを得なかったからで、選択の余地はない。
敵なのか、殺さなければならないのか、を自分で判断しなければならない場面は一度ならずあっただろうし、子どもを殺したことも。
もしかしたら、敵ではない人間を殺したかもしれない。そういうことは、精神的にこたえてくるに決まっている。
血圧が高かったのは、太めの体格のせい(だけ)ではないだろう。
帰国後、彼がどうなったのかを知ると、なんという運命なのかと呆然としてしまう。
エンドロールの、いわば最敬礼と黙とうは、彼が多くの敵を倒したからではない、と思いたい。