木工そのものにはイメージが描けているのですが、売るとなるとさっぱり分かりません。 どのようにして、販売していくのでしょうか。売り方には二通りあります。 一つは「庭先販売」と言われているものです。 親戚、友人、知人、を中心に、そこから広がっていく口コミのお客に、直接販売していくものです。 このやり方のいい点は、価格にお店のマージンが入らないので、ギリギリ安い値段が付けられ、 無名で駆け出しの時は、買ってもらいやすいことです。 また、納品したらすぐ代金を支払ってもらえますので、運転資金が少なくて済みます。 しかし、口コミでの広がりには限界があり、いつか飽和状態を迎えます。 また、個展をするときは、貸しギャラリーを使ってすることになります。 これは一日何万円という場所代を払うことになりますし、DM(ダイレクトメール・案内状)も自分で作らなくてはなりません。 それと、自分で販売をしなくてはならないので、社交の苦手な人は、辛いものがあるでしょう。 もう一つの売り方は、お店に売ってもらう方法です。 自分で自分をPRして売ることが苦手な人は、各地にあるギャラリー、工芸店、 民芸店に頼んで、作品を置かしてもらうことが出来ます。 委託販売といって、売れたら代金を支払ってもらう方法です。 当然のことですが、販売手数料(マージン)が上乗せされた価格が付きますので、 その価格に耐える付加価値の高い作品でなくてはなりません。 手作りで一生懸命作りました、といっても売れない作品では「未熟なだけ」でしかなく、評価されません。 一定期間に売れなかった場合は返品ということになります。 力が付いてくると、委託ではなく、お店の買い取りで常設して貰えるようになります。 また、お店での個展は、自力の個展と違って、場所代がいりませんし、DMも作ってもらえますし、 販売の方もお店の人が中心になってやってくれます。 しかしながら、一定以上の売り上げが要求されますし、個人で自由に売るやり方と違って、 お店の利益を尊守する姿勢が要求されてきます。また、お店を通じての販売では納品月末締めの翌末払いが普通ですので、かなりの運転資金が必要です、更に一流のお店はきちっと支払っていただけますが、お店によっては支払いが滞る、と いった不安がつきまといます。最悪の場合、売ったものの倒産により支払ってもらえない、と言うこともあり得ます。 お店を通じての販売を考えていますが、お店とつき合う上で注意したほうがいいことってありますか?あります!あります! お店って、とってもデリケートな感覚とプライドを持ってると思います。 だから、知らないうちにそれを傷つけてしまったり・・・。 何にも知らずに、無邪気に振る舞っていると、パコ〜ンと頭をたたかれますよぉ! 私の頭には古傷がいっぱい(とほほっ)。 最近ではさすがに頭をたたかれるまではないですけど、「コテ〜ッ!」くらいの攻撃は今でも受けますぅ。 要は、販売をお店にお任せするなら、それに徹しなければならないって事なんです。 都合のいいときだけお店を頼って、自分でも直接販売をするってやり方は、お店は許してくれないんですねえ。 「商道徳」って言うんですって! だから、まず、お店のお客さんを絶対取らないこと。 それが一つでも発覚すると、百あると思われます。非人間扱いされますよぉ。 いくら親しくなっても、知り合ったきっかけがお店なら、いつまでたっても、お店のお客さんです。 でも、う〜んと親しくなると、情が移って、少しは安く直接売ってあげたくなりますよねえ。 たとえそれが人情というものでもトラブルのもと。だから、うちは、直接販売は一切しないと決めています。(^_-) 突然遠くの人から問い合わせがあることがあります。 そんなときは、どこでうちを知ったのかを確かめ、注文はそこに関わるお店を通すようにします。 もちろん、製作内容の打ち合わせには、直接応じても良いと思いますが、 代金の支払いはあくまでお店の方へしてもらわなくてはなりません。 (直接打ち合わせしたいっていう人が中にはいらっしゃるんです。) お店の人は、展示会の時など、お客さんと作家のやりとりを、しっかり見てますよ。 場所だけ提供させられて、お客を持ってかれたんじゃあ、話にならない。 だから、お客さんに、「直接工房に行ってもいいですか?」なんて聞かれても、OKしちゃだめですよぉ。 名刺交換も絶対ダ〜メ!筋を通さなあきまへん(何で、ここで大阪弁になるの?!) そうそう、展示会の会場で、よそのお店の人が、 「うちにも作品を扱わせてくれないか」っていうような商談を持ちかけて来ることもあります。 その場でそんな話をするのは、かなりまずいですぅ。人のふんどしで相撲を取るようなもの(汚いっていう意味?)。 やんわり逃げましょう。 それから、いろんなお店から声が掛かるようになっても、 見境無くどこでもここでも作品を置かしてもらっちゃダメですよぉ! 同じ町にあるお店2軒に同時に置かせてもらった日には、それが分かった時点で、 どちらかのお店が手を引き、つめた〜くされますよ。 「一流の作家さんは、そんなこと、きちんと気を付けなはりますけどなあ」って。(ん?何でまた大阪弁になるの?) ここまで来ると、「矢澤さん、それは、ちょっと卑屈になり過ぎじゃあありませんか?」って言われそうですねえ。 「作家より、お店の方が上なんですか?」って。私は対等と思っているんですけどねえ。 お店の皆様、この項目を読んで、何か気にさわる発言があっても許してくださいねえ。パコ〜ンと来ないで下さいよ!!(^^;) 価格はどのような方法で決めたらよいのでしょうか?また、価格設定の際に考慮すべき経費にはどんなものがありますか?まず最初に、自分の木工の実力を適切に評価する必要があります。つまり具体的に自分の日当、或いは時間給を決めることですね。それには、ある家具を作った場合、必ず売れると思われる販売価格を最初に設定します。そこから、代理店マージンと材料費と送料を引き、残金を製作時間で割ると時間給が出てきます。この時間給があなたの現在の実力です。さて、その時間給で、生活できますか?そこが問題であり、独立してやっていけるかどうかの分かれ目です。その時間給でやっていけるなら、その後の製作については、その時間給を元に計算したコストを積み上げて、価格を設定したらいいですね。 生活するためには、いくらいくらの時間給が必要だから、と自分で勝手に自分の時間給を決めてはいけません。最初に時間給を決めて、コストを加算した価格の計算法だと、駆け出しの人は大抵価格が評価を上回ってしまいます。つまり作品の内容と比較して価格が高すぎる、とお客が感じて買ってはくれない、と言う結果になります。 なお、家具製作に必要な経費は、普通の製造業と変わりませんが、価格設定の際に考慮に入れる経費は、材料費と送料だけです。道具代とか、電気代、工房の家賃なんかを価格計算に入れることはしません。 そういうものは、自分の時間給の中から払っていかなくてはなりません。つらいですね(;_;) 木工家として、世の人に知ってもらうためには、どんなふうにしたらよいのでしょうか。個展を開き、案内状を新聞社など報道機関に送る。 県展はじめ、色々な公募展に出品して入選入賞し、新聞に取り上げられることを期待する。 レベルの高い公募展でないと意味がありません。 日本伝統工芸展に何度か挑戦しましたが、まだ入選できません。矢澤さんはかつて入選されていますが、もし作品づくりのコツがあれば教えていただけないでしょうか。また応募の目的を失いかけているのですが、入選する事のメリットはあるでしょうか。私は正会員になるための最低回数しか入選していませんので、分かったようなことを言う資格がありません。 しかし、公募展応募にコツというものがあるなら、それは、「傾向と対策」だと思います。まるで受験のようですが、これに尽きると思います。いくらよいものを作っても、その公募展の求めるものに合っていなければ選外となります。ですから、反対に、選外になったからといって、自分に木工の才能がないとか、作品が悪いとか思う必要はないと思います。 公募展応募のメリットですが、私の狭い経験からいうと、入選や入賞をするとマスコミが取り上げてくれますので、自分の存在を人に知ってもらう方法としては、大変有効だと思います。それから、私にとっては、日本伝統工芸展への応募は、当然ながら日本の伝統工芸の勉強におおいになりました。工法のみならず、日本の伝統の美意識を教そわりました。これは世界的視野で自分の木工を考えるとき、日本人の木工家としての土台を作ってもらったような気がします。それから、私のように木工の師匠筋がないと、回りに木工の力をなかなか認めてもらえないものですが、正会員になった途端、まず同業者の目が変わり一目置いてもらえるようになりました。また、お店も私の作品を売りやすくなったようです。 それで、狭い範囲での話になりますが、「日本伝統工芸展」に絞ってコツをお話ししますと、奇抜な物を作らず、伝統工芸から見て、最も代表的と思われるような、正攻法の作品作りが早道かと思います。伝統工芸の土俵は狭いですが、その真ん中を見定め、力と力の四つ相撲で他の応募作を倒す気迫が必要でしょう。肩すかしや、引き技、土俵際でのうっちゃり、といった奇抜な手で勝とうとしては駄目です。人間国宝といえど、落選することがある公募展です。 では、どうやって土俵の真ん中を知るかというと、つまり「傾向と対策」ですが、私達のように具体的に教えてくれる人を持たない場合は、過去の入選図録を参考にするしかないですね。出来るだけたくさんの図録を集め、私は来る日も来る日もそれを見ました。すると、だんだんに土俵の真ん中が見えてきます。ただ図録では、箱の内部が分かりませんね。これは展覧会で見せてもらうしかありません。展覧会では作品に手を触れることは出来ませんので、手袋をした係りの人に頼んで見せてもらってください。1つくらいは見せてくれると思います。2つ、3つとなると会場によっては断られるでしょう。まあ、身なりにもよるでしょうが・・黙って蓋を取ろうもんなら、警備員が駆けつけてきて、以後退場するまでしつこく付きまとわれます。(経験者談) 矢澤さんの作品には「定番作品」が多いですが何故ですか?手作り家具というと、一般には一品製作になることが多いと思います。 お客の部屋に合わせた注文製作であったり、お客から持ち込まれた材料で作る製作であったりします。 私の作品には「定番」というものが多いのですが、「定番」の意義とは次のようなものです。 1.なんの制約も受けずに、最も美しいプロポーションで、自由に設計、製作できるため、完成された作品が作れる。 特注の場合には、お客の部屋の事情に合わせるため、どうしても多少の妥協がつきまとう。 2.作品の寸法に合った材料をまとめて調達するため、無駄が出ず、安く作れる。 3.一連の定番作品を見てもらうことで、お客が自分の部屋の改造計画を立てる際、イメージが構築されやすくなる。 4.気まぐれに作るのではなく、定番とすることで、「来年はあの椅子を買おう」と、お客が計画を立てられる。 その為に労働意欲が起きるならば、日本の経済復興にお役に立てるかも・・・(^_^;) ![]() |