木工家になるためのQ&A:木工に向く適性とは

家具作家になるために必要とされる能力や条件は何でしょうか?

1.空間把握力と問題解決能力
頭の中で作品が完成できないと、良い家具作りにはなれません。また頭の中で出来上がったイメージを、図面上に細部に至るまで描くには、いろいろな問題解決能力が必要です、つまり幅広い知識、応用力ですね。作ってみないと細かいところは分からんというのでは、製作途中で行き詰まり、失敗してしまうことになりかねません。また、人間ですから、製作過程でうっかりミスをすることもありますが、そこから如何に脱出することが出来るか、ということも大事な能力です、つまり、そのミスを逆手にとって、かえって予定よりも良い物にする能力です。

2.生活に対する関心
美しく、楽しく、便利に暮らすためにどのような家具を必要とするかを知るためには、生活することに関心がなくてはいけません。家の整理整頓に関心がないと、こんな家具があると便利だなあという発想がわきません。 食器棚を作るためには、料理のこと、食器のことを知らなくてはなりません。 日常的に、自分で食器棚から食器を取り出し、使い、洗い、食器棚にしまう、という豊富な経験がないと使いやすい食器棚は作れません。その為、私は毎日の食器洗いを担当させてもらっています (^O^;

3.デザインセンス
これは、確かに大きな意味を持つのですが、木工家は芸術家であると同時に基本的に職人でもあるわけですから、お客の求める物を正確に把握できる人が、良いセンスをしている、といえるでしょう。

この質問はなかなか難しく、私から言えるのはこんなところですので、あとは矢澤美子にバトンタッチします。

ハ〜イ!! 美子さんの登場ですよ!! 私は全く木工が出来ませんが、夫の成長をずっと見てきましたし、工房から独立した人たちの経過も見てきましたので、いくつか気が付いていることがあります。参考になるかもしれないので書いてみますね!!

1.やっぱり、メカに強い方がいいみたい!
機械いじりや電気いじりが好きな人は、それだけで、ずいぶん得するくらい、機械、電気のメンテナンスの出番は多いです。トラブルたびに機械屋さんや電気屋さんを呼んでいたら経済的にやっていけません。

2.能率、効率を考える合理的行動のできる人
焦らずマイペースってのが、人生の大切な生き方ですが、やっぱり、程度があって、木工で食べていこうと思ったら、能率、効率を意識した製作態度がいるみたいです。の〜んびり、ゆっ〜くり、考えながらマイペースで作るって理想かもしれませんが、最短の製作手順を頭に入れて、無駄な動きをなくして、す〜っ、す〜っと製作できる人は、家具が早く作れ、それだけ安く作れて、売れるようです。

3.何といっても、貧乏に強い人がいいな!
矢澤があちこちで、木工家は貧乏だと言ってますが、ほんとうです。なかなか売れるようにならないし、資金は陶芸家の人たちに較べると何倍も要ります。だから、貧乏なのは仕方ないから、それをものともしないタイプの人でないと持ちません。山登り系の、リュック一つでどこでも寝られて、一週間お風呂に入らなくても平気で、食べ物も山で食べるような簡単で、代わり映えのしないものでもOK、というタイプの人が向いているような。ブランドものを身につけたり、レストランで食事したりするのが好きな人は、木工家を目指さないほうが、いいかも。

4.決断力
木工の世界に飛び込もうとすると、自分は向いているだろうか、一生出来るほど好きだろうか、貧乏に耐えられるだろうか、独自の作品を生み出せるだろうか、売れるだろうか・・・心配は限りなくあり、その答えはやってみるまでわかりません。ですから、石橋を叩いて渡る慎重なタイプの人は、思い悩むばかりで、結論が出ないまま時間ばかりが過ぎちゃって、もったいないですよぉ。 なんとかなるだろうと、エイ!っと飛び込める人しか無理みたい。

5.伴侶の理解を得られる人
奥さんが木工生活に入ることを積極的に支持しているところはうまく行くようですよ。子供がいれば特に、奥さんは子供に対する責任上、家計のことをとやかく言わざるを得ません。一緒に貧乏を楽しんでくれる人だといいですね。奥さんのちゃんとした支持を得ないまま飛び込むと、家庭の破局を招き、結局、元の生活に戻ったという人もいますので、奥さんのことは何とかなるとあなどらないように!!

木工に向く性格はどんなものでしょうか。

木工にしか向かない性格ということになります。他に適性があると、苦しいときにそちらに転向してしまいますので。
木工に向く性格とは、

1.社交嫌い、繊細で内向的性格、太れない体質の人
2.負けず嫌い、努力家
3.こだわりが強い性格、頑固
4.多少の劣等感の持ち合わせがあれば完璧です

息子の将来ですが、今のまま学力が伸びれば医者に、ダメなら家具作りになって欲しいと思っています。アドバイスをお願いします。

職人に学歴は必ずしも必要ではありませんね。学校の勉強には興味がなくても、感性豊かな優秀な子は沢山います。むしろ、学力面でコンプレックスを持っているくらいの方が、職人として成功する可能性が高いかも知れませんね。

学力には偏差値という尺度がありますが、職人の能力にも同様の「偏差値」が考えられます。 日本では、学力の偏差値がまるで、その人全体の能力を表しているように考えられる風潮がありますので、学力が高いと、木工の能力も人並み以上に行けると誤解しがちです。しかしながら、今までの私の経験から判断すると、「学力偏差値」と「職人的能力の偏差値」は一致しないことの方が多いようです。

「学力偏差値」の高い人は「職人的能力の偏差値」が、それより更に高くないとうまくいかないようです。超一流大学を出た子が、職人を志願するケースをよく見ますが、「職人偏差値」が「学力の偏差値」より低い場合には長続きしませんね。学力習得には相当の自信があったのに、木工の技術習得は同じように行かず、そのギャップをなかなか受け入れられないようです。それから、仕事がうまく行かなくなったとき、他の事に逃げてしまうんです、他に能力があると。

「職人偏差値」には、次のことが関係してきます。

1.デザイン的能力(需要を分析し、それに応えるデザインができるセンス)
2.技術的能力(木工が好きで、木工作業上の難問を解決できる能力)
3.人間的優しさ(作品を通して愛されること)
4.貧困に耐えうる能力(他の事に逃げない頑固さ)

高校2年生です。家具職人になるには美系の大学へ進んだ方がよいでしょうか、高卒では駄目でしょうか?

美系の大学へ進めば、幅広い芸術に触れる機会が増えることでしょう。ただ美大卒の木工屋さんは「新しいデザイン」に対する執着が、非常に強い感じがしますね。用を離れ、あまりにデザインに懲りすぎると、使う人には迷惑な場合がありますから、美大に進むなら、そこんとこよろしく。

高卒では職人になれない、ということはありません。大学に行ったかどうかは、殆どの場合、その人の能力にはよりませんね、単に大学に行ける家庭環境に育った、というだけのことです。大体現在の学校教育の成績は記憶力を偏重しすぎていると思いませんか?、木工家に求められる能力は、記憶力ではありませんね。受験勉強とは全く違うのです。でも、大学を出てからでも木工を目指すことは全然遅くないので、大学へ行かせてもらえるなら、行った方がいいですよ。遊べるから。大学時代にしっかり遊んでください。社会に出てから学生がする遊びをすることがないように・・・。

私は、サラリーマンですが、木工に転身したいとかねがね思っています。ところが、私の能力を心配してか、妻があまりいい顔をしません。(子供2人います。)どうしたものかアドバイスをお願いします。

奥さんがいい顔をしないのは、経済的不安のせいでしょう。 あなたには、まずそれを解決する義務があります。 酒、タバコはじめ一切の遊びを捨て、貯蓄に励み、木工に転職後5年間は月10万円の収入でやっていける貯金が必要です。 その上で、一生木工をやる覚悟があれば全国各県にある職業訓練校に一年間通い、その後、木工家の弟子入りをするのがよいでしょう。 夫が本当にしたいと思うことならば、妻はその実現に向け協力してくれるでしょう。 家庭以外の全てのことを捨てて、木工一筋に人生を絞れるなら、それはそれで一つの才能があると言えるでしょう。 嫌々サラリーマンを続けることは、子供の教育上も良くないのではないでしょうか?

20代の女性です。女性が家具を作ることは難しいでしょうか。

女性だから難しいということはありません。女性的な発想で使いやすい家具が生まれるかも知れません。問題は受け入れてくれる場所が少ないことです。単一作業しかさせてくれない木工所では10年いても独立は難しいでしょう。良い環境の木工所となると、競争が激しくて、トップクラスの男と同等以上の木工的能力が必要です。大変な努力が強いられますが、やり抜く決意があれば道は切り開けます。

職業を転々と変えてきましたが、そういう人間は木工には向かないでしょうか ?

子供の時から木工一筋、という人もいますが、自分に合う仕事が分からず、仕事を転々と変えた末に木工に落ち着いた、という人は案外多いですね。自分に合う仕事なんて、若いうちはなかなか分からないものです。

独立して木工をやる場合、木工だけでなく資材購入、営業、経理、接客、その他全て自分でやることになります。ですから、いろいろな職業に就いた経験は、きっと生きてくることでしょう。私も、木工で独立したとき、小さい頃からの経験の全てがここで生かされると感じました。役に立たない経験は何もないと思ったほど。だから、遊びも含めていろんなことを経験するのはいいことだと思います。

アルコールも適当に不純物が入っているからこそ旨い酒になるように、不純物的人生経験が、ものを作る上で個性的味わいを生むかもしれません。

しかし、だからといってわざわざ遠回りする事はありませんね。木工がしたければ、体力のあるうちに、なるべく早く始めた方がいいことは確かです。

職業を変えてきた理由が、自分に合う仕事に出会えなかったから、ということであれば、それは、少しも構わないと思います。しかし、きちんと仕事をするのがいや、とか、苦しいことはいや、ということが理由であれば、木工も続かないでしょう。苦労を耐えさせてくれるくらい、木工が好きだといいですね。

訓練校に行き始めて、人と自分を比較するようになりました。鉋掛けが苦手です。それに、木そのものがめちゃめちゃ好きという人がいますが、私はそこまでのめりこめません(作るのは大好きですが)。このことは、木工家になる上で、どのくらいマイナスになるでしょうか。

外国に行って修行すると、鉋にそれほど頼らない木工を経験できます。外国には素晴らしい家具が沢山ありますが、鉋掛けに関しては日本ほどはうるさく言いません。日本の家具作りで鉋が重視されるのは、日本の大工や建具の影響だと思います。

鉋はある程度は使えなければなりませんが、鉋掛けがうまければ、良い家具が作れるというものではありません。鉋掛けが苦手でも気にすることはありませんよ。

でも、鉋が使えないとなると、鉋に代わる方法を勉強する必要がありますから、それも大変ですね。苦手苦手と思ってやっているうち、上手になりますから、時間をかけて下さい。

それから、木が嫌いでは辛いものがあるでしょうが、現在めちゃめちゃ好きでなければ木工をする資格がないとは思いません。 利き酒を職業とする人が、酒好きであったり、アル中である必要はないのと同じです。

あなたはきっと木に溺れず、冷静に木を見つめることが出来ると思います。それにより、独りよがりでない、他の共感を得られる家具作りが出来る可能性があるでしょう。木が好きで好きでたまらん、という人が作った物は、えてして木という材料がそこにあるというだけの、何とも評価のしようのないものが多いですね。まあ、その辺は好みの問題ですけど・・・。

私は、背が低く、左利きですが、木工家になるのにマイナスでしょうか?(男性からの質問)

木工をしている人で左利きの人は沢山います。道具には左勝手(通常左手で使うもの)と右勝手(右手で使うもの)の両方あるものがあります。ハサミとか切り出し小刀とか際鉋(きわがんな)等ですね。でも左利きでは全く使えない、という道具はまずありませんので、安心して下さい。

それに左利きの人は小さい頃から、右利き用の道具を使いこなす訓練を受けているので、左利き自体が問題になることはありません。私の工房にも左利きの人が何人かいましたが、結構便利なところもあるようですよ。強いて言えば、一般的な家具をデザインするときに、例えば扉の取手の位置が右利きの人にとっても使いやすいかどうか、考えたほうがよいとかいうことでしょうか。 右利きの私は、その面は考えずに、自分が使いやすいように作るわけですが、たまに、左利きの人から、左勝手の「おやじの椅子」を作って欲しいと言われて、別注で作ったりします。

背が低いと困る職業もあるでしょうが、こと家具製作では問題になりません。小柄の私はむしろ、これが幸いしていると思ったことが多々ありますよ。負け惜しみじゃぁなくて!

理想的な身長はお客の平均的身長というところでしょうか。恐らく160cm位でしょう。男性としてはかなり低いですね。女性としてはちょっと高めでしょうか。ここでいうお客とは、30代以上 の購買力のある日本人を想定しています。

作り手の身長が作品に影響してくる具体例は、椅子の高さです。身長180cmといえば、格好いい男性といわれるでしょうが、日本での職人としては問題があります(背の高い作家の方すみません!!)。彼が自分に合わせて作った椅子では、平均的なお客が座った場合、足が床につかないでしょう。

自分で座り心地がいいようにと作った椅子が、他の人に否定されるのは辛いものです。反対に、自分が座りやすい椅子を作れば、お客様も座りやすいと言っていただけるのは、とても便利です。そういう点から、男性の場合は出来れば(努力のしようがありませんが)、背はあまり高くない方が有利かも。。。

もっとも、お客様には背の高い方もたくさんいらっしゃるので、背が高いとダメということにはなりません、もちろん!! ただ、その家具を買うかどうかの決定権を持たれるのが、大抵の場合、家庭の女主人のようで、奥様が座りやすいことが、買っていただくための第一歩のようです、はい。そして、ご主人が大きい方の場合、別注ということで一件落着となります。。。