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軍事費と経済成長〜軍事費の増加は経済にどのような影響を及ぼすか?〜
軍事費の増加は経済成長と関係があるのだろうか? あるとすれば、成長を促進させるのか、それとも成長を鈍化させるのだろうか? ここでは、戦後のデータを元に軍事費と経済成長との関係を需要側から考察してみました。
目次 1、総需要へのショックとその影響 2、潜在成長率への影響 2−1、需要側の3つの方程式と国民所得勘定の恒等式 2−2、防衛支出が貯蓄に与える影響 2−3、貯蓄と投資の関係 2−4、投資と経済成長の関係 3、結論とシミュレーション
1、総需要へのショックとその影響 経済が自然産出量水準にあると仮定して、防衛費の拡大がどのような現象を引き起こすか分析する。まず、防衛費の拡大は総需要の増大であり、総需要曲線を右にシフトさせる。マクロ経済学では、短期においては物価はあまり変化しないので物価は一定と仮定され、短期総供給曲線は水平である。したがって、総需要の増大によって生産も拡大する。 このような総需要の増大は経済の生産量を増やし、好景気を生み出す。しかし、経済が自然産出量水準を上回ると、需給は逼迫し、経済は過熱状態となり、インフレーションを招く。物価水準が上昇すると、総需要は減少し、最終的には自然産出量水準に戻る。 つまり、潜在成長率を上回る総需要の拡大は、最終的に物価水準を引き上げるだけで生産の拡大には結びつかない。
2、潜在成長率への影響 防衛費の拡大は短期的には総需要を増やすが、長期的には物価水準だけ引き上げて生産は自然産出量水準に戻る。したがって潜在成長率が変化しないと仮定すれば防衛費の経済に与える影響はゼロである。 それでは防衛費の増加は潜在成長率に影響を与えないのだろうか? そこで、次に防衛費が国家の潜在成長率に与える影響を考察する。
2−1、需要側の3つの方程式と国民所得勘定の恒等式 1、成長方程式 g=α0+α1i−α2y
以上3つの方程式と国民所得勘定の恒等式を使って防衛支出が経済成長に与える影響を推定してみた。
2−2、防衛支出が貯蓄に与える影響 国民所得勘定の恒等式Y=C+G+M+IをY−C−G−M=Iと変形する。この式の左辺は消費者と政府の需要が満たされた後に残る生産高であり、国民貯蓄(または単に貯蓄)と呼ばれる。 さらに、国民貯蓄を民間貯蓄と公的貯蓄に分けると、Y−C−G−M=Iの式は、(Y−T−C)+(T−G−M)=Iと書き換えることができる。ここで、Tは税金である。左辺第1項のY−T−Cは可処分所得から消費を引いたもので、民間貯蓄と呼ばれる。第2項は税収から政府支出を差し引いたもので、公的貯蓄である。
表1 貯蓄率とGDPに占める防衛費の比率(1972〜1982年平均)
表1は1972〜1982年のG7各国の貯蓄率とGDPに占める防衛費である。このデータをOLS(最少二乗法)で分析し、貯蓄方程式s=γ0+γ1mの係数を推定してみた。
図1 貯蓄方程式の推定結果
推定回帰線 s(国民貯蓄率)=γ0+γ1m(防衛費比率)
2−3、貯蓄と投資の関係 次に貯蓄と投資の関係をみてみよう。2−2のように、防衛費の増加は貯蓄にマイナスの影響を与えるが、貯蓄が減少するとどうなるだろうか。 貯蓄は消費者と政府の需要が満たされた後に残る生産物であり、これは投資の源である。そのため、貯蓄が減少すると投資に回る資金の供給が減少、利子率の上昇を招き、投資を減少させてしまう。これは、政府支出(含防衛費)の増加が投資を押しのけるということで、クラウディングアウト効果と呼ばれる。
表2 投資率と貯蓄率(1972〜1982年平均)
表2はG7各国の投資率と貯蓄率である。このデータをOLS(最少二乗法)で分析し、投資方程式i=β0+β1sの係数を推定してみた。
図2 投資方程式の推定結果
推定回帰線 i(総投資率)=β0+β1s(国民貯蓄率)
2−4、投資と経済成長の関係 新古典派の成長理論によれば、1人当たりの産出量(GDP)は資本蓄積(ΔK)と技術進歩(ΔA)によって決定される。投資Iは1年分の資本ストックの増加(ΔK)である。つまり、GDPに占める投資の割合が高ければ、資本蓄積に割り当てられる資源の割合が大きいということで、1人当たり産出量の成長を加速させるは。 ただし、新古典派の成長理論では資本の限界生産性は逓減すると仮定している。これは、労働者1人当たりの資本ストックが多くなればなるほど、その資本を維持するのに多額の資本減耗費が必要になり、総投資を資本の純増ではなく資本減耗分に割り当てなくてはならないからである。 つまり、1人当たりの資本ストックの初期水準が高い発展した国であればあるほど成長が鈍るということであり、ここで使う成長方程式では1人当たりGDPの水準と1人当たりGDPの成長率の間には負の相関があると仮定している。
表3 1人当たり実質GDP成長率と投資率(1972〜1982年平均)
注:1人当たりGDPは2000年物価基準・2000年為替レート適用・期中平均
表3はG7の1人当たり実質GDP成長率・投資率・1人当たりGDPである。この1人当たりGDPの成長率は10年単位の年平均成長率で、概ね潜在成長率と等しいと考えられる。このデータを使用して、成長方程式g=α0+α1i−α2yの係数を、重回帰分析により推定してみた。なお、分析に当たって1人当たりGDPを1000ドル単位としている。 推定回帰線 g(1人当たりGDP潜在成長率)=β0+β1i(投資率)+β2y(1人当たりGDP)
この推定結果から投資率iと1人当たりGDPの潜在成長率にはプラスの相関があり、投資率が1パーセント増えると潜在成長率を約0.09%押し上げる効果があることが分かる。
3、まとめと結論 ・ 防衛費の増大による総需要の増加は、物価水準の上昇で相殺される。 ・ 防衛費は貯蓄を減らす ・ 貯蓄の減少は投資を減少させる。 ・ 投資の減少は潜在成長率を低下させる。 ・ 防衛費の成長への効果はマイナスである。 短期的な需要増増大効果は最終的にプラスマイナスゼロであり、中・長期的には防衛費の増加は潜在成長率を低下させる。つまり、需要側から見た場合、防衛費の増大は確実に経済成長にマイナスであり、上記の一連のプロセスにより防衛費比率が1パーセント増えると、成長率を0.223%押し下げる。 ただし、これは需要側からの推定であり、防衛費の費用的側面しか考慮に入れていません。防衛費の便益や外部性といった供給側の効果は含まれていないので、その効果を含めれば結果は違ったものになるかもしれません。また、今回は先進国の推定であり、中進国や発展途上国では一般的に先進国よりもマイナスの効果は小さく、一部の発展途上国では防衛費は成長にプラスの効果を持つという研究結果もあります。
防衛費が増大した場合のシミュレーション 2−4のように防衛比率の増大は潜在成長率を低下させる。それではその押し下げ効果はどの程度のものなのだろうか? 現実味のある数字を当てはめてシミュレーションしてみた。 ○日本の防衛費のGDP比率を現在の1%から2%に増加させた場合 貯蓄率の押し下げ効果:2.507% 投資率の押し下げ効果:2.374% 1人当たり成長率の押し下げ効果:0.223% 2003年の実質GDPは約554兆円である。仮に今の潜在成長率を2%と仮定すると、防衛費を1%増やした場合の潜在成長率は1.777%になる。今後10年に渡って2つのパターンそれぞれの1人当たりGDPの推移を比較すると、表4のようになる。
表4 将来の実質GDPの推移
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| 上段:潜在成長率2%のケース 下段:潜在成長率1.777%のケース 単位:兆円
GDPに占める防衛費の割合が1%のままなら、10年後の2013年のGDPは675兆円である。ところが、GDPに占める防衛費の比率を2%に引き上げた場合、2013年のGDPは660兆円でしかない。これは、防衛費比率の上昇によって潜在成長率が低下してしまったためである。この需要側のシミュレーションによるとGDPに占める防衛費の比率を1%増やすと10年後には15兆円も生産・所得が減少することになる。
出所 ・ Military Balance 英国国際戦略研究所 ・ 米国商務省 ・ OECD(経済協力開発機構)
AD2004/11/02 Update |