「川とノリオ」から感想
  
「川とノリオ」は、戦争教材としてだけではなく、文学作品としての価値を重視して授業をしてきました。いろいろな個性(作品のとらえかた)を発見しました。


チャイさんは、作品の主題にせまる感想を書きました。 
 ずっと友だちだったノリオと川。今はちがう。ざんこくな川。ノリオの気持も分かってあげない川。川は、ノリオとずっといっしょにいた。ノリオのまわりから、1人ずつ消えてしまう。でも川は、ノリオのそばにいた。だから、ざんこく。ノリオのかなしみも楽しみも全部知っている。川は、ノリオの楽しい気持ちだけ流す。かなしい気持ちだけ残してしまう。川は、休まない。いつだって流れている。ノリオを現実にもどしてしまう。
 ノリオは、小さいころいろいろな物を流した。それは、みんな帰ってこない。母ちゃんも帰ってこない。ノリオの中の母ちゃんまで流してしまう川。川はきびしい。いつだってきびしい。なぜ川なのか。それは、川がいつも流れているから。川は、ノリオといつもいっしょにいるから。川は流れる。気持ちも流す。
  
         
ポチさんは鋭く作品をとらえています。
  初めての川。2才の川。夏の日の川。現在の川……。
 ノリオが初めて川と出会った時、それは母ちゃんの暖かいはんてんの中だった。その時の川は、ノリオにとっては母ちゃんが何かを洗う川。そんな川だろか。今は、小学2年生のノリオの記憶にはないだろう。
 2才の川……。それはノリオと遊ぶ川だった。川の恐ろしさに気付づき、川でないた。けれど、そんな時には、母ちゃんがいて、ノリオを助けてくれた。それでもノリオは、川に入った。幸せな2才の神様……。幸せという言葉は、その時しかノリオにはなかったと思う。
 夏の暑い日、母ちゃんは来なかった。ノリオは、ずっと待っていた。母ちゃんを、母ちゃんの手を……。川は、ノリオの心も流してしまったかもしれない。
 じいちゃんの子になったノリオ。父ちゃんは小さい箱。小学2年生のノリオは、やぎっ子の青い目玉を見、母ちゃんを呼ぶような、自分でそう感じた声を聞き、子どもの手を引いた女の人が遠くなるのを見た。それは、ノリオの手を引いた母ちゃんが、楽しい過去が、今のノリオをおいていってしまったようにノリオには思えたかも知れない。
 「母ちゃん帰れよう。」という言葉は、忘れないノリオの心の叫び。
 今の川は、時を流れる今の川で、友だちでも敵でもない川だと思う。そして、ノリオは、どこでもいるノリオなのだ。
 

帽子草君は、「戦争」という言葉の概念をしっかりと見つめています。
  作者のいぬいとみこは、なぜ最後に「サック、サック、サック、母ちゃん帰れ」と、ほんのわずかな希望を持たせるまで、ノリオを追いつめるのか。
 なぜ、父ちゃんだけでなく、母ちゃんまで、亡くならせるのだろう。なぜ、こうまでして、ノリオをどうしようもないようにしたのだろう。きっと、こんな事は、やさしい事のうちなのだろう。本当の戦争とは、もっともっととんでもない事が、日常の事で起こっていたのだろう。
 「川とノリオ」で、戦争の事で、戦争がこうまで恐ろしい事なんて思いもよらなかった。
 「川とノリオ」を読んで、これまでの「戦争」という考え方をあらためようと思う。軽んじた気持ちでは、「戦争」と言う言葉を使ってはいけないと思う。
 
シモン君は、自分の考えを言葉で表現することが得意です。
  「川とノリオ」はさりげない表現や身近にある言葉などを使って、ざんこくなイメージを出している。でもこのさりげない言葉などが、ノリオの気持ちや川のイメージを出していると思う。いつもの「悲しい」や「かわいそう」など、単純な言葉ではなく、このさりげない表現で、より戦争のこわさや、ノリオと川の関係がわかってくると思う。
 そして、この一つ一つの表現にこめられているのは、「戦争」だと思う。題は、「川とノリオ」だけど、テーマは、戦争と思われる。この戦争中にノリオと川の深い関係がわかると思った。
 川とノリオは、悲劇をそのまま大きくだしていることがぼくにはわかった。

    
ポテトさんは、豊かな表現力を持っています。
 はじめ、ノリオと遊んでいた川。時をきざむ川。すべてを知る川。
 この川は、ノリオの鏡でもあった。でも川は、ノリオの事なんてどうでもいい。
 はじめの(おいでおいで……だれにもつかまらないよ)は、ノリオの自由でだれにもつかまらない、とらわれない心。二才の神様。いつでも流れている川。
 でも母ちゃんは、帰らない。父ちゃんも。幸せだったあの日も帰らない。
 どこでもいるノリオ。こんな人は、どこでもいる。でも。でも。でも、これがあたりまえだった。昔は、こんなのとうぜんの事だから。
 それをあらわすのが「川」だと思う。川は、どんな時も流れ、どんな事だって見てきて。でも、こんなことはどこでもおきている。それを言うのは、やはり川だと思う。
 はじめは、よくわからなかったけど、今言うと、一番好きなのは、川です。川は、いつでも静かに流れ続けている。そういうところが、いつもノリオたちを見ているから。
 だからこの話は、好きです。




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