第2学年 算数科指導案
2004.10 ハラバード
1.単元名 乗法九九(2)
2.単元の目標について
● | 乗法の意味について理解し,それを用いることができるようにする。[A(3)] |
・乗法が用いられる場合について知り,それを式で表したり,その式をよんだりする。[A(3)ア] ・乗法に関して成り立つ簡単な性質を調べ,それを乗法九九を構成したり計算の確かめ を したりすることに生かす。[A(3)イ] ・乗法九九について知り,1位数と1位数との乗法の計算が確実にできる。[A(3)ウ] |
3.単元について(授業研究の時の内容とは異なり,一部変更したり,追加したりしてます。)
『小学校学習指導要領解説 算数編』には,「乗法九九は,以後の学年で取り扱う乗法の計算における基礎的な技能として欠くことのできない重要なものである。したがって,それを構成したり理解したりするに当たっては,体験的な活動や身近な生活体験などと結びつけるなどして指導の方法を工夫するとともに,どの段の九九についても十分に習熟し,確実に答えを求めることができるようにすることが大切である。」と明記されている(『小学校学習指導要領解説』,81〜82頁 )。
言うまでもなく,「乗法九九」は,「繰り上がりのあるたし算」「繰り下がりのあるひき算」と同様,基礎・基本となる欠くことのできない重要なものである。「技能」として確実に児童に身につけさせなけらばならない。同時に「技能」を獲得させるとともに,(累加としての)乗法の意味が,「幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍に当たる大きさを求める」(『前掲書』,82頁)ものであることも理解させていかなければならない。
「指導の方法を工夫」した例として,最近ではパソコンを積極的に活用したり,ゲームを取り入れて意欲化を図ったりした実践を多く見るが,本単元ではパソコンやゲームの活用は最小限にとどめ,あくまでも補助的な教具(ツール)としてのみ活用する。パソコンは,児童の興味付けを図ったり,児童の集中力を高めるためには,確かに有効である。しかし,数字(答え)を入力するのに時間がかかりすぎるという欠点がある。本来,「乗法九九」は,思考したり操作したりする間もなく(すらすらとキーボードを打つよりも早く),反射的に答えられるようにしておかなければならない。本単元では,パソコンやゲームよりも,技能を獲得させる手段として,計算カードによる反復練習や九九の暗唱指導に力を入れる。
その際,暗唱指導に偏りすぎてはならない。九九を唱えさせるだけでは,乗法を本当に理解したとは言えないからである。そこで本単元では,
・乗法の意味について理解させる
・反復練習及び暗唱指導で「乗法九九」を技能として確実に身につけさせる
の2点を強く意識し,技能獲得のため「九九を暗唱する指導」をしっかりと位置づけた上で,「乗法の意味について理解」させていきたいと考えている。
乗法の意味を理解させるためには,児童が課題を追究していく場面を工夫していく必要がある。そこでは,具体物や半具体物を効果的に活用するとともに,既習内容を生かして考えさせていきたい。
例えば,既習内容である「3+3+3……」のように同数累加の式は,項数が増えるとすぐには答えを求められない。しかし,かけ算では,3のいくつ分かが,明確な式(3×□)ですぐに求めることができる。こうした場面では,具体物・半具体物を補助的に使い,既習の数式を中心に理解を深めていくことが可能である。
算数では,一つの課題に対していろいろな方法で答えを追究してくことができる。
・考えやすい数に置き換えて立式し答えを求める方法
・具体物や半具体物を操作して答えを求める方法
・絵・図・表・線分図を利用して答えを求める方法
・既習の考え方を利用して答えを求める方法
など様々である。こうした方法を通して「乗法の意味」(前述)を理解させていきたい。
暗唱指導については,「7の段」に注意を払いたい。残念ながら,前掲の『解説』には,暗唱指導の際に生じる音声指導の難易度については何もふれられていない。これでは意図的に配慮をしない限り,どの段も同様な暗唱指導になってしまう可能性がある。
「乗法九九」の中での「7の段」は,国語において音声言語の指導をしっかりしてないと,発音がしにくいため,より多くの注意を払う必要があるという指摘がある。
<しち いち が しち> vs. <なな いち が なな>
<しち しち しじゅうく> vs. <なな なな しじゅうく>
上記のように「七」を「しち」と発音した場合と,「なな」と発音した場合を読み比べてみると,明らかに難易度が違う。
国語の授業で,「7の段」の音声指導をして,つまずきの多い「7の段」を克服したいと考える。
交換法則は,「乗法九九」の学習終了してから,指導することになっている。しかし,それぞれの段の学習で,交換法則について考えることができる場面があれば,簡単に触れていく。
【追加】
「乗法九九」は,今まで算数を苦手としていた児童にとってもやりがいのある単元である。「繰り上がりのあるたし算」「繰り下がりのあるひき算」では,それまでは理解するのに時間がかかる傾向にあったとしても,「九九」では,暗唱指導を確実にすれば,算数を苦手とする児童でも,即答することが可能である。そうした児童が,挙手した際には,機を逃さず指名し,さらに自信をつけさせたい。
算数を得意としている児童には,「乗法九九」の規則性を多く発見させることで,追究していく楽しさをより感じさせていきたい。
「乗法九九」は,学力差が生じ,算数が嫌いになってしまった子に対して,やり方しだいでは,自信を付けさせることができる単元である。特に導入時に,「体験的な活動や身近な生活体験など」(前掲)と結びつけて,学習に対する興味付けを工夫したい。
どの教科や領域でも,自分の考えを表現することは大切である。ノートは,討論の柱にもなると考えているからである。ノートには、自分の考えが書かれていることが大切である。引っ込み思案の子がいれば,赤ペンで○をつけるときに「いい意見だから絶対発表してね」と一言声掛けすると効果がでるため,必ず声かけをするように努めている。
久喜吉和氏は、「ノートへの記録は、あくまで、個性的なものでなければならない。」(『国語教育』'89 3月号)と述べた上で,「 一人ひとりの子どもの個性的な学習過程を記録したノートは、子どもにとってかけがえのない宝 物であると共に、教師のあらゆる指導の手立てを生み出す泉であって、これを無視した授業は成 り立たない。」 ことを言及している(『前掲書』)。随分前の指摘だが,授業ではいつもこの指摘を思い出すよう にしている。
4.関連事項
<省略…他学年で教える内容との関連性>
5.児童の実態
<省略>
6.指導計画
<略>
7.本時の指導(5/26)
(1)目標
・1そうに3人ずつ乗っているボートの8そう分の人数を求める場面を通して,3の段の九九を構成する。
・3の段の九九の答えは,3ずつ多くなっていることに気づく。
学習活動及び発問・指示・説明と児童の反応 | 指導上の留意点と評価 | ||||
1.本時の学習課題を知る。 | |||||
【学習課題】 1そうのボートに□人ずつのります。□そうでは、ぜんぶで何人のっているでしょうか。 |
・□には,1桁の数字が入る大きさで板書する。数字のかわりに,リンゴや梨の絵を入れるなどして,かけ算の式になることを考えさせていく。 | ||||
○ | □の中に数字を入れて問題を作ってみましょう。数字が□の数字が言える人は,発表して下さい。 | ・高学年になると,この□の数字が,分数や小数になると立式できなくなる子が増える。何算になるかを意識させたいため,□を使っている。 | |||
○ | 何算になりますか。 ・かけ算 |
・□人ずつ□そうだから,かけ算になることをわからせる。 | |||
○ | (発表した数字に対して)式を発表して下さい。 ・例:2×3 |
・適切な数字を入れた場合にのみ,□に数字を板書し立式させる。 | |||
○ | 言葉の式ではどうなりますか。 ・「ボートに乗る人数」×「ボートの数」 |
・かけ算になるとことを確認させる。 | |||
評)かけ算の式になることを理解できたか。 | |||||
○ | では,最初の□の中に3と書きなさい。 | ||||
○ | 何の段のかけ算になりますか。 ・3の段 |
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○ | では,次の□のなかに「8」と書いて下さい。 | ・「2の段」「5の段」では,常数が「1から9」までを課題として設定してきた。本時は,乗数を「8」にし,考える場面に時間をかけたい。 | |||
○ | 式を書きなさい。 ・3×8 |
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○ | 8×3では,だめですか? ・だめです。 |
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○ | どうしてだめですか。 ・8人乗りのボートが3そうあることになるからです。 |
交換法則は,後で習う。ここではこの場合の式について,3人ずつ乗ったボートが8そうあることを意識さたい。 | |||
○ | この問題の意味を考えると,「3人乗りのボートが8そう」だから,3×8が正しいですね。でも答えは,3×8でも8×3でも同じですね。「かけ算九九」の学習の最後の方で,かけ算の順番を入れ替える勉強をします。今日は,3×8で考えることにします。 | ||||
2.調べる方を確認し,いろいろな方法で課題を追究する。 | |||||
○ | どんな考え方で調べられますか。「やり方」をノートの書いて下さい。
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・追究するための「やり方」が見つからない児童には,まず「やり方2」で考えさせていく。それでもわからない場合にのみ「やり方1」で指導する。
・「やり方5」は,強要しない。児童の中から出た場合のみ本時では扱う。 |
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<やり方1>ブロック,数え棒などを使って考える。 | ・ここまでの学習を通して,どの児童も「やり方2」以上で理解できるので,「やり方1」にはほとんどふれないようする。 | ||||
<やり方2>絵や図に直して考える。 3×8 ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ |
・「やり方」が書けない児童には,まず絵や図に直す「やり方2」で考えさせる。 | ||||
<やり方3@>今までに習った式で考える。 3×8=3+3+3+3+3+3+3+3=24 |
・既習の内容であるたし算で考えさせる。 | ||||
<やり方3A>今までに習った式で考える。 3×1= 3 3×2= 3+3=6 3×3= 6+3=9 3×4= 9+3=12 3×5=12+3=15 3×6=15+3=18 3×7=18+3=21 3×8=21+3=24 |
・増えた分だけをたして考える(同数累加)。 ・関数的な考えである。乗数が1増すと積は被乗数だけ増すという考え方。 |
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・「やり方4」以降は,自由な発想で考えさせる。 | |||||
<やり方4>自分で工夫して考える。 例:線分図で考える |
・線分図は,この場合,倍概念的な考えである。ボートではなく,被乗数が長さの問題であれば,この考え方はわかりやすい。ここでは,あくまでも参照として載せておいた。児童から出ない場合は扱わない。 | ||||
<やり方5>自分で工夫して考える。 3+3+3+3+3+3+3+3=24 (6) (6) (6) (6) (12) (12) (24) |
・「やり方5」は,児童の発想にはないと思う。その場合は,教師が示すことにする。その際に,「やり方5」の中には,3の段以外のかけ算もあることも気づかせたい。気づく可能性があるので,その場合はその児童に発表させる。 6×4 (12×2) |
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・「やり方4」以上が考えられた児童には頑張りを認め,ほめて自信をつかせる。 | |||||
評)自分の「やり方」で課題について追究することができたか。 | |||||
3.調べた方法を発表する。 | |||||
・自分の考えとの違いや,新たな気づきがわかるように発表させていく。 | |||||
・発表の中で,それぞれの考え方の似ているところと違うところをはっきりさせていく。 | |||||
・発表の仕方及び質問の仕方についても指導していく。 | |||||
・発表の順番は,「やり方2」から行うようにする。 | |||||
評)友だちの発表が理解できたか。 | |||||
《補助発問例》 | |||||
○ | それぞれにきょうつうしてるものは,何ですか? ・かける数が1増えたり,減ったりすると,答えは3つずつ減ったり,3つずつ増えたりしてる。 |
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○ | どうして<やり方2>でしましたか? ・簡単でわかりやすいからです。 ・3つずつが何個かわかりやすいからです。 |
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○ | どうして<やり方3>でしましたか? ・式が短くてすむからです。 |
・「やり方3A」の発表があった場合は,乗数が1増えると3ずつ増えることを分からせる。 | |||
○ | どうして<やり方4>でしましたか? ・計算しなくてもすむし,線を引いたあとは,3つずつ増やせば簡単にできるからです。 |
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4.「3の段」を構成する。 | |||||
○ | 3の段の□に数字を入れてみましょう。 3× 1=3 3× 2=□ 3× 3=□ 3× 4=□ 3× 5=□ 3× 6=□ 3× 7=□ 3× 8=□ 3× 9=□ 3×10=□ |
・挙手の少なかった児童に指名し,自信をつけさせたい。 ・「やり方3A」の発表がなかった場合は,乗数が1増えると3ずつ増えることを,ここで分からせる。3×10も意識させる。 |
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5.まとめ | |||||
○ | では,今日の授業で分かったことや,思ったことをノートに書いて下さい。 | 3の段は,かける数が1増すと,答え(積)は3増す。 |
実際の授業では,すべてのやり方がでました。
上のやり方以外にも,「3×8」を「2×1+1×8」と考えて求めるなど,工夫した発表がありました。この学習では,3を「1と2」に分けて考えるという発想は,必要ないかもしれません。でも,その子が新しい方法を考えたということで,発表してもらいました。高学年になるにつれて,式をあれこれと操作して,課題を追究できるようになって欲しいと考えたからです。