ピラミッドからわかること
  (授業での「事実(史実)」の扱い方)

2007年度版(1997年度より修正しながら実践)


 歴史学は,ただ単に,何年にだれが何をしたかを問題にするクイズ的な学問ではありません。
 もっと考えることが楽しくなる学問です。
 そこで以下のような「歴史的遺物」からどんなことがわかるかを考える授業をしてみました。 


 西暦2500年の人は,東京タワー(東京電波塔)を見て,「1900年代(昭和)の人は鉄をむき出しにして,よくこんな高い建物を作ったなぁ。」と感心するかも知れません。 「タワー│がさびないようにどうやって赤いペンキをぬったのかなぁ。」と不思議がるかもしれません。
 このような建築物や古墳のように,当時の様子を物語ってくれるものを「歴史的遺物」として,子どもたちには教えてきました(まだ東京タワーは,「歴史的遺物」とは,呼べませんが……)。
※歴史的遺物の説明をしたあと下記の指示を出しました。
  歴史的遺物で知っているものを発表して下さい。

・スフィンクス
・ピサの斜塔
・法隆寺
・姫路城
・マチュピチュなど

  歴史学の考え方(歴史哲学)をちょっとでも理解しておくと「歴史的遺物」を見たときのとらえ方が大きく変わってきます。
 ちょっと「ピラミッド」で練習してみましょう。

 ピラミッドを見て,どんなことがわかりますか。
※ピラミッドの拡大写真を提示。他にピラミッドについては,岩波書店からいくつか出版されているものを授業では活用した。時間があれば,映画「ピラミッド」の活用も効果的かもしれない。

 1…長い年月が必要だろう。
  2…強い権力を持ったリーダー(王)がいただろう。
  3…大勢に作らせたのだろう。
  4…計画的に作ることができる組織ができていたのだろう。
  5…たくさんのくさらない食料をもっていたのだろう。
  6…石を運ぶ乗り物があっただろう。
  7…石を正確に切り取り,積み上げる技術があったろう。(『ピラミッド』参照,岩波書店)
  8…事故で怪我をする人がいただろう。ということは,医者がいたかもしれない。
  9…大きく造り,自分の力を見せ付けようとしたかもしれない。
 10…こんなに大きな物を造らせるということは,税金を高くとったかもしれない。
 11…仕事がいやで逃げ出す人がいたかもしれない。
 12…人手を得るために回りの国に攻めて奴隷をとったかもしれない。
 13…人を力で使うため武器を持った人がいただろう。
 14…宗教の力でこんなに大きな物を造らせたのだろう(マックス・ウェーバー的)
 15…ムラではなく,巨大な国家が造ったかも知れないなど

※自由に発表させる。子どもたちからは,「大きい」「石でできている」等の意見が最初は多く出てくることが予想される。ヒントを上手に与えながら,ピラミッドからわかる上のようなことにも気づかせていきたい。
※ 古い文献だが,大学時代に読んだ神山四郎著『歴史入門』(講談社現代新書)の指摘を今でも重視して授業をしてきた(下記参照)。
「ピラミッドそのものを歴史の事実とは言いません。それをいつだれがどうやってつくり,なんのために使い,それをめぐって古代エジプトの社会にどういうことが行なわれたのかという,人々のさまざまな行為が事実といわれるのです。」 (『歴史入門』講談社現代新書,P.59)。

 授業では,
  
・「クフ王がピラミッドを造った。」
  ・「ピラミッドは,石でできている。」

よりも,
  
・クフ王は,強大な権力と宗教の力と莫大な予算……で,ピラミッドを造った。
のような考えが出るようにつとめてきました。
※上記の紫色のような記述は,神山氏は「基礎的事実」として,「史実」と区別している。

 

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