永井紗耶子
「恋の手本となりにけり」

第11回小学館文庫小説賞を受賞した「絡繰り心中」を改題。永井さんのデビュー作。
デビュー作品には、著者が基本的に持っているものが出ると思うので、それが面白かったら、きっと、その後も面白いものを書ける作家なのではないかと考える。
本作も面白く、すらすらと読めた。
私は時代物は得意じゃないが、文章が上手なんだろうね。
旗本の筋なのに、江戸に単身出てきて長屋暮らしをする金四郎。舞台で笛を吹いたりして日銭を稼ぐ。
あとで、遠山という苗字が出てきて、…遠山金四郎…なんか聞いたことあるな?と。え、あ、そうなのか?
花魁の雛菊が斬られて死んでいるのを見つけた金四郎は、その一件について調べてみることに。
文人、狂歌師で役人の大田南畝、絵師の歌川国貞らの力を借りながら、真相に迫る。
武士、町人、花魁の身分の違い、世間の決め事(からくり)の非情さ、己の行いが正しかったのか否か…そういった悲しさや虚しさが胸を突く。
「恋の手本となりにけり」とは、「曽根崎心中」の結びの言葉で、心中という恋の形が、多くの人々の手本になった、ということだそうだ。〔2012・9・29(土)〕

「旅立ち寿ぎ申し候」
熱い思いに満ちた、幕末青春ビジネス小説!
と、うまい宣伝文がamazonにあったので、使わせてもらった。まさに、そのとおり。
1作目の「恋の手本となりにけり」に続いて、永井さんの本を読んだ。
今度は、江戸時代の商人の話。
これがまた、おもしろくて、どんどん先を読みたくなるのだ。
時代小説が苦手でも、だいじょうぶ。
まず、始まりから、上手い。主人公の勘七を有名な事件に遭遇させて、読み手の気持ちを、ぐいと引き込む。
順調に商いをしてきた店でも、幕末は経済も政情も不安定になっていき、さまざまな困難に面することになる。
現在の日本の先行き不透明な状態をも思わせる。
著者は「激動の時代を生き抜いていく商人の気持ちを描きたかった」という。
勘七が、浜口儀兵衛や勝麟太郎といった実在した大物と知り合うあたりも、興味を引く。
結果として、いろいろとハッピーエンド的になっているけれど、それは「話があまい」というよりも、ああ、よかったねえと思えて、うれしいのだ。
この人の3作目が待たれる。〔2012・10・8(月)〕

「横濱王」
以前、永井さんの作品を2冊読んで、いいなと感じていたのを、自分のブログ記事を読んで思い出した。生糸を商った横浜の実業家、原三渓。主人公の男が原三渓の評判を聞いて回るところは、三渓の紹介的な物語とも思えるが、震災、戦前・戦後の時代を主人公がどう生きていくのかを丹念につづっていく読み心地は好き。三渓園、デートで行ったなあ…。彼女の作品は、もっと読んでみたい。〔2017・9・26(火)〕


長岡秀星
「迷宮のアンドローラ」

何十年も昔に、古本販売のラックで見つけた本。やっと、全部ちゃんと読んだ。小泉今日子さんがイメージソングとして歌った曲のほうが有名ではないだろうか。〔2020・4・17(金)〕


長岡弘樹
「教場」
警察学校の話。こんなに厳しいとはね。鬼じゃん。しごきじゃん。こういうの嫌いなので、気に入らない。ドラマになったんだっけ、当然、見なかったけど。〔2020・8・11(火)〕


永倉新八
「新撰組顛末記」

新選組二番隊組長だった永倉新八が、大正になってから小樽新聞に連載した、新選組での体験の回顧録。NHK2004年の大河ドラマ「新選組!」を思い出しながら読んだ部分も。渦中に存在した本人によるものだから興味深く読んだ。〔2015・7・24(金)〕


中田耕治
「マリリン・モンロー論考」
「マリリンを愛した最初の男(ひと)」。
別紙解説で、マリリンを描きつづけた画家であるスズキシン一さんが、著者の中田耕治さんについて書いている文章のタイトルだ。
中田さんは、ご自分で書かれてもいるが、世界で2番目に早く、マリリンの評伝を書いているらしい。(1番は、モーリス・ゾロトウ。)
1953年の「ナイアガラ」公開時は、マリリンは『嘲笑と好奇の目で見られてい』た。『白痴的な¥覧Dとして』見ていた批評家もいた。(『 』内は本文引用)
そんななかで中田さんは、マリリンには何かがあると思い、関心をもち、評伝を書いてみたいと考えはじめた。
雑誌に伝記を連載中、当の彼女が亡くなり、その時点で本にされたのだった。(この「マリリン・モンロー論考」は、その本とは違う。)
マリリンが亡くなったニュースが伝わった日も、新聞社から依頼を受けて、その日の夕刊に原稿を書かれている。
現在はマリリンには関心はないようだが(ネット上のインタビューで、そのような趣旨の発言を読んだことがある)、まさに日本でのマリリン評伝の先駆けなのだ。
日本マリリン・モンロー クラブの名誉会長、亀井俊介さんの著書「マリリン・モンロー」(岩波新書、1987年)を、『日本人が書いたもっともみごとなマリリン・モンロー論と思われる』としているのも嬉しいところ。
1991年に出版された、この本を私は古書店で買った。通常の販売ルートには、もう乗っていないようだ。惜しいことである。〔2010・10・16(土)〕


中村文則
「去年の冬、きみと別れ」

2014年本屋大賞第10位。映画になったときに聞いたことがあるような題名だったので、借りてみた。ん、そうなんですか、と思いつつ読み進めたが、それほど驚きなどはなかったねえ。〔2019・6・14(金)〕


中脇初枝
「世界の果てのこどもたち」
2016年本屋大賞第3位。戦時中、満洲に移住した一家の娘・珠子は、朝鮮人の美子、横浜から来た茉莉と友達になる。戦争のなかで翻弄されつつ生き抜く3人の運命は。満洲からの引き上げ描写の悲惨さ。横浜への空襲。祖国を捨てざるをえない境遇…。戦争は人の一生を変える。素晴らしい感動作。〔2019・4・17(水)〕


梨木香歩
「西の魔女が死んだ」

登校拒否の中1少女が、おばあちゃんの家でしばらく暮らす。おばあちゃんは日本人と結婚した外国人で、いまは一人。ていねいな田舎暮らしとおばあちゃんの愛情で、少女の心は…。すごくいい。好き。〔2021・1・26(火)〕


夏目漱石
「硝子戸の中」
これも薄い本。たまには、すっげー文学的なのを、と多少思い。晩年の身の回りに起きたことを新聞連載随筆に。人の訪問のことが多かったような。あの人、この人、亡くなったという話がよく出てきて、人生の終盤って、そういうもんだよなあ、なんてことも、つらつら。〔2022・1・26(水)〕


ナンシー・ワーリン
「危険ないとこ」
エドガー・アラン・ポー賞受賞作。あやまって恋人を死なせてしまった青年が、叔母の家に下宿するが、叔母の娘が青年を異様に敵視して…。物語の切り口が新鮮。〔2019・12・29(日)〕


新津きよみ

「トライアングル」

小学生の頃の同級生の女の子の死を忘れられず、刑事を志した男。事件の興味というよりも、人間をどう描くかを読む話でした。人ひとりの生死は多くの影響を及ぼしますよね。〔2017・6・7(水)〕


西 加奈子
「きりこについて」
表紙を見て、中をちらちら見て、きりこはぶすである、なんて書いてあるから、てっきり、きりこは猫のことかと思ったら、違った。自分は自分で価値がある。猫のラムセス2世ときりこの会話が楽しい。ユーモアと真実のある快作。〔2015・6・13(土)〕


西川美和
「永い言い訳」

2016年本屋大賞第4位。あ、映画監督だけど本も出してたんだ、と知り、読んだあとには、あ、自分で映画にもしてたんだ、そのうち見てみよう、と思った。事故が起きて主人公が、妻の友人の家族と関わりはじめると、がぜん面白くなった。家族って?〔2018・7・5(木)〕


西澤保彦
「念力密室!」
図書館で適当に見つけた。講談社NOVELSのミステリ。
神麻嗣子(かんおみつぎこ)という美少女が登場するシリーズの短編集。
これが、なんと、超能力がらみの密室推理なので、ちょっと変わってる。
嗣子は、超能力問題秘密対策委員会出張相談員・見習。という肩書き。
しかも嗣子のキャラが、天然のぶりぶりぶりっこで、まるで漫画なのだ。
そして、美人警部とミステリ作家との3人で、不思議な三角関係に。
嗣子のフィギュアまであるってんだから、そうとうなもの。
自分としては、もうすこしこのキャラたちを見てみようかなと、2冊目を検討中。〔2002・7・8(月)〕

「幻惑密室」
神麻嗣子(かんおみつぎこ)の超能力事件簿、長編第1作。
不思議なことがあっても、それは超能力だから、なんとでもなるので、推理というかSFだ。今回はその能力が1時間しか続かないとか、もっともらしい作り事の理屈があって、なにか面白くないし、どこか幼稚っぽい印象も。
嗣子ちゃんのキャラは可愛いのでいいのだけど。〔2002・7・15(月)〕


沼田まほかる
「ユリゴコロ」

2012年本屋大賞6位。タイトルからして、「百合」関係なのかと思ったら、もっとキラーでした。終盤の流れで少し感動ものになっているからだろうけど、本屋大賞に入ったのは意外な気がする。著者の名前、どろどろの、魔法の、マジカルなイメージが(笑)。〔2018・11・25(日)〕


法月綸太郎
「生首に聞いてみろ」
図書館で見かけて、あ、これは噂を聞いたことがある本だと借りてみた。生首に聞いたわけではない。
作家で探偵役の人物が著者名と同じで、彼の父親が警察の現場を仕切るお偉いさん、というところで、あ、これはエラリー・クイーンと同じ形を取っているぞと気づいた。
推理ものだが、全般的に描写が細かい。たとえば、どんな電車に乗って、どう乗り換えて、なんてことも書いてあったりする。
でも、そのおかげで、分倍河原駅で乗り換えて、京王線で府中というパターンが、私がつい最近、映画館に行くのに使ったルートと同じで、なんだか、うれしかったりして。
「このミステリーがすごい!」の1位らしいけど、ああ、これがですか? という気がしないでもない。地味で平板だし、じんわりする満足感のようなものがない。人間味が薄い感じもする。
生首が出てきたとき、あの人でありませんようにって願ってたのに、そうはならなくて。それまで本のなかで、おなじみになっていたキャラクターが被害者だと、悲しくてしょうがない。探偵は何をやってたんだ、となる。
殺人を防げずに、あとから殺人者を捕まえる、というのは海外の推理ものでも普通にあることだけれど。そういう場合、名探偵じゃなくて、迷探偵じゃなかろうか。
とはいえ、先を読みたくて、ずんずんと読むスピードは上がっていた。〔2010・3・20(土)〕


ノルベルト・ジャック
「ドクトル・マブゼ」

映画にもなった小説なので読んでみた。怪人マブゼ博士に立ち向かう検事ヴェンク。わりと楽しめた。映画も見てみようか。〔2017・11・12(日)〕