行ってきました四万(しま)温泉。(四万温泉report)


不定期連載第1回(10/18up)

 さあさ、それでは今年も去年と同じように書いてみましょうか。
 ひと月経って、これ以上ほっといたら自分の書く気がなくなりそうだし。去年同様の温泉行だから、似たような話になりそうで面白くないかもしれないけれど、とにもかくにも出発進行。

9月18日(木)

 朝10時発、最寄の東武東上線ボー駅、もとい、某駅から朝霞台駅へ。隣接する武蔵野線の北朝霞駅から南浦和駅に向かい、そこから京浜東北線に乗り換えて大宮駅へと到着。高崎線にて高崎駅へやってきた。
 ここで吾妻線に乗る。ちなみに、伊香保、草津へ行くのも、この路線なのである。
 
恒例の、のんびり一人旅に特急電車は使わない。


 あくまで普通電車の旅、省マネー、省スピードである。
 中之条駅で降りると、駅で温泉案内をすると窓口に書かれているので聞いてみると、案内図をくれた。温泉協会に電話して、泊まれる宿を紹介してもらう。事前にネットや本で調べてはいたのだが、予約はしていない。平日、しかも時期的にも混むときではないから、予約せずに来たのである。ほんとうに、ふらりとやって来た感じを自ら味わう筋書きといえば洒落ているが、じつは、いい加減なだけである。
 駅から電話で、1泊目は、値段が安くて、こぢんまりしていそうな、温泉郷のいちばん奥のほうにある宿を、2泊目には、太宰治や井伏鱒二などの文豪も泊まったという、風呂の種類が多い宿を、一気に予約した。結局、どちらも、本でチェックしていた宿だった。

 2時30分発の、四万温泉行きバスに乗る。揺られること約40分。終点は温泉郷の中間地点。1泊目の宿は、ここからもっと奥にある。
 降りるときに料金を払おうとしたら小銭がない。千円札もない。両替しようと思ったら、なんと、五千円札や一万円札ではできないらしい。運転手さんも私もお互い困った顔を見合わせること、しばし。やがて、運ちゃん、のたまうことには、

「じゃあ、帰りに一緒に払ってください」

 え、そんなんでいいのか? たぶん、帰りの運転手は違う人のわけだから、私が帰りに払うとは限りませんよ、と言ってみたが、まあ、いいらしい。なんとなく、呑気な温泉町の雰囲気を感じさせる話ではあった。

左:四万温泉郷入口。右へ曲がれば温泉郷だ。

右:道から見下ろす四万川。クリックで拡大。




 さあ、降りたら、ここから歩く。バスで着いたら、宿へ電話すれば迎えに来てくれるとは言っていたが、景色を見ながら歩くのが楽しいのだ。なにより、急いでいない。「歩くのイヤだ〜」と駄々をこねる連れもない。
 左手に四万川の清流を見下ろしながら歩く。気持ちがいい。


左:ゆずりは飲泉場。飲むと胃腸病、慢性便秘、肥満症、糖尿病、胆石に効くという。ホント?

右:小泉の滝。四万川と日向見(ひなたみ)川が合流する場所。道路沿いから滝が見られる。クリックで拡大。

 ゆずりは飲泉場、小泉の滝などを過ぎ、1日目の宿、「中生館」に到着だ!


四万温泉郷の奥にある、「中生館」の正面風景。






(つづく)


不定期連載第2回(11/22up)

 第1回から、ずいぶんと間があいてしまったものだ。今年じゅうには終わらんかもしれん。
 「中生館」、けっこう古い。部屋も1人用の、昔のままの歴史を感じるような「岩つばめの部屋」。木でできた観音開きの鏡台がある。トイレが別で、廊下の向かい側にある。…古い。
 窓を開けると、すぐ下を流れる川の流れの音がうるさいほどだ。日常と違う場所に来ている実感がして、いい。
 窓から川を見下ろすと、川向こうにある露天風呂が丸見え! うーむー、うかつに外を眺められないぞ。といっても、来るのは男ばかりなり。(見てるじゃんか!…って、たまには外の景色も見るさ。)


               右:純和風な「岩つばめの部屋」。

             左:部屋の窓から露天風呂が見える。



 その露天「かじかの湯」に入る。頭上は木々の緑、横は川。秋は紅葉になって綺麗だろうなあ。
 この宿は、他にも露天風呂があって、「かじかの湯」は、そこから、何と、吊り橋を渡って川の対岸に行って入るのだ。
 仲居さんが、

「くれぐれも石の通路の上を歩いてくだされや、土の上を歩くってえと、ヒルに噛まれっちまうからな、ほっほっほ」

 と口調は大嘘だが、そのようなことを言っていた。どうやら、血を吸うヤマビルがいるらしい。そいつが地面にいるというので、歩くのは気をつけた。



「かじかの湯」。自然に抱かれて、ゆったり気分に。
右写真は
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 夕食は、やっぱり和風に。さけの塩焼きや、天ぷら、刺身、野菜や海老の煮物、野菜と肉の鍋、など。
 6時すぎから雨が降ってきた。宿のご主人に聞くと、このところ毎日降るが、すぐに止むという。そのとおり、しばらくしたら雨は止んだ。山の天気というものなのか。


                                夕食の膳。クリックで拡大。




 夜も、何回か、ゆっくりと露天に入って過ごす。ある本によると、温泉に入るのは1日2回くらいが適当とあった。私はそんなことお構いなしである。あんまり入ると、疲れていけないというのかもしれないが、本人が疲れていないのだから、いいことにする。

9月19日(金)
 
 朝、6時半に目が覚めて、さっそく露天へ。我ながら好きだよなあ。1年分入りだめしようってのか。
 夕食にご飯3杯食べても、朝には空腹で、お腹がグーグーいっている。やはり温泉に浸かるのに体力は使っているらしい。
 待ちわびた朝食は、ししゃも、納豆、えんどう豆の煮付け、温泉卵、サラダなど。
 食後もまた、しばらくしてから風呂へ。チェックアウト時間の10時近くまで滞在していた。

(つづく)


不定期連載第3回(11/29up)

 宿のそばに、「日向見薬師堂」がある。室町時代・天文年間のものを、江戸の昔、慶長3年(1598)に建て直したという。重要文化財になっている。
 「中生館」のパンフレットを読んで、約40分のハイキングコースだという「麻耶の滝」へ行ってみようと歩き始めた。
 この滝は、麻耶姫という美しい娘が、立派な若者と出会ったという伝説のある滝。

 左:「日向見薬師堂」 中:サルがいるのかい! 右:ヒルがいるのかい! クリックで拡大。

 サルにエサをやってはならぬぞえ、という注意書きに続いて、遊歩道入口には、「落石が…」「橋に穴が…」「吸血ヤマビルが…」と、背筋も凍る、恐ろしすぎる注意書きが! これじゃ、ハイキングコースなんて楽しそうなものじゃないじゃないかってば!
 と思っていると、ちょうど、係員が巡回に来て、目の前で食塩水のチェックを。ヒルがいるから、これをズボンの裾や靴に塗っていくといい、と言う。
 ようし、分かった。とにかく、行ってみようじゃないか。後には引けぬわ。1.8キロメートルの行程、たいしたことあらへん。
 ところが、これが想像したよりも、すごい山道。ちょっとふらついて横へ行ったら、谷底へまっしぐらに落っこちるべさ。
 引き返すのも、めっちゃ悔しいので、前進あるのみだ。

 しばらく行くと、何かの音がした。10メートルほど先の道のところを、

黒いものがザザッと左の谷底から登ってきて視界を横切った。一瞬、目がテンに。ク、クマだっ!

 次の瞬間には、また目の前を横切って、谷を駆け降りていく。しかも今度は、小さいクマが後について降りていった。
 いきなりのことでびっくりしたが、なにしろ、驚かせたら危険だろうと瞬時に思って、その場に立ち止まっていた。
 クマの姿が消えてからしばらく待って、歩き出した。クマが横切ったところに近づいていくのだから、また出てくることはないよな、と多少ヒヤヒヤしながら。

 後で考えたのだが、きっと母グマが、人が接近する気配を察して、道から少し上のところで遊んでいた子グマが危ない、と思って連れに来たのだろう。
 サルやヒルどころか、クマがいるのかい!
 おー、こわ。でも、めったにできない経験だった。野性のクマと出会うなんて!(めったにできるわけないよな。)
 こんなところを、ハイキングコースでございます、なんて呑気にしていていいのだろうか、という疑問もあるが、害のないクマなのだろうか。森のクマさんみたいな。うーむ。


     左:こういう山道が続く。左側は奈落の谷底だっ!
             右:山道の奥に現れた「麻耶の滝」




 やっとこさ「麻耶の滝」に着く。ごうごうたる滝の音。森の奥。他の音はない。下を覗くと落っこちそう。吸い込まれそう。なにやら怖い気もしてきて、写真を撮ったら、即、引き返すことにする。歩きにくい道に、ヘロヘロになりながら、ようやく脱出。
 次は「四万川ダム」へ。かなり歩く。足が鍛えられるぜ。
 ダムからの景色を見たあとは、本日の宿のある、四万川下流の温泉口のほうへと歩きだ。
 途中、数ヵ所ある共同浴場に寄っていく。まず、「中生館」の近くにある「御夢想の湯」。おじさんが3人入っていて、狭い場所がなおさら狭い。草津でもそうだったが、共同浴場の湯は熱いのが普通らしい。とても熱い湯で、私なんかは1分も入っていたらギブアップだ。
 「河原の湯」「上の湯」と寄り道しつつ、歩く。そして、「山口露天風呂」へ。


左:「四万川ダム」
右:「河原の湯」の建物。





 「山口露天風呂」は、河原にあって、道路からも周囲のホテルや旅館からも見えるが、ついたてもあるので、あまり気にならないだろう。きのうの「中生館」の露天風呂もそうだが、川のそばの露天風呂というのは、自然を感じて、とても気分がいいのだ。


    「山口露天風呂」。右の写真はクリックで拡大





 40分あまりも、ゆったり半身浴?をしている間に、やってきたお客は男が3人。さすがに女性は入りにくい場所か。
 
 さて、きょうの宿は「湯元四萬館」。獅子文六が「ノンキな宿」と評したそうだ。
 チェックイン開始の午後3時に合わせて到着。



左:「湯元四萬館」正面。
右:玄関わきにある、この人形はいったい…? 
クリックで拡大。




(つづく)


不定期連載第4回(3/14up)

 湯元四萬館は、風呂の数が多い。正確ではないかもしれないが、貸し切り風呂が6つ、露天が2つ、大浴場が1つ(中に、立って入る深い「立湯」もある)、女性用風呂が2つ、それにプールがある。
 ここの貸し切り風呂は、誰も入っていなくて空いていたら、鍵をかけて入ればいいという形の風呂。だからカップルの混浴でもいいわけだ。実際の話、見かけるのは若いカップルが多くて、うらやましいことこのうえない。こいつら、金曜日なのに、仕事はどうしたんだろう、もしかしたら学生なのかも、学生の分際でこんな贅沢な遊びしてんのかよ、などとジェラシー(?)を感じたりして。


         左:貸し切り風呂のひとつ、「野うさぎの湯」。
  右:その湯舟から川の景色が見える。半露天で気分よし。
    「鹿の湯」「河鹿(かじか)の湯」も同じ形態の風呂。




 わざわざ風呂場にカメラを持ち込んだりするのは面倒くさいし、なにやら、うしろめたいような気もするが、これもレポートのためだ。
 入浴可能な9つの風呂場完全制覇をめざし、とにかく、空いている風呂を巡りまくる。そのさまは、まるで、入らない風呂があったら心残りだ、とでもいうべき飢えたオオカミのようだ。(ちょっと違う)

左:丸い形の風呂桶がユニークな「そよかぜの湯」
右:「風の谷」。湯舟の左側は川。
どちらも半露天だ。





 夕食は、食堂で。若いカップルが10組くらいもいるだろうか。このように集合されると、いちゃいちゃムードが、じつにうらやましい。
  
 
次回は、必ずカップルで来てやるぞ!

 と心ひそかに誓うのだった…。

 食事の内容は豪華。部屋に戻って、必死に思い出してメモしてみた。(そこまでしなくても…)
 グラスのブルーベリーワイン、鯉のあらい、鮎の塩やき、さばの酢の物、広島葉(初めて聞いた)を巻いた煮物、すきやき、茶碗蒸し、天ぷら、海老と卵の○○(なんていうのか分からん…)、豆腐の煮たもの(?)、こまごました盛り合わせ、菜っ葉(なんだそれは?)、みそ汁、ご飯、そしてデザートが、黒豆と白玉のきなこあえ。
 食うのに1時間かかった。ふう。すごかった。
 食事をする人それぞれのペースに合わせて、順々にメニューが提供される。温かいものは温かいうちに出すわけだから、これはどうしても部屋食の形は無理なのだ、と理解できた。


     左:「文人の湯」。離れにある、多きめの露天。
  右:「河童の湯」。川の隣にある露天。爽快度満点。
         右側が川、左側が温泉。
クリックで拡大。



 小雨の中、露天に行く。「文人の湯」へは、下駄を履いて歩いていく。風情あります。
 「河童の湯」は、階段を下りていき、露天の岩の上に浴衣を脱いで入る。ここは水着でもOKだが、もちろんそんなものは着ない(男だし)。開放感いっぱい。こういう露天はいちばん好きだ。

9月20日(土)

 朝食は和食。鮭の塩焼き、ゆで卵、うどん、海苔、ほうれん草のおひたし、レタスやトマトなどのサラダ、漬け物、みそ汁、ご飯など。

 チェックアウトして、温泉郷の中間地帯にあるバス乗り場の始発地点まで、ぶらぶらと歩く。
 運転手は行きとは違う人だったが、バスを降りるとき、ちゃんと行きの分も支払った。真面目だなあ、自分。
 電車待ち時間を喫茶店でつぶし、ようやく車中の人となり、今年の温泉三昧の旅は終わったのであった。

(完)



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