ロスト・イン・トランスレーション

LOST IN TRANSLATION
脚本・監督 ソフィア・コッポラ
出演 ビル・マーレー  スカーレット・ヨハンソン  ジョバンニ・リビシ  アンナ・ファリス  竹下明子  マシュー南(藤井隆)  田所豊(DIAMOND☆YUKAI)  林文浩  HIROMIX(利川裕美)  藤原ヒロシ
撮影 ランス・アコード
音楽 ブライアン・レイツェル  ケビン・シールズ
編集 サラ・フラック
衣装 ナンシー・スタイナー
2003年 アメリカ作品 102分
ナショナル・ボード・オブ・レビュー…作品トップ10 第6位・特別賞(ソフィア・コッポラ)
全米映画批評家協会賞…主演男優賞(ビル・マーレー、主演男優賞受賞者は以下同じ)
ニューヨーク映画批評家協会賞…監督・主演男優賞
ニューヨーク・オンライン映画批評家協会賞…作品・監督・主演男優・助演女優(スカーレット・ヨハンソン)賞
ロサンゼルス映画批評家協会賞…主演男優・ニュージェネレーション(スカーレット・ヨハンソン)賞
オンライン映画批評家協会賞…主演男優・脚本賞
サンフランシスコ映画批評家協会賞…作品・主演男優賞
シアトル映画批評家協会賞…監督・主演男優・脚本賞
サウスイースタン映画批評家協会賞…トップ10 第3位・主演男優・脚本賞
ボストン映画批評家協会賞…監督・主演男優・主演女優(スカーレット・ヨハンソン)賞
シカゴ映画批評家協会賞…主演男優・脚本・撮影賞
フロリダ映画批評家協会賞…脚本賞
ダラス・フォートワース映画批評家協会賞…ベスト10 第4位
ライターズ・ギルド…脚本賞
AFI(米国映画協会)…トップ10
ゴールデン・サテライト賞…作品・主演男優・脚本賞
トロント映画批評家協会賞…作品・主演男優・脚本賞
バンクーバー映画批評家協会賞…作品賞
英国アカデミー賞…主演男優・主演女優・編集賞
ゴールデングローブ賞…作品・主演男優・脚本賞
アカデミー賞…脚本賞 他
評価☆☆☆★

ラストシーンがいい。
その場面を、自分のなかで解釈したとたん、涙が出るほど力づけられる。
いまのままの自分でも、だいじょうぶなんだよ、と、前向きな姿勢になる。
ラストシーンの演出の工夫は、洒落ていて、効果満点である。
このシーンがあってこそ、映画全体が生きた。

異国の地で感じる寂しさ、疎外感がよく出た映画だ。
東京に仕事でやってきたアメリカ人の映画スターと、カメラマンの夫について日本にやってきたアメリカ人の若妻。この2人の出会い。
アメリカ人(というか、ソフィア・コッポラ監督)から見れば、東京の街はこう映る、という一例を見ることができて面白い。

アメリカ公開では、日本語の場面に英語字幕が出ないそうで、観客も映画の主人公と同じく、日本語で何を言っているのか分からないという体験をした面白さがあっただろう。
残念ながら、日本人観客には日本語が分かるので、そういう体験にはならない。異国体験ができないところが、ちょっとつまらない。

映画スター役のビル・マーレーのとぼけた持ち味が生きている
ソフィア・コッポラは、ビル・マーレーを念頭において脚本を書いたそうで、彼が出演を承諾しなかったら、この映画、出来あがっていなかったのかも。
ビル・マーレーはサントリーのCM撮影のために東京に来ている。日本のCMはギャラがいいらしいから、数日間でいい金になる仕事である。
CM撮影時の、日米間意志疎通の適当さが可笑しい。日本語指示をろくに英訳しない通訳。そんな奴に仕事させていいのか、と思うくらい。ビル・マーレーに「もっと何か言っていたような気がするが?」とまで言われていた(笑)。
かと思えば、和製イングリッシュめいた言葉を連発するカメラマンがいる。
007のロジャー・ムーアみたいなポーズを、というのに対して、ビルが聞き返す。ロジャー・ムーアって言ってるのかい? ああ、分かった。
どうやら、カメラマンの言葉の、LとRの発音の違いが、うまくいっていないらしい。Rは巻き舌っぽく発音するんだっけ?

もう一方の主役、スカーレット・ヨハンソンは、綺麗な女優である。
私が彼女をはじめて映画で観たのは、たぶん「ゴーストワールド」。ソーラ・バーチと仲良しの女子高生役で、北欧美女的顔立ちの美しさが印象的だった。
次に観たのは「バーバー」。コーエン兄弟の監督作品だ。ピアノを弾く清楚な美少女が、ビリー・ボブ・ソーントンに、いきなり車の中で×××しようとした場面はインパクトがあった。

スカーレットの夫は仕事で出かけて、彼女は、いつもひとりでホテルで留守番。
つまらない。寂しい。
彼女は、行き詰まりを感じている。
周囲の人間たちの言葉が分からない異国の地にいることが、孤独感を増している。
スカーレットとビルは、ホテルのバーで知り合う。
東京の夜の街に出て遊んだりするのだが、やっぱりカラオケは行くんだなあ
アメリカでも流行りのkaraokeの本場だからね、日本は。
スカーレットとビルが、日本人の友人たちと一緒に繰り出したカラオケで、スカーレットが歌ったのは、プリテンダーズの「恋のブラス・イン・ポケット」(Brass in Pocket)。お洒落だなあと思った。私自身も好きな曲で嬉しかったのだが、映画にもスカーレットにも合ってる感じ。

お互いの心の隙間を、微妙に暖めあうような、なにげなさが心地よい。
2人とも、独り身ではないせいもあるのか、簡単にくっついたりしないのがよかった。
ビル・マーレーの滞在期間の残りが少なくなってくる。それでも、事態は急に進展はしない。
ただ、残りの時間が少なくなっていくだけ。
本当は、そういうものだろう。一気に何かが起きるのは、映画かドラマだ。(あ、これは映画か。)
別れるときだって、あんなものだろう。
それが、ラストにああなったから、ズンと心に響くのだ。

藤井隆が、マシュー南として登場する。テレビの深夜番組「Matthew's Best Hit TV」にビル・マーレーが出演するということらしい。
私は実際のそのテレビ番組を見たことがない。だから、マシューがどんな人物設定なのか、まったく知らない。そのうえで言わせてもらうが、この映画でのマシュー南なる人物の印象は、能天気なおバカだ。それしかない。なんなの、あれ? である。申し訳ないとは思うが、それが正直なところだ。

ソフィア・コッポラ監督の、スケッチ風な浮遊感のある映像センス。メジャー系の、ある一定の重さを持ったような映画ではなく、インディペンデント系の軽やかな匂いがぷんぷんする作品だ。

この作品、なんだか分からないけど寂しい、というときに効く映画かもしれない。
「ロスト」とは、つまり、失うという意味だが、タイトルの「翻訳によって失われる」のに加えて、人の感じる喪失感そのものがテーマなのではないだろうか。

異国の地での、ひとときの偶然の出会い。
大勢のなかの、ただ2人。
その出会いと別れの経験は、きっと素晴らしい一瞬として、お互いの心に残り続ける。

〔2004年7月19日(月) シネマライズ〕


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