ロング・エンゲージメント

UN LONG DIMANCHE DE FIANCAILLES (A VERY LONG ENGAGEMENT)
監督 ジャン=ピエール・ジュネ
出演 オドレイ・トトゥ  ドミニク・ピノン  シャンタル・ヌーヴィル  マリオン・コティヤール  アルベール・デュポンテル  アンドレ・デュソリエ  ティッキー・オルガド  ジャン=ピエール・ダルッサン  ジェローム・キルシャー  ジョディ・フォスター  クロヴィス・コルニヤック  チェッキー・カリョ  ギャスパー・ウリエル
原作 セバスチャン・ジャプリゾ
脚本 ジャン=ピエール・ジュネ  ギョーム・ノーラン
撮影 ブリュノ・デルボネル
音楽 アンジェロ・バダラメンティ
編集 エルヴィ・シュネイ
美術 アリーヌ・ボネト
衣装 マデリーヌ・フォンテーヌ
2004年 フランス・アメリカ作品 134分
シカゴ映画批評家協会賞…外国映画賞
フロリダ映画批評家協会賞…外国映画賞
ダラス・フォートワース映画批評家協会賞…作品トップ10、第9位・外国語映画賞
セザール賞…助演女優(マリオン・コティヤール)・有望若手男優(ギャスパー・ウリエル)・撮影・衣装デザイン・美術賞
ヨーロッパ映画賞…美術賞
評価☆☆☆


「アメリ」の監督と主演女優による映画。でも、「アメリ」を頭に置いて観ては、いけません。
まず、第1次世界大戦での激しい戦闘描写が生々しいのに圧倒される。
これは「ソンムの戦い」という激戦であるらしい。イギリス・フランス軍がソンム川周辺でドイツ軍と対峙した。正確には分からないが、数十万人規模の戦死者を出している戦いだ。
撃たれるのを承知で突撃する悲惨さには、背筋がすうっと冷えてくる。いとも簡単に命が消えていく情景を目の前にすると、戦争は絶対に嫌だと思う。
そういう意味では、反戦映画としても存在感がある作品だ。

自らの手を銃で傷つけ、負傷兵として戦場を離脱しようとする兵士たち。だが運悪くすれば、軍規違反として死罪になる。
主人公マチルドの恋人も、そうして死罪となるが、その刑の実行方法は、ドイツ軍とフランス軍の対する中間地帯に放り出すというものだった。そんなところでは決して生き延びられない、というわけだ。
だが、マチルドは、確証のない恋人の死を信じきれず、事件の関係者に連絡を取り、真実を知ろうとする。

セバスチャン・ジャプリゾの「長い日曜日」が原作。
登場人物が多く、あれ、これは誰だっけ、なにしてた人だっけ、どの人のことを話してるんだっけ?という場面が、時々あった。
いったい恋人は、どうなったのか。戦場で何が起きたのか。それを解き明かすミステリーでもあるので、誰が誰だか、あやふやだと、かなり具合が悪い。
見かけも似たような人が多かったのか。必死に観ていたので、そんなことを確認するヒマもなかったが。
兵隊は、みんな同じような外見なので、よほどしっかりと顔を把握していないと、区別が難しいところがあるのだ。
しかも、物語が進むテンポは速いので、うっかりすると置いていかれる可能性あり。
私も細かいところでは分かっていないところがあるはず。

ヒロインが恋人の生存を一途に信じる美しさ、いじましさ。愛の力。現実はそれほど甘くないと言いたいけれど、やはり心情的には応援したくなる。
そういう芯の強さを、オドレイ・トトゥは感じさせるので、適役ではあると思う。
一方、ヒロインに関わってくる他の女性たちは、戦争で受けた心の傷をどう受けとめているのか。彼女たちの生き方も、心に残る。
フランスのアカデミー賞とも言われるセザール賞で助演女優賞を受けたマリオン・コティヤールの役は、ヒロインの生き方と、いい対照を見せる。
また、なんと、ジョディ・フォスターがゲスト出演しているのも注目だ。
フランス人の役なので当然フランス語を、こともなげに話している。そんなところにも、才媛の面目躍如という趣きを見せていた。
彼女は、ちょっとでもいいから、この映画に出たい、と望んだのだそう。

忘れられないのが、調達屋のセレスタン・プー。なんといっても名前が面白い! それに、物語的にも重要人物だ。演じるのはアルベール・デュポンテル。先日観た「アレックス」に出ていたとは、あとで調べて知ったことで、観ているときは、まるっきり気づかなかった。
観ているほうにとって、それほどお馴染みではない俳優は、出てきても誰だか分からないで過ぎてしまうことが多々ある。
そんな俳優が多数、同じ兵隊姿で出演しているから、登場人物の区別もつきにくいわけだ。
ただ、主人公が一緒に暮らしている叔父・叔母や、弁護士、探偵、郵便配達などは、個性豊かで面白い

ジュネ監督の独特な映像美とセンスは際立つ。そこだけならば、「アメリ」ファンも期待していい…かも。
セピア色の画面、風景の美しさ、灯台、アホウドリ、MMM(マネク、マチルダ、エム。つまり、マネクはマチルダを愛している、の意味)の文字、ユニークな殺人方法(!)などなど…。
映像は、すごく丁寧に作りこまれていて、ところどころの場面が、色鮮やかに視覚に飛び込んできて印象に残る。

音楽は「マルホランド・ドライブ」のアンジェロ・バダラメンティ。…映画が始まってすぐの妖しげな音楽は、まるで「マルホ」みたいだったぞ。

ラストシーン、余韻を残した終わり方は好きだ。うるり、ときた。
場所の設定も最高である。
ここで終わって、正解。


〔2005年4月2日(土) 丸の内ピカデリー2〕


映画感想/書くのは私だ へ        トップページへ