もし自分がこういう立場だったら、どうするのか。ずっとそう考えながら観ていた。
四肢のマヒで26年も寝たきり。家族の世話になって生き長らえている男。
そう、彼にとっての周囲の状況や、彼の人生観からすれば、まさしく、これは「生き長らえている」状態なのだろう。自分の体が自由にならない。
その状況において、彼、ラモンは尊厳死を選択する。
しかし、その選択は、まったく個人個人で違ってくる考え方に違いない。
彼の場合、最後には死んでしまうような病気ではない。生きていることは、できるのだ。
死ぬなんて、ぜいたくだ。そう思うこともできる。
だが、手足の感覚もなく、そうやって生きているだけの人生に、どんな価値を見出すのか。
それは、そういう状況になってみなければ分からないことかもしれない。
詩人というのは、他の人間よりも、わがままに自由を愛するものかもしれない。体が自由にならなかったら、絶望する度合いが大きいのだろうか。そんなことも考えた。
女性弁護士フリアが彼のもとを訪れる。彼女は足をひきずっている。ラモンと同様に体の不自由さを抱えているらしい彼女は、仕事の領域を越えて、彼に同調していく。
尊厳死を支援する団体の女性、ラモンの家族たち、テレビで彼のことを知りラモンの人生にかかわってくる女性…。みな、ラモンに死んでほしくはないに決まっている。彼の、死にたいという意志を尊重するだけのこと。
そこで観る方としては考える。
本人の意志を尊重することが、すべての場合において、その人を愛し尊重することなのだろうか。
自分だったら…車椅子に乗って出歩いて、生きたいと思うような気がする。
この問題に、なかなか答えは出ないが、人生でいちばん重いこと、生と死について考えさせられる、ていねいで良質な映画だったと思う。
涙腺のゆるい私は、感情を揺さぶられて、例に漏れず(?)ずっと泣いて観ていたが、ラモンと家族との別れの場面では、もはや頂点に達してしまい、嗚咽をこらえて体が震えていた…。
主演のハビエル・バルデムは36歳だが、1日5時間のメイクで老け役に挑戦した。まるで違和感がないメイクには驚嘆。
あとで調べてみるまで、私はこの俳優は、もともと老けていて、若い頃の話の部分は別の俳優が演じているのだとばかり思っていた。
俳優たちは、みな素晴らしいが、特に、弁護士フリアを演じたベレン・ルエダの存在感のある美しさは印象的だった。彼女はテレビで活躍している人で、映画は初めてだったらしい。とても、いい女優さんです。
主人公ラモンの生き方と、弁護士フリアの生き方の対照も、見事。
監督のアメナバールは、ニコール・キッドマン主演の「アザーズ」の監督。本作でも監督だけでなく、編集や音楽までやってしまう才人である。
重いテーマを扱いながら、どんよりとした気分には陥らず、観客の心の中に考える余地を残した良作だった。