どうして、こういう話にするのか。あまりに○○○すぎるではないか!
断っておくが、これは映画への文句ではない。
…何を書いてもネタばれになりそうで、思ったことを書けないのだが。
ある点で、似たテーマを持つ映画を観た経験があるせいで、あ、またか、という思いが湧いてきたことは不幸だったかもしれない。
そうした映画を、もし以前に観ていなかったなら、もっとのめり込んでいたに違いないからだ。
しかしながら、ヒラリー・スワンクのボクサーぶりは半端ではない。
ボクサーにはハングリー精神が必要とかなんとかいうけれど、鋭い面構えといい、本当にボクサーらしくなっていく様子といい、ぴったりはまった適役。
1回目のアカデミー賞主演女優賞をとった「ボーイズ・ドント・クライ」でも衝撃的な役柄で印象を残した彼女だが、今度もスゴい。
彼女の演技は文句なしである。どこに文句をつけられる?
2度目の主演賞受賞も、100パーセント、うなずける。
イーストウッド、フリーマンともに、じんわりと渋い味わいを見せる。
開巻早々、イーストウッドが入門を願うスワンクに言う “Girlie, tough ain't enough .”(お嬢ちゃん、タフなだけじゃダメなんだよ)なんて、しびれるハードボイルドチックじゃあない?
枯れた雰囲気でさらりと言うから、かっこいいったらありゃしない。
たとえば、おじいちゃんになったポール・ニューマンも好きだが、イーストウッドのように渋くなりたいものだ。。。
フリーマンの、でしゃばらない存在感も素晴らしい。イーストウッドとの間のユーモアあるやりとりもいいし、滋味のある語りも、まさに決まっている。
スワンク演じるマギーの家族は頭に来るほど憎たらしいが、だからこそ、マギーは彼らを反面教師として、強く生きることができたのかもしれない。
家族に拒否された寂しい気持ちのままのガソリンスタンドで、犬を抱いてトラックに乗っている少女と目を交わすマギー。ここは、ものの見事に感情を揺さぶる場面で、泣けた。
憎たらしいといえば、反則だらけの相手ボクサー。これほど憎たらしいやつもいない。彼女を、どういう処分にできるのだろうか、知りたいものだ。
終盤の展開は書かないが、とにかく全体的にシンプルこのうえなく、しかも、心をえぐるような物語展開もある話だ。
同じ道を歩いた者同士の心の絆。
人間の生きた価値とは何なのか。どこにそれを見出すべきなのか。
イーストウッドの前回の監督作「ミスティック・リバー」に続いて、観る者に、確実に何かを残す作品だ。
I love you, “my darling , my blood”.