アメリカ映画協会(AFI)が選ぶ、アメリカ映画のコメディベスト100で第1位に輝く傑作。
マリリン・ファンの間でも、この作品をベストに推す人は多い。
確かに面白い。
が、私は「マリリンの」映画として選ぶならば、本作は1番目には選ばない。
なぜか。これはマリリンだけの映画ではないから。
マリリン、トニー・カーティス、ジャック・レモンの3人の主役に、同じだけの重みがあるからだ。
マリリンの、いちばん面白い映画を選ぶなら「お熱いのがお好き」かもしれないが、「マリリンの映画」を選ぶなら、私は「紳士は金髪がお好き」か「バス停留所」を選ぶと思う。
それは、また別の話。
この映画が傑作であることは間違いない。
2人の男に女装をさせて、女だけのバンドに放り込むというアイデアが生まれた時点で、ほとんど成功といえる。まじめに考えれば無理な話っぽいが、そこはそれ、映画である。
しかも、そこに女の中の女、色っぽい女の容姿の代表のようなマリリン・モンローがいたら?
女装男とマリリン、その対比は、考えただけで面白いはず。
ビリー・ワイルダーとI・A・L・ダイアモンドという、コメディ脚本の強力コンビが、そのアイデアをもとにストーリーを作れば、面白くないものができるわけがない。
本作は、ゴールデングローブ賞のコメディ・ミュージカル部門で、作品賞、主演女優賞(マリリン・モンロー)、主演男優賞(ジャック・レモン)を受賞している。
ある意味、アカデミー賞よりも信頼感のあるゴールデングローブ賞を受賞したことを、私は誇りに思う。
ゴールデングローブ賞をとったということは、当然、マリリンはアカデミー賞をとっても不思議はないわけだから。
しかし、この年、1959年度のアカデミー賞主演女優賞を得たのはイギリス映画「年上の女」に出演したシモーヌ・シニョレだ。
マリリンはアカデミー賞には候補にさえ上がらなかった。
候補になれなければ勝負にもならない。アカデミーには偏見があったのではないか。不公平である。
ちなみに「お熱いのがお好き」からは、マリリンの衣装を担当したオリー・ケリーだけが、アカデミー賞を受賞している。
この映画でも、マリリンは撮影を手間取らせたという。調子の悪いときの彼女は、短いセリフでも何度も間違えていたらしい。
ビリー・ワイルダーが語るマリリンについては、マリリンのページの、マリリン・イン・「ビリー・ワイルダー自作自伝」にも書いてあります。
ワイルダーによれば、撮影では散々な状態が多かったマリリンだが、フィルムを編集して映画の映像になってみると、他の誰にも真似のできないような、信じられない輝きを、そこに発していたのだ。
それこそが、天性の女優というものではないだろうか。
主演3人だけではなく脇役も光る。
ニヒルなギャング役といえばこの人、みたいな大物のジョージ・ラフトが、やっぱりギャングの親分スパッツ・コロンボをクールに演じ、1930年代頃から喜劇役者として活躍したジョー・E・ブラウンが、女装のジャック・レモンにプロポーズする富豪オズグッド・フィールディング3世の役をコミカルに演じる。
ブラウンには、「大口ブラウン」というあだ名があった。口が大きいからというわけだろう。そのまんまだが、本作でも「がまぐち」などと言われていた。(笑)
マリリンの歌は3曲。お馴染みの色っぽい名曲“I Wanna Be Loved By You”、スタンダードな名曲“Running Wild”、情感あふれる名曲“I'm Through With Love”。言うことなしですね。
「お熱いのがお好き」は、永遠の、懐かしの名画コメディの傑作であり続けるだろう。マリリンの役名シュガーとともに。…あ、ジョセフィンとダフネもかな?
なお今回の文芸坐での公開は、「荒馬と女」と「お熱いのがお好き」の2本とも、昔のプリントのままだった。訳は清水俊二さん! 字幕翻訳の草分け的存在だ。
背景が白く明るいところでの字幕は、読みにくいときがあった。