空中庭園

脚本・監督 豊田利晃
出演 小泉今日子  大楠道代  板尾創路  鈴木杏  広田雅裕  ソニン  永作博美  勝地涼  今宿麻美  國村隼  瑛太
原作 角田光代
撮影 藤澤順一
編集 日下部元孝
音楽 ZAK
主題歌 UA
2005年作品 114分
日刊スポーツ映画大賞…主演女優賞(小泉今日子)
ブルーリボン賞…主演女優賞(小泉今日子)
評価☆☆☆☆


公開前、監督が覚せい剤取締法違反で逮捕され、一時は公開中止も考えられた作品。
メールなどで公開を熱望する声が寄せられたことが、公開に踏み切る原因のひとつになったのだから、インターネットの力の大きさには感服する。

それでも、銀座の映画館など上映中止とした劇場もあり、公開規模は縮小した。
私は、渋谷の映画館の初日初回に観に行き、思ってもみなかった小泉今日子さんたちの舞台挨拶を見ることができた。
ユーロスペースという小さな映画館も、初めて入った空間だった。
そんな、いろんなことがあり、思い出に残る映画になった。

「何ごともつつみ隠さず、タブーをつくらず、できるだけすべてのことを分かち合う。それが私たち家族の決まり…」

私の家では隠し事は、いっさいない。
これが主婦・絵里子の作った方針。
そんな家族の裏に潜むもの

映画の始めのほう、画面が揺れる。
見せかけで安定している仲良し家族は、一皮むけば、それぞれが不安定に揺れている。
そういうことなのだろうが、この「ゆーらゆら」には、けっこう酔いそうになる。
揺れに弱い人、体調のよくない人は、目をつぶっていたほうがいいかも。(笑)
テレビで放送するときは画面が小さいから平気だろう。と思いたい…。

主婦・絵里子の役に小泉さん。絵里子には2人の子どもがいる。
小泉さんは実際30代後半だから(と改めて書くと信じられないけど)、本当に高校生の子どもがいても、おかしくないんだよなあ、などと考えながら観ていた。

絵里子は、パートの同僚の娘に、どうしていつもニコニコしてるの?と聞かれる。仮面。幸せな主婦を演じるための。

コンビニで立ち読みしている母・絵里子を見つけて、娘のマナ(鈴木杏ちゃん)が、そっと後ろから近づいて、ナンパオヤジの声色を使って声をかける。
振り向いた母親の怖い顔。マナは驚く。ふだんのママじゃない。
きっとマナは、母の仮面の内側を垣間見たのだろう。

絵里子が幸せな家庭を作りたかったのには、絵里子の母親の存在が大きかった。親に大切にされて育てられなかったことへの反動。娘の心の中には、母との確執が巣食っていたのだ。

絵里子の母を演じる大楠道代さんがいい
さすがの貫禄、うまいのである。
ラブホで披露するお茶目なシーンもあれば、しっとりと泣かせるシーンもある。
他には若い演技者ばかりのメインキャストの中で、しっかりと「くさび」のように映画を落ちつかせている。

絵里子の夫と息子に絡んで、ミーナ(ソニン)という女が登場してくる。
唯一、家族外の人間として、絵里子一家の観察者となり、外側から家族に影響を及ぼす

さあ、それぞれが問題なし、隠し事なしを装う家族の、虚飾の姿は保たれるのか。

劇中、小泉さんの叫びがある、とKさんに教えてもらっていた。
いったい、どんな状況で叫ぶのかと思っていたが、これは、すごかった。
想像以上。感動して泣けてきた。
この叫びは、ある意味「荒馬と女」でのマリリンの叫びのインパクトに負けない。(こうやって比べるのは2人のファンの私以外にいるまい。だいたい、叫びの種類が違うんだけどね。)

彼女の叫びが、まさしく映画のクライマックスだ。映画的な視覚効果も使って、どきりとする印象を与えている。
最後は、いったいどうなることかと思った。まったく予想がつかず。
結果、映画がたどりついたエンディングは好きだ。気持ちは複雑だけど。

空中庭園は、バビロニアの首都バビロンにあった巨大な庭園。実際には空中に浮かんでいなかったのだが、高さは10メートル少々もあり、その巨大さゆえに、あたかも空にそびえるようにも見えたのか。紀元前600年頃のものと言われる。
団地のテラスに、絵里子はガーデニングで庭を作っている。それが、外から見ると、空中の庭に見える。
また、バビロンの空中庭園は、一家の食卓の蛍光灯のランプシェードの模様として、象徴的に描かれてもいた。

1000円のパンフレットは、映画の台本に加えて、原作者・角田光代さんによる「空中庭園」の続編「夜道の家族」が掲載されている豪華版。
映画の場面の写真が少ないのが残念だけれど、記念写真で小泉さんと杏ちゃんが並んで座り、頭を寄せて、くっつけあっているのが、仲が良さそうで可愛くて、すごく微笑ましいのだ!




〔2005年10月8日(土) ユーロスペース〕


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