超へビー級の映画。重々しく強烈、価値はある作品だろうが、でも好きではない。
スピルバーグだから面白いだろう、という軽い気持ちでは観に行かないほうがいい。
殺し方がリアルすぎて、目をそらしたくなるような場面も多い。特に、若い女の暗殺者を殺すところはインパクトがあり、いまだに脳裏に残って離れない。
監督の意図はどうあれ、大胆に言いきってしまえば、すさまじくエロ・グロ(好色的、扇情的&異様、不快、ひどい)である。
見る人によって感じ方は違うだろうが、私にとっては、残虐の極みだった。
血まみれスプラッタ映画のほうが、まだマシなくらいだ。
いくらリアルで残酷な人殺しを見せることで、こんなことは良くないことなんだよ、と(もしも)言っているのだとしても、程度というものがあるのではないか。
やりすぎ、だ。
映画は1972年ミュンヘンオリンピックでのパレスチナのテロに対する、イスラエルの報復としての、いくつかの暗殺と、暗殺チームのリーダーの心の内を描いていく。
ストイック(禁欲的)なまでに抑えられた緊張感が、2時間40分ほどの長い上映時間の間、持続する。
暗殺の見せ方には工夫している。方法としては爆殺と射殺だが、第三者が巻き添えになるかならないかというスリルがあったり、銃撃戦があったり、人通りのある街角で殺そうとしたりで、飽きさせないところは、スピルバーグのエンターテインメント精神の発揮と言えなくもない。
人殺しの計画と実行の繰り返し。
映画は粛々(しゅくしゅく)と進んでいく。
パレスチナに雇われた殺し屋に対する殺人を実行した時点で、暗殺チームは「パレスチナへの報復」という、一応の大義名分を失い、ただの殺人者集団と化した。
さらに、自分たちが狙われる立場になってからの恐怖。
相手を殺しても、すぐに後任者が現れる。きりがない。泥沼である。
暗殺チームのリーダー(エリック・バナ)については、奥さんや子供が登場してくる
ので、こんなに普通に見える、家族を愛する人間が、裏では、他の人間を殺している、という怖さを生む。
ラスト、マンハッタンの景色に映っていたもの。私は気づかなかった。
あとで知った。どうも、あの建物についての認識が、私には、ほとんどないのだ。
憎しみ、テロは、いまに至るまで続いている。
ユダヤ系のスピルバーグが、立場的にはイスラエル(ユダヤ人国家)、パレスチナどちらの側にもつかずに、この映画を作ったことは評価される。
…もっとも、どちらかについたら、それこそ暗殺の標的になりかねないかもしれないが。
映画の意義は認めるが、悪趣味な惨殺描写に対して、評価は星1つ減らす。