ジャーヘッド

JARHEAD
監督 サム・メンデス
出演 ジェイク・ギレンホール  ピーター・サースガード  ジェイミー・フォックス  クリス・クーパー  ルーカス・ブラック
原作 アンソニー・スオフォード
脚本 ウィリアム・D・ブロイルズ
撮影 ロジャー・ディーキンス
編集 ウォルター・マーチ
音楽 トーマス・ニューマン
音楽スーパーバイザー ランドール・ポスター
2005年 アメリカ作品 123分
評価☆☆☆★


1991年の湾岸戦争に参加した兵士が書いた原作の映画化。
18歳で海兵隊に入隊し、20歳で戦地におもむいた若者アンソニー・スオフォード。
彼や、彼の周囲の人間が、どんなことを思い、感じながら、生きていったのか。

音楽がいい。予告編を観て、映像と合った音楽が、かっこいいなあと思ったのが、観に行ったきっかけだった。
使われているのは、カニエ・ウェスト、T・レックス、トム・ウェイツ、ノーティ・バイ・ネイチャー、パブリック・エネミーなどの曲だそうで、じつに映画と、ぴったりとくるのだ。
音楽担当はトーマス・ニューマンだが、音楽スーパーバイザー(音楽監督)としてランドール・ポスターの名前がある。彼は「スクール・オブ・ロック」などでもスーパーバイザーを務めていた人。選曲のセンスがいい。

音楽の心地よさに、若者たちの生き方をのせて描かれた、これは、青春映画と言ってもよさそうな気がした。
印象としては、戦争が舞台なのだが暗くなく、カラリとした軽い仕上がりで、さらりと皮肉や問題意識をまぶしてある感じ。

アメリカで、なんのために海兵隊に志願するのかは人によって違うだろうが、たぶん、生き方に迷っているような青年にとって、海兵隊の安定した収入というのは魅力のひとつに違いない。
そんな若者たちも戦地に行く。
湾岸戦争では、ミサイルによる空爆が徹底的に行われ、映画に描かれた地上の兵士たちは、人を殺すような戦闘に出会う機会がなかった
敵の姿は見えず、訓練に明け暮れる日々。
それでも戦地での普通ではない暮らしは、兵士の心に変調を及ぼすのだろう。そのあたりも映画は、しっかりと見せている。(主人公がキレる場面は、少々唐突だとは思ったが。)

火をつけられた油田から噴き上げる油の雨に、まみれながら前進する。味方の飛行機の誤爆にさらされる。民間人の黒焦げの死体に遭遇する。
テレビの映像では空爆のニュースくらいしか流れていなかった湾岸戦争。その、隠れた部分を見せてもらった感じがした。

戦争という特異な場所にいる、ひとりの普通の若者をストレートに演じたジェイク・ギレンホール(各映画賞で注目されている「ブロークバック・マウンテン」が3月に公開)をはじめ、複雑な感情を押し隠した兵士役のピーター・サースガード、「戦争の仕事」が好きな上司を堂々と演じた「Ray/レイ」のジェイミー・フォックスなどが好演。

戦争に行く前、映画「地獄の黙示録」を観て、劇中で流れるワーグナーの音楽を口々に歌いながら、空爆シーンに興奮する兵士たち。人間の獣性というか、こういう気分でなければ、戦争はできないんだなと思う。人間が、こうした性質である限り、戦争は、なくならないのかもしれない。

一方、戦争が終わって帰国した兵士たちのバスに、歓迎して乗り込んできた男に対して、さめた対応を返す兵士たち。
俺たちは何にも戦ってはいないんだ、という皮肉も見える。
これが、現代の戦争か。

※湾岸戦争の経緯
1990年8月、フセイン大統領のもと、イラクは石油の問題などをめぐってクウェートに侵攻、占領する。
国連は期限付きで撤退を要求するがイラクは聞き入れない。
アメリカが有志を募る形で形成された多国籍軍は、サウジアラビアに展開していた。(砂漠の盾作戦)
1991年1月、イラクへの空爆が始まった。(砂漠の嵐作戦)
2月、地上戦に入り、すでに度重なる空爆で疲弊していたイラクは士気がなく、わずか4日間でクウェートは解放された。




〔2006年2月18日(土) ヴァージンTOHOシネマズ 六本木〕


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