ていねいに作られた良作。まったく飽きることなく楽しめた。
悪魔払いを受けていた少女が死亡して、担当の神父が起訴される。少女は本当に悪魔に取り憑かれていたのか、それとも病気だったのか。神父の処置は正しかったのか。裁判の行方は…?
まず、日本でのテレビCMに文句を言いたい。
取り憑かれた少女の恐ろしい姿だけを画面に出し、まるで、単なる恐怖映画と思われるような宣伝をしている。
たしかに悪魔憑きのオカルトの味付けはあって、怖いところもあるが、じつは、裁判の様子を描いた法廷劇でもあるのだ。
理性ではとらえることができない怖さがある悪魔憑き(または病気?)に関する場面と、逆に、理性で構成していく知的スリルと面白さのある法廷劇をうまく両立させて、そのバランスがいい。
テレビCMでは、主演のローラ・リニーやトム・ウィルキンソンは、一瞬たりとも出てこなかったと思う。CMの短い時間じゃ、インパクトのある場面を流して話題を作るだけしか、しょうがないんでしょうかねえ。
でも、怖い映画が嫌いな人は、それだけで観に来なくなる。(逆に、好きな人は来る、ということはあるけれども。)
怖いのは、映画の、一部分だけのことなのに。
私は、事前の知識をあまり持たずに映画を観ることも多いので、誰が出ているのかをほとんど知らず、この映画をただのホラー映画かと思っていた。法廷劇だという噂を聞き、私は、そういうドラマが好きなので、観てみようと思ったのだ。
見逃さないで助かったよ。だって…ローラ・リニーさんが主演なんじゃん!
敏腕弁護士を演じたローラ・リニーさん。素晴らしい演技ができる、味のある女優で、私は好きだ。
たっぷりと画面に登場してくれたので、彼女の演技を堪能できた。嬉しい。
彼女のファンの方に一言。ホラーっぽいからといって、この映画を避けたら、本当に、もったいないですよ。
神父役のトム・ウィルキンソンも、存在感がある。最近では「イン・ザ・ベッドルーム」「エターナル・サンシャイン」などが印象にある、実直そうで落ち着きのある俳優。
エミリーを演じたジェニファー・カーペンターさんは、この映画の前に、ローラ・リニーさんと舞台で共演していたという。
リニーが監督に推薦して、今回の出演が決まったと聞くから、リニーは彼女の演技力を買っているのだろう。悪魔憑き(または病気?)の迫真の演技をはじめ、見事に映画のポイントになる役柄をこなした。
はじめは、可愛くねーなー、と思ったのだが(ごめんね)、実力ありますね。(ラジー賞以外の)どの賞でもいいから、助演女優賞をあげたいくらいだ。
映画の作りも素晴らしい。
男が田舎の一軒家にやってくるオープニング。導入部の雰囲気作りの上手さ。
ホラー的な部分を言えば、少女に関するところだけでなく、神父や弁護士を襲う午前3時の怪奇現象も、ぞくぞくするサスペンスで上質。
医学的見地から迫る検察側に対して、いかに弁護側が対抗していくか、その対決も非常に面白い。
弁護士は自分のことを「不可知論者」と言っている。無神論ではなく、神や悪魔がいるのかどうかは分からない、という立場であり、私自身もどちらかといえば似たような考えかただから、彼女には共感して観ていた。とくに彼女の最終弁論は、とても納得ができるものだった。
怪奇な現象が、不可知な外的な力によるものなのか、病気による人間の脳の働きが生むものなのか。それが分からないとすれば、神父の行動を評価するのは何か。
いかにも映画という娯楽にふさわしいといえそうな結末が用意されている。
実際にあった事件をとりあげたせいもあるのだろう、実在の人物を思いやる気持ちが映画の中に感じられて、観終わったあとは、怖さなどよりも、なにか悲しいけれど温かいものが残った。
キリスト教徒でもない私には、彼女が苦しむ理由とされたものについて、少し釈然としないものがあるけれども。