ブロークバック・マウンテン

BROKEBACK MOUNTAIN
監督 アン・リー
出演 ヒース・レジャー  ジェイク・ギレンホール  ミシェル・ウィリアムス  アン・ハサウェイ  ケイト・マーラ  リンダ・カーデリーニ  ロベルタ・マックスウェル  ピーター・マクロビー  ランディ・クエイド
原作 アニー・プルー
脚色 ラリー・マクマートリー  ダイアナ・オサナ
撮影 ロドリゴ・プリエト
音楽 グスタボ・サンタオラヤ
編集 ジェラルディン・ペローニ  ディラン・ティチェナー
2005年 アメリカ作品 134分
ベネチア国際映画祭…金獅子賞(アン・リー)
ボストン映画批評家協会賞…作品・監督賞
ナショナル・ボード・オブ・レビュー…監督・助演男優(ジェイク・ギレンホール、以下、助演男優賞は同様)賞
ニューヨーク映画批評家協会賞…作品・監督・主演男優(ヒース・レジャー、以下、主演男優賞は同様)賞
ロサンゼルス映画批評家協会賞…作品・監督賞
オンライン映画批評家協会賞…音楽・脚色賞
バンクーバー映画批評家協会賞…作品・監督賞
サンフランシスコ映画批評家協会賞…作品・監督・主演男優賞
サテライト賞…作品・監督・編集・主題歌賞
サウスイースタン映画批評家協会賞…作品・監督・脚色賞
フェニックス映画批評家協会賞…主演男優・助演男優・助演女優(ミシェル・ウィリアムス、以下、助演女優賞は同様)・撮影・脚色賞
フロリダ映画批評家協会賞…作品・監督・撮影・脚本賞
ブロードキャスト映画批評家協会賞…作品・監督・助演女優賞
セントラルオハイオ映画批評家協会賞…主演男優・脚本賞
シカゴ映画批評家協会賞…撮影・音楽賞
ダラス・フォートワース映画批評家協会賞…作品・監督・撮影・脚本賞
監督組合賞
脚本家組合賞…脚色賞
PGAゴールデンローレル賞…製作賞
インディペンデント・スピリット賞…監督・製作賞
ロンドン映画批評家協会賞…作品・監督賞
ゴールデングローブ賞…作品・監督・脚本・主題歌賞
英国アカデミー賞…作品・監督(デビッド・リーン賞)・助演男優・脚色賞
アカデミー賞…監督・脚色・音楽賞
MTVムービーアワード…演技賞(ジェイク・ギレンホール)・キス賞(ヒース・レジャー&ジェイク・ギレンホール)
評価☆☆☆


今回は、ネタばれ率が少し多いかも。

映画館は日比谷の「シャンテ シネ」、土曜日の夜。最終回。でも、ほぼ満席だった。
賞レースで受賞しまくったせいなのかどうかは知らないが、皆さん、関心あるんですねえ。
私はといえば、男同士の愛情の話と聞いて、あまり興味はなく、どうしようかなあと思ったのだが、いろいろと賞をとっているから観てみるか、というところ。

映像、音楽、演技ともに、よかったとは思う。
アコースティックギターの音色がいいと感じるのは、心に響くせいだろうなあ。西部の景色にも、ばっちり合うし。
叙情的という意味で、いい役割を担っているよね。

うまいと思う点を、ひとつだけ挙げてみれば、たとえばオープニング。
誰かを待っているような男がひとり。そこに車で、もうひとりの男がやってくる。
2人の様子を見ると、待ち合わせをしていたようでもなく、多少、お互いに居心地が悪そうな2人。
ひとりは相手を意識し、多少、観察もしていたけれど、それは後で、ああ、そういうわけだったのか、と分かる。
また別の男がやってきて、建物の中へ入る。待っていたひとりが入ろうとするが、ドアを閉められてしまう。
その後で、ようやく、最初の2人は、仕事を得るために待っていた2人だった、と分かるのだ。
雇い主は、はじめから愛想良くせず、求職者の目の前でドアを閉めたことで、優位に立とうとしたのだろうか。
それはともあれ、このファーストシーンは、微妙で静かな、お互いの間の空気感が、いい感じだった。

しかし…結論から言えば、私には、男同士の愛情という面では、どうしても共感はできない
別に偏見を持っているわけではない、と思いたいが…。
この映画、ホモセクシャルの問題ではなく、大きく見れば愛情の問題だと、もしも言われても、やはり、そうではないだろう、と思う。

映画として、他のすべての要素が素晴らしくても、根本的なところで共感ができなければ、その映画が好きとはいえないだろう。
自分にとっては、それが惜しいところ。

私が他の方々の感想をいろいろと読んだかぎりでは、女性には、いい評判が多く見受けられ、あんまりねえ…というのは、男性のほうが多い傾向のように思える。
女性にはリアルな現実感がなく、逆に、男は自分の身になって考えてしまうからか?(笑) 

山の中で羊の番をして、男2人だけで何日も過ごす。
そんなシチュエーションは、男2人を変な気分にさせる舞台としては、じつに好都合だ。
よく、刑務所に入ったらカマを掘られるぞ、という話があるが、男しかいない状況では、そういうことになりやすいのかねえ。分かりません。
ジャックはイニスに出会う前から、男色の気がある。この仕事を選んだのは、そうした下心もあったのではないかと勘ぐってしまう。

イニスはそんなジャックに乗せられた形で、同性愛に踏み込んで抜け出せなくなる。
(初めての愛を交わす場面、経験はないから想像だが、行為のとき、ちょっと唾をつけたくらいで、すいっと入るものでもなかろう。映画とはいえ簡単すぎるのではないかと思う。よっぽどジャックが、それまでに経験が豊かで即OK状態だったのか? 原作をさっと立ち読みしたが、原作でも同じだった。)

結果的に同性愛の資質があったのだとはいえ、可哀想なのは、巻き込まれたともいえるイニスだ。
映画では、山を下りてジャックと別れるとイニスは、壁か何かを叩いて感情を爆発させていたので、はじめは具合が悪くなったのかと思い、やはり悲しんでいたのだろう、と思ったのだが、原作では、吐きそうな気分になったという記述がある。
無意識の悲しみのあまり、息も苦しくなって嘔吐感が出るのか。自分の、その反応を思い返せば、あの時、ジャックと別れるべきではなかったのだ、と後にイニスは知る。
彼は、結局は妻と離婚し、その後はジャックを想って、一人暮しをすることになってしまう。
人の運命って、どこでどうなるのか分からないものだ。
イニスはジャックと出会わなければ、普通の結婚生活をしていたはずだろう。

2人が再会してキスをするところを、イニスの妻が目撃してしまう場面で、場内から笑いが起こった。
なぜ笑うのか。
これは喜劇じゃないんだぞ。男同士のキスが気恥ずかしいのか?
まるで、理解できなかった。不思議。いったい、どういう意味の笑いなのか教えてほしい。
妻にとっては深刻この上ない事態の場面。
このシーンも含めて、妻のミシェル・ウィリアムス、好演である。

男2人の忍ぶ恋の話、のまわりにいる女性たちが負けずに素晴らしかった
妻たち、イニスの娘、イニスを好きになる女、ジャックのお母さん…みんな存在感あり。
それぞれの心情が、よく出ている。

ブロークバック・マウンテンに行ったのが1963年、とセリフにしても言っているし、酒場でリンダ・ロンシュタットの「イッツ・ソー・イージー」が聞こえていて懐かしさいっぱいになったが、これが1970年代、ラストではイニスの娘が19歳になっているから1983年あたり、と年月の流れがしっかりと感じられるところも、よかった

ラスト、イニスの言葉は「永遠に愛してる」などと映画では訳されていたと思うが、英語としては“Jack, I swear…”だったようで、これなら「ジャック、俺は誓う…」だろう。
愛してる、という翻訳に決めつけたら、問題があるのではないか。

イニス、この後は再婚もしないで思い出に生きるのか?
思い出にはケリをつけて、普通に再婚してほしいけど、かなり無理っぽいよね…。
不器用なイニスは、ジャックへの愛を、自分の中で、どう収めるのだろうか。

おまけ:2人が素っ裸で崖から湖に飛び降りるシーンがあるが、そのヒースのお宝ばっちりの裸を正面から連写した写真を見つけてしまった…。パパラッチがデジカメで盗み撮り? 見たい方は、Heath Ledger Nude などの言葉で検索してみると見つかると思うよ。(笑)




〔2006年4月1日(土) シャンテ シネ1〕


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