V フォー・ヴェンデッタ

V FOR VENDETTA
監督 ジェームズ・マクティーグ
出演 ナタリー・ポートマン  ヒューゴ・ウィーヴィング  スティーヴン・レイ  スティーヴン・フライ  ジョン・ハート  ナターシャ・ワイトマン  ティム・ピゴット=スミス  ルパート・グレイブス
キャラクター造型 アラン・ムーア
脚本 アンディ・ウォシャウスキー  ラリー・ウォシャウスキー
撮影 エイドリアン・ヴィドル
音楽 ダリオ・マリアネッリ
編集 マーティン・ウォルシュ
2005年 イギリス・ドイツ作品 132分
サターン賞…主演女優賞
評価☆☆☆☆


VはVendetta(復讐)のV。
vendettaはイタリア語。もともとは、コルシカ島などの俗習で、一族同士の代々の復讐のことを指す、らしい。マフィアの復讐劇ならば、ぴったりのイメージか。
この映画の解説などを見ると「血の復讐」と訳しているが、つまり、イメージとしては、関係者すべてを対象にするような、根の深い復讐なのではないか。

原作は1981年にスタートした、イギリスのコミック(デヴィッド・ロイド画)で、「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟が脚本を書いた

仮面に顔を隠したV。社会的には、恐怖政治を行う独裁政府の転覆を図り、個人的にも、過去の復讐をひとつずつ果たしていく。
Vを演じるのはヒューゴ・ウィーヴィング。映画ファンであれば、「マトリックス」シリーズのスミスや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのエルロンドでお馴染みだが、今回は最後まで仮面を取らず素顔を見せない。しかし、声や動作で魅せてくれた。仮面の人間の役だからこそ、下手な役者だったら退屈で見ていられなかったことだろう。
饒舌で芝居っ気があり、お茶目なところもあり、猜疑心も持っている。そして恋に落ちてしまうV。魅力的である。

Vと関わる娘イヴィーには、ナタリー・ポートマン。
イヴィー役の候補には、他にスカーレット・ヨハンソンやブライス・ダラス・ハワードがいたようだ。ヨハンソンでは少し性格が強すぎるような気がする。
ナタリーのファンである私にとっては、彼女がこの役を勝ちとって嬉しいぞ! 彼女が出ているから観たような映画だが、それを差し引いても、面白かった。
ナタリーの演技は、とてもいい。飾りものにすぎなかった「スター・ウォーズ」シリーズなどに比べたら、雲泥の差だ。「クローサー」から本作へと、素晴らしい女優としての実力発揮といえる。

家族を革命運動で失ったイヴィー。彼女はVと出会い、過激な行動をとる自己中心的ともいえるVに反発しながらも、彼の中にある自由への強い意志、そして弱さをも併せ持つ彼自身に引かれていく
「オペラ座の怪人」のごとく、イヴィーもVの仮面を剥がしたいと思うだろうか。それは観てのお楽しみ!
V自身も言っていたように、イヴィーとVは名前の上でも似ている。2人は同志となる運命…?

近未来のイギリスは、言論統制、思想統制、夜間外出禁止、秘密警察の暗躍といった、独裁のファシズム国家になっていた。
そうした社会を人民は許してはならない。そうした社会は壊さなくてはならない。
自由を取り戻すために、Vは立ちあがる。その行動が、自分の復讐心から端を発している部分が大きいところが人間くさく、単なる正義漢でなくて、いいのである。

イスラム教の聖典であるコーランを持っている人物を、即時に処刑する国家のことを考えると、これは何を暗示しているか分かる。
また、独裁者の名前は、サトラーである。これはどうしたって、過去の実在の独裁者ヒトラーを思わずにはいられない。

国民は、個人の精神まで支配しようとする全体主義に抵抗する権利と義務があるという。
日本だって、上の人間のすることには目を光らせて、民主主義の名のもとに不正や理不尽な政策、独裁的な恐怖政治が行われるならば、泣き寝入りなどをしていてはいけないのだ。
少なくとも、物事は、そのまま鵜呑みにしてはいけないことは多いのだ。疑ってかかれ。賢くなるべきなのだ。

Vのようなテロリズムに走るのは極端であって良くないが、彼は個人の尊厳のために命をかけて戦った。それは評価できることだ。
自由は勝ち取るもの、という精神をうたいあげた本作は、社会への警鐘であり、娯楽映画としてのエンターテインメント性も持った、ユニークな傑作である。

チャイコフスキーの序曲「1812年」(ロシアがナポレオンの侵攻を撃退した戦争を音楽にした劇的な曲)が印象的に使われるほか、ラストで流れるのが、ローリング・ストーンズの「ストリート・ファイティング・マン」。これはハマリすぎ!

映画でも紹介される、実在の革命の戦士の名前は、ガイ・フォークス
当時の国王ジェームズ1世はイギリス国教会を優遇、カトリックの過激派は1605年、国王爆殺計画を立てる。事前にフォークスは逮捕され処刑されてしまう。
イギリスでは11月5日が「ガイ・フォークスの日」で、フォークス人形を引きまわし、かがり火に投げ入れて燃やし、打ち上げ花火を楽しむ。
ウェールズではフォークスは罪人だが、スコットランドのほうでは、自由を求めて戦った英雄とされているという。
Vの仮面は、フォークスの顔とピエロの顔を合わせたデザイン。

22000個のドミノが倒れる場面も圧巻。
監督のジェームズ・マクティーグは、「ムーラン・ルージュ」で助監督を務めていた。いいねえ!
また、劇中、イヴィーとVが観ていた映画は「巌窟王」(1934年)、ロバート・ドーナット主演、ローランド・V・リー監督である。
監督の名前にも「V」の文字が…。

イヴィーの最後の言葉は、とても感動的だった。それは、(以下は、これから映画を観る方にとっては、知らないほうが映画を楽しめると思いますので、読まないほうがいいかもしれません。)

He was Edmond Dantes. And he was my father, and my mother. My brother, and my friend. He was you...and me. He was all of us.
彼はエドモン・ダンテスだった。彼は私の父であり、母だった。私の弟、私の友人だった。彼はあなた…そして私だった。彼は私たちすべてだった。




〔2006年4月22日(土) テアトル池袋〕


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