BJ「男運に恵まれず、怒涛(どとう)の転落人生を一直線にすべり落ちる、ある女の人生を描いた、娯楽快作」
ノーマ「ん、娯楽快作?」
「快作というのが、ふさわしいね。決して、大作じゃないよ」
「監督が『下妻物語』の中島哲也だというので、観に行ったんだよね」
「そう、あれはホントに、スカーンとクリーンヒットしたような快作だったからね。
ポップで映像的に面白い感覚のある、それまで見たことがなかったタイプの映画だった」
「『人生終わったと思いました』とか、思いがけず不幸な目に遭うと『なんで?』と言ったりして、不幸せになりたくないと自覚はしてるけど、不幸になっていく」
「いっしょうけんめい生きているつもりなのに、教師をクビになると家出したり、売れない作家とくっついたり、果ては人殺しまでしちゃうんだから、ほんとうは自分の行動に問題がありそうだよね」
「そうね。でも、自分では、どうしようもない選択なのかもしれない」
「それを、おちゃらかしてエンターテインメントにしているのではなくて、感動させるところは、きちんと作っているから、バランスがいいんだと思う」
「最後は泣いちゃった。あれは、きっと天国に行って救われるといっていいんだよね」
「うん、あのくらいしてあげないと、可哀想すぎるよ。それにしても、松子の死んだ原因には、言いようのない虚しさがあった」
「あまりにも、ひどい話。皮肉で可哀想で…これ、まともなドラマにしてたら見ていられない」
「CMを作るような、ミュージックビデオを作るような、過剰すれすれに演出して作りこんだ『絵』が、そこで生きてくる」
「ソープ嬢や刑務所の場面は、曲に合わせたミュージックビデオのような作りになっていたわよね」
「とくに刑務所のほうは、あそこのシーンだけ取り上げても立派に通用するミュージッククリップになっていたよ」
「中谷美紀、よかったなあ。瑛太もよかったし。面白い映画って、けっきょく、みんながいい演技をしているってことになるのかしら」
「肯定的に観ている映画だから、俳優のほうも、よく思えるんだろうね。実際、こいつダメだ、なんて思えたキャストはいなかったな。
上に書いた以外にも、大勢のキャストが出ているね。挙げておくと、竹山隆範、谷原章介、谷中敦、本田博太郎、木野花、山本浩司、あき竹城、嶋田久作…」
「黒沢あすかのAVソフト制作会社社長役はハマってた」
「ドスのきいた姉御ふうな美しさ(笑)、みたいなものがあったね。
谷原章介の歯がキラリ!なんか、もうマンガのギャグのノリだよね」
「荒川良々は、優しくて、よさそうな人だけど、彼女が殺人犯と知ったら、豹変したかもね」
「松子は不幸になるべく運命づけられているから、きっとそうなっただろうな」
「最後は、あそこまで落ちなくても…と思う。人間って、そんなに強い人ばかりじゃないけど、もうちょっと頑張ってほしかった」
「確かにね。でも、ああなってしまうくらいハードな人生を送ってきたってことなんじゃないかな。
子どもにとって、親の愛が、どれほど大切なものなのかが分かる。
松子の晩年のシーン、人は見かけで判断しちゃいけないんだ、と思った。その人の人生には、見かけからは決して分からない、美しいものが心の中にあるかもしれないんだって」
「きっと中谷さんは、何かの女優賞をとると思う。とって当然の演技だったわ。監督が厳しくて、彼女にとっては、いちばんキツイ現場だったという話だけど、それだけの結果は出ているよね」
「女優賞だけでなくて作品賞や監督賞もとれそう。
観に行った映画館で、リピーター割引券をくれたよね。1300円、つまり前売券と同じ値段で観られる。また行く?」
「余裕があって、気が向いたら。他の映画を観る予定もいっぱいあるでしょ?」
「そうなんだよねー。また観てもいいな、という気持ちはあるんだけどね」