親密すぎるうちあけ話

CONFIDENCES TROP INTIMES (INTIMATE STRANGERS)
監督 パトリス・ルコント
出演 サンドリーヌ・ボネール  ファブリス・ルキーニ  ミシェル・デュショーソワ  アンヌ・ブロシェ  エレーヌ・シュルジェール  ジルベール・メルキ
脚本 ジェローム・トネール  パトリス・ルコント
撮影 エドゥアルド・セラ
編集 ジョエル・アッシュ
音楽 パスカル・エステーヴ
2004年 フランス作品 104分
評価☆☆☆☆


女はエレベーターに乗り、診察室へ向かう。ドアが開き先客が帰るのと入れ替わりに部屋へと入る。男は「予約をした」という彼女にとまどいながらも、彼女をオフィスに招き入れた。女は、結婚生活の悩みを打ちあけ始める。夫が半年間、彼女に触れもしない。冷え切った夫婦関係を告白した女は、次のカウンセリングの予約をして帰っていった…。

パトリス・ルコント監督の作品だ!というので、劇場で予告編を観たその日に、前売券を買っておいた。
新作といっても、2004年の制作である。何で、すぐに輸入してくれないの? ルコント監督のファンは、それほど少なくはないと思うぞ。

じつは、この作品、予告編の段階から、ひとつネタばれをしている。本編の中ですぐに明かされることなので、それほど重要性はないが、もちろん知らないほうが、ちょっとした驚きが加わっていいと思うのだ。
いろいろな映画紹介の記事でも、ほぼ99パーセント、そのネタばれをしているので、もしできるなら、そうした情報は、ちらりとも目に入れないようにしてほしい。
そのネタばれを知ったほうが、本作に対する興味が沸くという面は確かにあるけれど、白紙の状態で映画と純粋に接して楽しむという意味では、それは邪道なのではないか、とも思うから。

主役の男と女が最高に素晴らしい。
男。堅物で、恋愛に対しても奥手。フランス人の男でも、こういう人はいるはずだよね。フランス男が誰でも彼でもプレイボーイだというのは、勝手な思いこみで、ルコント監督の映画には、こういう内気な男が主人公という場合がよくある。
演じるのは、ファブリス・ルキーニ。
彼が心の内で女に惚れていくさまが、表情、態度、言動から、ものの見事に表現されている。不器用な男の恋愛。
私のような奥手の男(?)にとっては、自分を彼に投影でき、共感できるのだ。
ちなみにルキーニ氏、横顔などが、ふと、(気のせいかもしれないが)サッカー日本代表監督のジーコに似ているように見えるところがあって、ワールドカップの最中に観る映画としては、ぴったり!?

女。夫との関係に悩み、ちょっと、けだるげでミステリアスでもある。
演じるのは、サンドリーヌ・ボネール。
ものすごく素敵。
いわゆる美人ではないけれど、彼女がそこにいるだけで、その姿や表情に引きこまれてしまうのだ。
あまりの存在感の美しさに、私は感動して涙を流していた。
こんな経験は、めったにない。
フランスの女優の持つ独特の優美さや格好の良さ、ある種の気品を存分に感じさせてくれたからだろう。アメリカやイギリスの女優では決して出せないムードがあるのだ。
そして、女優と監督の共同作業による最高の結果でもある。
ただし、もちろんのことだが、ルコント監督の映画のタッチが好みでなければ、そんな至福の気分は感じられないかもしれない。

私は彼女を「仕立て屋の恋」(1989年、監督はパトリス・ルコント)、「沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇」(1995年、ルース・レンデル原作のミステリ)で観ているが、今回ほどの印象は受けていなかった。

この映画では、彼女が煙草を吸いまくる。個人的には煙草は嫌いなのだが、これだけサマになっている姿を見せられると、文句を言う気になるどころか、格好いいとまで思ってしまうのだから、困ったものである。
気分を落ちつけるための小道具でもあるから、たぶん必然性はあるのだ。

主役だけではない。脇役である、秘書、別れた妻も好演。

男と女の、人生の機微に富んだ恋愛話。
山場とか、はっきりした盛り上がりがないので、退屈な話だと感じる人もいるだろう。特にハリウッド系の娯楽作品でなければ飽きるという人にはツライかも。
私は、こういう映画こそ、おしゃれだと思う。
大人な貴方、ぜひ、ご覧ください。




〔2006年6月18日(日) シャンテ シネ1〕


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