ローズ・イン・タイドランド

TIDELAND
監督 テリー・ギリアム
出演 ジョデル・フェルランド  ジャネット・マクティア  ブレンダン・フレッチャー  ジェフ・ブリッジス  ジェニファー・ティリー
原作 ミッチ・カリン
脚本 テリー・ギリアム  トニー・グリゾーニ
撮影 ニコラ・ペコリーニ
編集 レスリー・ウォーカー
音楽 マイケル・ダナ  ジェフ・ダナ
2005年 イギリス・カナダ作品 117分
サンセバスチャン国際映画祭…国際映画批評家連盟賞
評価☆☆☆☆


しなれば折れない。譲るばかりじゃ得られない。おまえの賢い瞳。おまえの大きな空。
マイ・スイート・ハニー・ローズ…奇妙で暗い色のバラの花。ジェライザ=ローズ。

「不思議の国のアリス」が愛読書。薬物中毒の母親をマッサージし、落ちぶれたロックンローラーでジャンキー(麻薬常用者)の父のヘロイン注射の手伝いをするのが日課のジェライラ=ローズ。
ある日、母が薬物過剰摂取で死に、ジェライザ=ローズと父は、テキサスの祖母の家に向かうことにする。
たどりついた家で、父は「バケーション」に行ってしまい、ジェライラ=ローズは、ひとりで空想の世界を冒険。リスを追って家の中を探検したり、外では魔女のような黒づくめの「幽霊女」に出くわしたり…。

もうね、主演のジョデルちゃんに、やられました。メロメロです。めっちゃ可愛いです。どうしようもなく可愛いです。
自分の子どもにしたいくらい。それは無理なので、パソコンの壁紙にしました。
珍しくパンフレットも買いました。

しかも可愛いだけじゃない。演技は抜群! 1994年にカナダで生まれて、2歳でコマーシャルに出演、1998年からテレビドラマに出演しているので、子役のキャリアは充分なのだ。本作の撮影は彼女が9〜10歳のとき。
妖しい魅力だって、ありますよ。いや〜、惚れました。(断っておきますが、もちろん変な意味ではないですからね。)

映画のような、近所の、ちょっと頭の弱い男との関係においても、女の子は幼くても、ときに「オンナ」を感じさせる。はからずも、そうしたところが出てくるものなんですね。
無邪気と、その正反対にある(または、隣にある)大人の部分。
一般的に、男に比べて女は幼い頃から、はるかに「オトナ」だと思える。男は、そんな女に本質的には太刀打ちできるわけがないのだ。

本年度の「シネマ停留所映画賞」の主演女優賞は、ジョデル・フェルランドお嬢さまに決まりかも。少なくとも、新人賞にはなるはず。
もし彼女でなかったら、この映画はこんなに魅力的にはならなかっただろう。彼女でなかったら、ただの変な悪趣味な映画だっただろう。
それほどジョデルの存在は大きい。なにしろ、ほとんど出ずっぱりの主役だし。その主役が素晴らしいのだから、もう言うことなし。

首だけのバービー人形たちと空想の会話で遊ぶ。4体ある人形の声を演じ分けているのもジョデルで、お見事、かつ、微笑ましい。
つまり声の上では、ひとり5役だ。すごいぞ、ジョデルちゃん!

先日ブログで書いた記事「これが楽しみ!『ローズ・イン・タイドランド』」では、ジェニファー・ティリーが女王の役としたが、お母さんだった。夫に「女王」と呼ばれていただけでした。
父親役のジェフ・ブリッジスは、途中から、とんでもないことになる。あれはきっと、サングラスをかけていなかったら、キツイ演技だったと思うよ。彼のファンは観て嬉しいのかどうか、人によるな。

出てくるのは、ほとんど変な人ばかり。
奇妙でファンタジックで美しい。ジョデルの自由な演技は、少女というものの本質を突いている(たぶん)。堅苦しく道徳的な人が観たら、受け入れられないイメージが、いっぱい。好き嫌いは激しく分かれるはずの映画。
とくに、少女が誘惑的、なんてことに目くじら立てたり、顔をしかめたりする人もいるだろう。アメリカなんかでは、評価は散々な場合も多いのではないだろうか。
でもね、これは少女の強さを描いている。悲惨な状況でも、自分で、おとぎ話にしたり、どうにか現実に対処していく。けなげ、なんだよ。
少女が誘惑的なのは、本能だ。それに目をつぶっちゃいけないでしょ。

ラストに訪れる大事件。夢を現実に振り戻す、この鮮やかさといったら! ジェライザ=ローズの悪罵が心に刺さる。見事。

原題は、ただの“Tideland”(タイドランド)。干潟という意味だ。潮の満ち引きの影響を受ける、低い海岸地帯。海にもなり陸にもなるという、あいまいさが、この少女の夢幻の世界にふさわしい

この傑作は、DVD、買いだね。




〔2006年7月9日(日) 恵比寿ガーデンシネマ1〕


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