彼女を見ればわかること


THINGS YOU CAN TELL JUST BY LOOKING AT HER
監督・脚本 ロドリゴ・ガルシア
出演 グレン・クローズ  ホリー・ハンター  キャシー・ベイカー  キャリスタ・フロックハート  キャメロン・ディアス  エイミー・ブレナマン  ヴァレリア・ゴリノ
1999年 アメリカ作品 110分
1999年サンダンス・NHK国際映像作家賞受賞
2000年カンヌ国際映画祭…〔ある視点〕部門グランプリ受賞
評価☆☆☆☆★

まず、いい脚本があるべきだ。映画製作において、もっとも大切なものを改めて確認した気分。いい脚本があり、いい女優たちが集まってきて、いい映画が出来上がった。

ノーベル文学賞作家のガルシア=マルケスの息子が監督だ、なんてことはどうでもいいが、この脚本を味わったあとでは、やはり、親の血は争えないのか、とも思う。
監督のロドリゴ・ガルシアが、これまで「フォー・ルームス」などの撮影監督をしていた、とは初めて知った。
彼が書いていた脚本に、ジョン・アブネット(この映画のプロデューサー。監督としても「フライド・グリーン・トマト」「アンカーウーマン」「北京のふたり」などがある)や、映画に出演もしたキャシー・ベイカーが注目し、サンダンス映画祭で受賞すると、グレン・クローズを皮切りに、続々と女優たちの出演申し込みがあったという。

いざ、映画が出来上がると、内容が地味で受けないだろうということで、アメリカではロードショー公開されなかったようだ。うーん、アメリカって、やっぱり娯楽一方通行、その程度なのか。それとも無名の監督だからか?
この映画をヒットさせた日本の観客は誇りに思っていいぞ

映画は5つの物語に分かれている。いわゆるオムニバスというやつですね。まず登場はグレン・クローズ姉御。彼女は医者。きょうは休みで、自宅で痴呆の母親の世話をしている。その一方で、好きな男からの電話を待っている。彼からの電話はなかなか来ない。約束していた占い師がやってくる。彼女のタロットカードは、女医の心のうちを、つぎつぎに言い当てていく。

そのあとの話も、その話での主人公になる女性が直面している対人関係を描いていく。人は、もともとは、ただひとり。それは孤独なのではない。そういうものなのだ。そこに他人との関係がプラスされるだけなのだ。特に現代の都会というフィールドでは、その他人との関係の持ち方がむずかしく希薄にもなる、とはよく言われることだ。
映画で描かれる関係は、母親と娘、母親と息子、姉と妹、女と女の恋愛関係、不倫関係などなど。片思い、老い、再婚、病気、死、障害者、ホームレスと、現れるテーマもたくさんある。

生きていくことは、楽しいことばかりがあるのではない。彼女たちは、否応なく押し寄せるさまざまな問題にぶつかりながら、なんとかして生きていくのだ。それは彼女たちの日常なのだ。逃げるわけにはいかない。どうにかこうにかしながら、乗り越えていくべきものなのだ。
先にあるのは、幸せなのか。含みを持たせながら、物語は終焉へと向かう。

5つの物語は、それぞれに主人公が違うが、それぞれの話の登場人物が、他の話にも顔を出す、という工夫がされている。それは、バラバラの各話を、ひとつの物語にまとめる役割を果たすとともに、いいアクセントにもなっている。まったく違う人生を歩みながら、どこかで人は出会い、つながることがあるのだ、という印象を持たせる。
そして冒頭にほんの一瞬だけ登場する女性。彼女は、5つすべての話に関係してくる。彼女と、他の女性たちとの運命という点での対比も示されるのだ。

この映画の脚本は、言葉によらず、語らずに語る、さまざまな示唆に満ちている
たとえば、それぞれの物語に必ず登場するベッドのシーンは、それぞれの人間にとっての人生の場所の象徴ともとれる。他人との関係を築く場所でもあるのだが、その意味は、まさに人それぞれなのだ。

悲しい話もある。だが、この脚本全体に息づくのは、作家の暖かい視線

この映画で演じることができた女優たちは、俳優冥利につきたことだろう。
〔2001年9月1日(土) Bunkamuraル・シネマ1〕



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