グエムル -漢江(ハンガン)の怪物-

怪物(THE HOST)(GWOEMUL)
監督 ポン・ジュノ
出演 ソン・ガンホ  ピョン・ヒボン  パク・へイル  ぺ・ドゥナ  コ・アソン  イ・ジェウン  イ・ドンホ
脚本 ポン・ジュノ  ハ・ジョンウォン  パク・チョルヒン
撮影 キム・ヒョング
音楽 イ・ビョンウ
編集 キム・サンミン
2006年 韓国作品 120分
アジア映画賞…作品・男優(ソン・ガンホ)・撮影・視覚効果賞
評価☆☆☆☆


面白かった。
すかっとする面白さじゃなくて、どこかに、もやもやしたものも残るんだけど。
シリアスであり、リアルであり、嘘っぱちであり、ひょうひょうとしたユーモアがあり、社会派であり、娯楽派であり、すごくユニークな映画だったように思う。それが、この監督独特の味なのかもしれない。

怪物は、早いうちから姿を現わす。まったく、出し惜しみなし。そいつは、川に薬物を流した結果として生まれたものと納得できる形をしている。奇形である。
怪物の初登場シーン。川の中に大きな影を見た人々は、興味をもって川辺に集まってくる。面白がって食べ物を投げ入れたりする。まだ怪物の怖さを知らない人々の取る行動は、こんなものだ。
野次馬で川辺にいたカンドゥン(ソン・ガンホ)が次の瞬間、目を転じると、人をなぎ倒しながら狭い土手道を、こちらへ、まっしぐらに走ってくる怪物の姿が。ここは恐ろしい光景で、インパクトのある、いい場面。

怪物が向かってくる、というシチュエーションは、やっぱり怖いもので、主人公一家の家に狙いをつけてきた場面も強烈だった。このときは、コントのような脱力ギャグ・シーンをかました直後なので、よけいにメリハリがついて緊迫する。
この怪物、意外と頭がいいのか、はたまた本能なのか、あなどれないぞと観客に見せつける場面が後半にある。ここも意外性があって巧く、怪物の底知れなさに、ぞっとする。
印象に残るシーンが、いくつもあるのは、面白かったという証拠。

怪物に殺されたと思った娘が、まだ生きていると知ったカンドゥン。一家をあげて、娘救出作戦に乗り出す。
カンドゥンが宿主(英題であるThe Host)と思われる怪物と接触したため、ウィルスに感染したとされて一家は拘束されるが、脱出して怪物を追う。誰にも協力を得られずに、一家4人だけでの戦いになる。
4人は、娘をただ、あてもなく探すだけ。いかにも非力。しかも観ているほうの思いを裏切るようなシビアな話になっていく。

娘のヒョンソ(コ・アソン)が、いい。泥だらけになった顔に、きりりと意思の強いまなざし。やはり、怪物にさらわれてきた小さな男の子を守る彼女は、母性だ。
ダメ父であるカンドゥンを筆頭に、どこかダメなところのある残りの家族が、ヒョンソを助けるという、その目的のために力を合わせる。

思いがけない展開は、いくつもあり、先読みはしない私でも、あとから考えてみると、「あそこであんなふうになるのは意外だけど、だから面白い」と思うところが多いのだ。

怪物もいいが、それにも増して、人間がよく描かれている。物事に対して、それぞれが、どのように反応して動くのか。
怪物は、人間を描くために、人間の前に立ちはだかる脅威を象徴する「モノ」として、映画の中に置かれたといってもいい。

ただ、個人的なことを言えば、ラストは好きではない。
甘くない、現実味のある脚本なのだろうが、あの終わらせ方に意味があるのだろうことも、よく分かるが、私は典型的なハッピーエンドが好きなのだ。
助かってほしい人間が助からないのは好きではない。たとえ、それがリアルではないと言われても。

在韓アメリカ軍と、その軍に追従する韓国政府に対しての、痛烈な批判も見逃せない。
怪物を生んだ元凶の薬物を川に流したのは、在韓アメリカ軍の科学者の指示。実際に、そのようなことがあったらしい。
途中で出てくるアメリカ軍の軍医が斜視みたいで変なのも、彼らを好意的に描いているようには思えないし、米軍の事実隠蔽(いんぺい)も明らかになってくる。
ウソで固めたテレビ会見。なにやら、どこかで過去に見たようなデジャヴ感…。

本当に大きな宿主、感染の原因は、怪物にではなくて、じつは人間の側にある。
反省すべきは人間なのだ。
だって、この怪物は、人間が作ってしまったものなのだから。

うん、やっぱり面白かったね!




〔2006年9月10日(土) スバル座〕


映画感想/書くのは私だ へ        トップページへ