ゆれる

脚本・監督 西川美和
出演 オダギリジョー  香川照之  真木よう子  伊武雅刀  蟹江敬三  新井浩文  木村祐一  田口トモロヲ  ピエール瀧
撮影 高瀬比呂志
編集 宮島竜治
音楽 カリフラワーズ
2006年作品 119分
ヨコハマ映画祭…作品賞
毎日映画コンクール…作品賞
ブルーリボン賞…監督賞  など
評価☆☆☆★


去年、評判になった映画である。公開当時は見逃していて、もう映画館でやらないかなと思っていたら、年明けにTOHOシネマズ六本木ヒルズで1週間上映すると知って、観に行った。

最近は小泉今日子さんの懐かしのメロディを聴いていたりするので、「ゆれる」というと「ひとり街角」の♪揺れ〜る揺れ〜る揺れ〜る街角♪というフレーズ(歌詞:三浦徳子)を思い出すのであるが、それはまた別の話。

ミステリー仕立ての愛憎劇、という感じでしょうか。
兄(香川照之)と弟(オダギリジョー)の関係を描いた映画。

都会に出てカメラマンとして活躍している弟と、田舎に留まって家業のガソリンスタンドで働いている兄。
兄にとっては、自由気ままに人生を楽しんでいるような弟に対して、口にはしないが、鬱屈(うっくつ)した思いがある。
弟が、葬式のために田舎に戻ってくる。
幼馴染みの女性(真木よう子)と兄弟の三角関係。
3人で遊びに行った渓谷の吊り橋で、その出来事は起きた。

ゆれるのは、吊り橋であり、人の気持ち。

真実は何なのか、という興味が、好奇心を持続させる。そのテクニックは巧い。
そして、その真実は、はたして真実なのかと、いまも不確かな思いがある。
そのあたりは、もう1回観たら感じ方が変わってくるのかもしれない。

2人の兄弟の関係の変化が、心の変化が、裁判の行方を変えていく。誰も分かっていないかもしれない、ただひとつの真実とは無縁に。

屈折した感情を心に秘めた兄を演じた香川照之の演技が光るが、それを軽々と受けて立つオダギリジョーもいい。

香川照之という俳優を見たのは、彼がNHK大河ドラマ「利家とまつ」(2002年)で豊臣秀吉を演じたとき。映画「鬼が来た!」(2000年)で名前はすでに知っていたけれども、実際の演技は見たことがなかった。
調べてみると、父がスーパー歌舞伎で有名な三代目市川猿之助、母が浜木綿子。
うわ! 素晴らしい血統じゃないですかあ!!
最近のテレビコマーシャル「ヘルシア」では、わざとらしい演技で好きでなかったりするのだが。
この「ゆれる」は、演技のしがいがある、おいしい役どころ。

オダギリジョー(本名は「小田切譲」らしい)も調べてみた。「仮面ライダークウガ」(2000年)で知名度が上がったんですね。「金融腐蝕列島 呪縛」(2000年)に出たらしいが、覚えていない。テレビの大河ドラマ「新選組!」(2004年)と映画「オペレッタ狸御殿」(2005年)くらいでしか見ていないが、自由で柔軟なタイプの俳優に思える。個性的で、おもしろい。

他にも、ガソリンスタンドの従業員を演じた新井浩文は、顔つきも演技も尖っていて、若さがいいと思ったし、蟹江敬三のベテランの味は文句なし。

とはいえ、不満な面もある。
木村祐一が検事を演じていたのが、いまひとつ気にいらない。この人は、バラエティ系のイメージが強すぎる。
「フラガール」の山崎静代(しずちゃん)の場合でも少し感じたが、普通の映画に、わざわざ、お笑い・バラエティ系で強烈な個性を放つ出演者を使わなくてもいいのではないか。監督が使ってみたいと思うのだろうか。
それから、伊武雅刀のオヤジのキャラクター。すぐ怒鳴るのが類型的で、つまらない。

いちばん引っ掛かるのは、兄弟間の確執の大きな原因のひとつとなった女性の存在感が薄いこと。
早々に映画の表舞台から消えてしまうのだが、いなくなったあとでも彼女が兄弟の中に、もっと強烈にその存在感を感じられるようになっていれば、さらに深いドラマが生まれたのではないか。彼女が、物語進行の道具のような存在でしかない印象なのが、少々惜しい。
もうちょっと、彼女の内面が分かる、彼女に感情移入ができるエピソードを、たとえ事後であっても、欲しかったと思う。

それにしても、あのラストは…これまた、受け取り方が、いろいろとあるのでは?




〔2007年1月13日(土) TOHOシネマズ 六本木ヒルズ〕


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