それでもボクはやってない

脚本・監督 周防正行
出演 加瀬亮  役所広司  瀬戸朝香  もたいまさこ  山本耕史  鈴木蘭々  柳生みゆ  田中哲司  光石研  大森南朋  尾美としのり
撮影 栢野直樹
編集 菊池純一
2007年作品 143分
評価☆☆☆★


電車の中で痴漢をした犯人とされて捕まった男。
彼が捕まるところから始まり、最初の裁判が終わるまでの様子を克明に追う映画。

ボクはやってない、というが、ほんとにやってないのだろうか、と、観ている間じゅう、ずっと思っていた。
痴漢があったと考えられる現場のシーンは、映画には出てこない。
だから、やっているかもしれないではないか。
そう思ったら、この映画、いけないのだろうか?
監督の狙いは、そこには、ないのか。

疑わしきは罰せず、というのが原則。もしも無実なのに有罪にされたら、たいへんである。
だが、有罪だったとしたら? 確かな証拠がない限り無罪、ということで、本当は痴漢なのに無罪になったら、それは女性にとっては許しがたいことに違いないのだ。
そのあたりが難しい。

それは置いても、問題なのは、警察の対処のしかたである。
確かな証拠がないのに、「自分がやりました」といえば、罰金を払って、すぐに釈放、「やってない」といえば、そのまま拘留。それは、おかしいでしょう。
声を荒らげての暴力的な刑事の取り調べに遭ったら、普通の人なら怖くてしょうがない。
権力をかさにきての横暴といわれても、しかたがないではないか。
(ちなみに、この映画で横暴な刑事に扮した大森南朋<おおもりなお>、いいですね。NHKのドラマ「ハゲタカ」にも主演していて、ちらっと見ただけだけど、なかなかいい感じ。)

無罪を出すのに慎重な裁判官の姿も、よく分かった。
小日向文世演じる裁判官の事務的ともいえる冷たさ。考えさせられた。
しかし、最後の判決文を聞いていると、なんだか納得できてしまうのだね、これが。

先日、鹿児島県議選において投票依頼に絡み現金を授受したとして、12人が公職選挙法違反の罪に問われた事件に、無罪判決が出た。
この事件では、被告たちは自白を強要されたという。
取調官から、追及的・強圧的な取り調べがあったことがうかがわれる、というのだ。
そもそも事件というものはなかったと、一部の刑事は分かっていたとか。
強権を得た人間が、それを、どう使うべきなのか。それを当事者は考えてもらいたい。

この映画が公開されたからといって、警察や司法が劇的に変わるとは思わないが、こうした実態を映画にすることで、少しでも納得の行く社会に近づいていってほしいと思う。そうした意味では、価値のある映画なのだろう。

それに、そうしたことを抜きにしても、観ていて飽きない社会派エンターテインメントといえる。
役所広司さん、売れっ子ですよねえ。瀬戸朝香さんが弁護士かと思ってたら、役所さんも弁護士で、しかも上司。彼のほうが目立ってるじゃないですか。

裁判を描いた映画は、洋画でも面白いものが多いけれども、こちらも負けず劣らず。
公判の後に、弁護士と被告の関係者たちが、お茶しながら裁判のことを語り合う形にしているのが、うまい構成で、裁判の進展やポイントを分かりやすくしている。

「Shall We ダンス?」の周防正行監督が11年ぶりに放つ新作として、過不足のない、じゅうぶんに手応えのある一作でした。
しかし監督、11年も何してたんでしょう。
それでも彼は、食っていけるんですねえ。




〔2007年2月24日(土) ワーナー・マイカル・シネマズ 板橋〕


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