喜劇 仰げば尊し

監督 渋谷実
出演 森繁久彌  佐々木愛  鈴木光枝  田村高広  谷啓  三木のり平  市原悦子  佐藤英夫  京塚昌子  木村功  川口敦子  野村昭子
脚本 松山善三
撮影 岡崎宏三
編集 広瀬千鶴
音楽 林光
1966年作品 93分
評価☆☆★


シネマヴェーラ渋谷でマリリンの映画を上映する、という記事を書いたときに、コメントでMさんが「モンローのような女」も上映することを見つけてくれて、さらにTさんが、それが平日ではなくて祝日であると発見してくれた。
このように、人は助け合い、生きてゆくのである。…というのは大げさだが、そういうわけで「モンローのような女」を観たときの同時上映が、この作品である。

私にとって渋谷実という監督は初めて。何の知識もない。Web事典「ウィキペディア」によれば、エスプリの効いたドラマやシニカルな笑いの演出に優れていた監督だということだが。
森繁久彌が主演。森繁さんといえば、テレビで「屋根の上のバイオリン弾き」の舞台を見たくらいかなあ…。

映画が始まって、出たタイトルには「喜劇」と頭に付いていた。観る前には単に「仰げば尊し」だと思っていたから、あ、そうなんだ、という感じで、ちょっと驚き。
まず、瀬戸内海の島に住む老教師の浜口(森繁)の家に、かつての教え子・黒川(木村功)が訪ねてくるが、あっという間に、とんでもないことに。
いいのか、これ? 木村さんともあろうものが、こういう役ですか? 木村さんといえば、「七人の侍」ですよ、あなた。しかも、どこが「喜劇」ですか?
この監督、ただ者じゃないかも。あー、びっくりした。

黒川の妻に会いに、東京へ行く浜口。ついでに、東京で頑張ってる教え子たちにも会おう、ということになる。
しかし、教え子たちは、自分の生活で精一杯、世知辛いことです。
三木のり平は、連れこみ宿を経営、佐藤英夫は堕胎専門の医者になっていた。
議員の谷啓は、上京した恩師を出迎える姿をカメラマンに撮らせて、宣伝に使おうとさえする。
さらに昔の恋人(京塚昌子)と会って、しっぺ返しを食らったり。
あ、これじゃ、瀬戸内の小さな島で、のんびり暮らしたほうがいいわい、と思うかも。この頃から、すでに東京暮らしは大変だったんだなあ、と思った。でも、それは人によるだろうけれど。

浜口は帰り道、どこかの島に寄って(あとで調べたら淡路島らしいが、映画を観ているときは、寄り道をした経緯さえ、さっぱり分からなかった)、教え子の長尾(田村高広)に会う。
長尾の生徒たちが人形浄瑠璃の発表会をするというので、それまでの話とはまるで趣きの変わったような人形浄瑠璃が画面に映りだすのが、多少の唐突感あり。

船に乗って浜口が島を去るときに、島から子どもたちが手を振ってサヨナラするのが「ニ十四の瞳」みたいな…
そういえば「ニ十四の瞳」の、あのシーンでは「仰げば尊し」の曲が流れていたし、瀬戸内海の島が舞台だったし。「二十四の瞳」のパロディとも言われる部分です。

全体として、たとえば、妊娠した愛人の悲しみや、森繁が東京で出遭う「ひどい目」など、単なる喜劇ではなく「悲喜劇」というべきか
脚本を書いた松山善三といえば、有名な人だが、なんとなく、こんなもん? という気も。
森繁先生にしても、浮気があったり、おろおろしたり、けんかもあったりで、完璧な人間ではない。そういう意味での人間ドラマと、いい意味でとらえればいいのかもしれない。

また、渋谷監督にとっては遺作なのだが、映像的に、何をいいたいのか分からないようなシーンがあった。どこがそうかといえば、よく覚えていないが、なにしろ、そう感じたのである。観ていて、そんな「とまどい」があった。

思い起こせば、谷啓の演じた議員の行動も、一貫性がないというか、意味が分からないところがあった(説明不足なんじゃないかと思う)し、森繁が東京の教え子にがっかりして嘆くさまが陳腐だったりする。見ず知らずのカップルの結婚式に思わず入り込んでしまって、ふと気づいても、もごもご言うだけで、ひとつも「決まらない」のである。
もしかして、逆に、この情けなさが狙いなのだろうか。わざと、変な話を作っているのだろうか。観客を煙に巻いているのだろうか。分からない。

森繁をはじめ、懐かしい俳優の演技を見ることができたのは収穫だった。




〔2007年3月21日(水) シネマヴェーラ渋谷〕


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