ブラックブック

ZWARTBOEK (BLACK BOOK)
監督 ポール・バーホーベン
出演 カリス・ファン・ハウテン  トム・ホフマン  セバスチャン・コッホ  デレク・デ・リント  ハリナ・ライン  ワルデマー・コブス  ミヒル・ホイスマン  ドルフ・デ・ヴリーズ
原案 ジェラルド・ソエトマン
脚本 ジェラルド・ソエトマン  ポール・バーホーベン
撮影 カール・ウォルター・リンデンローブ
音楽 アン・ダドリー
2006年 オランダ・ドイツ・イギリス・ベルギー作品 144分
評価☆☆☆★


ポール・バーホーベン監督の新作、しかも監督の母国オランダで撮ったという。
第2次大戦中、ドイツ軍将校のもとにスパイとして潜り込む女の話。

バーホーベンと聞いただけで、ほとんど、観に行こうと決めていた。けっこう好きなのだ。
特に「スターシップ・トゥルーパーズ」(1998年)は、圧倒的に面白く、強烈に戦争を皮肉に描き出した映画だった。
「ショーガール」(1995年)で最低映画賞であるゴールデン・ラズベリー賞をとってしまうのも、ご愛嬌(あいきょう)。
透明人間のお話「インビジブル」(2000年)も単純に面白かった。
エロスとバイオレンスが特徴と言われる。人間の偽善や暗部を画面にさらけだす、強引ともいえるパワーが素晴らしい。
自分のカラーを出しながら、娯楽色のある映画を作るのが、はっきりした態度で、いいのである。

この「ブラックブック」、すごく、まともだった。チカラ入ってます、バーホーベン。
「アンネの日記」のアンネのように隠れて暮らしているヒロイン。ナチスの迫害を恐れるユダヤ人だ。
彼女が、ある理由から隠れ家を出なければならなくなるところから、物語は動いていく。
反ナチの地下組織に関わった彼女は、ドイツ軍への恨みもあり、やがてスパイ役を引き受け、ナチス将校の情婦になる。
彼女の正体を知った女友達に、(スパイだなんて、)あなた、マタ・ハリね、などと言われるシーンもあった。マタ・ハリは第1次大戦中の伝説的な女スパイ。

バーホーべンらしいエロ場面(?)は、まず、アンダーヘアを染めるところ。髪の毛を染めたので、男とベッドインしたときに怪しまれないように、下の毛も染めているのだ。ここでアンダーヘアが包み隠さずに画面に映る。
あとは、ドイツ軍将校の裸を正面から映した場面もあったが、こちらはボカシが入っていた。日本の映倫、まだまだ幼稚である。

ところで、初日の特典は、カカオ分の多い外国産チョコレート。これ、実は映画と関係があったのだ。
しかも、かなり重要。かつ、ホントかよ? でも面白い、という場面でもあった。
このチョコ、苦くて、そのままではとても食べられなかったのだが、アイスクリームと一緒に食べてみたらOKだった。カカオ分の多いチョコはダイエットにも使えるというが、アイスクリームと一緒に食べたら、その意味では使えないね!

初日の初回、思ったより込んでいて、(たぶん)関係者数人で喜んでいる姿を目撃。
同時期に公開中で、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「善き人のためのソナタ」に出ているセバスチャン・コッホが、こちらの映画には将校役で出演していることも、観客を呼んだ理由のひとつかもしれない。
(あ、裸をさらすのはコッホさんではないですよ、念のため。笑)
まさか、特典目当てで来ているわけではあるまい。(私は、多少…。)

スターが出ていないぶん、小ぶりで地味、しかも上映時間が2時間24分と長いけど、私は楽しめた。
いいじゃないの、バーホーベン、たまには(?)真面目に作っても。オランダ出身の彼だからこそ、オランダの地で、祖国のレジスタンス活動を描く映画を作る意義も資格もあったはず

爆撃機が戦闘機に攻撃されて損傷を受け、爆弾を投棄する場面は、はじめて見た。重い爆弾を持ったままでは、飛行に支障があったり、引火する恐れもあるのかもしれない。よく分からないが。ここは印象的だった。

ラスト。イスラエルにあるキブツ(共同体社会)に、兵士がいるのを見逃してはならない。
1956年のスエズ危機。またしても戦争の波が押し寄せているのだ。
人間の裏側にある、裏切りや憎しみ、邪悪な欲望は、自らそれを捨てない限り、尽きることがない。そうした心が戦争を呼ぶのである。




〔2007年3月24日(土) テアトルタイムズスクエア〕


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