毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト

FUR : AN IMAGINARY PORTRAIT OF DIANE ARBUS
監督 スティーヴン・シャインバーグ
出演 ニコール・キッドマン  ロバート・ダウニー・Jr  タイ・バーレル  エミー・クラーク  ジュヌヴィエーヴ・マッカーシー  ハリス・ユーリン  ジェーン・アレクサンダー
原作 パトリシア・ホズワース
脚本 エリン・クレンダ・ウィルソン
撮影 ビル・ポープ
音楽 カーター・バーウェル
編集 出口景子  クリスティーナ・ボーデン
2006年 アメリカ作品 122分
評価☆☆☆


 ニコール・キッドマン嬢の映画が公開される! と知って、どこで上映するんだろうと調べてみたら、関東では、渋谷と千葉の2か所だけ…!?
 
ニコールなのに、なんで、こんなに縮小(?)公開?
それでも行きましたとも。
実在した写真家のお話、という知識だけしかない状態で。
 
まずカメラは、バスに乗って撮影取材に出かけているらしいダイアン(ニコール)を映す。ときは1958年。
彼女が向かったのは、ヌーディストのコミュニティ。
対応に出た壮年のカップルもオールヌード。撮影するなら、あなたも脱いでください、といわれるダイアン。
ダイアンが脱ぐ前に、画面は切り替わり時間をさかのぼるが、しょっぱなからヌードというので、日本で18歳未満お断り(アメリカは17歳以下は保護者同伴のR指定)&単館系で上映映画館が少ない理由の一端が分かった。
映画の始めにヌードで目をひくのが、狙ってやったことなら、少し、あざといとも思うが。
 
ダイアン・アーバン(映画では正しくは「ディアン」と言っていた)は、1923年生まれで、写真家の夫とともにファッション雑誌や広告の分野で活躍、やがて彼女独自の視点をもった写真を撮り始める。
「わたしが最初にたくさん撮ったのはフリークスだった」という言葉もあるように、特徴的なのは、フリークス(異形、奇形)の写真のようだ。
1969年に離婚、1971年に自殺。
 
映画は、彼女の伝記ではなく、オマージュを捧げたものだと、まず断っている。つまり彼女が、いかにして異形の写真家へと生まれ変わったのか、その瞬間を、多くのイマジネーションとともに描いている。
 
夫のアシスタント的な人生を送っていたダイアンは、アパートの上階に越してきたライオネル(ロバート・ダウニー・Jr)の、かぶり物をした異様な姿を見かけ、興味をひかれる。
それが、彼女の中に息づいていた、奇妙なものへの興味を呼び覚ます、きっかけだった…。
 
写真を撮りたいという理由で、上階のライオネルの部屋に足しげく通うようになるダイアン。
ライオネルは、ダイアンの心の奥の欲望を見抜いているかのように、刺激的な言葉をかけたり、2人でお風呂に入ったり。不思議な、しかし、深い交流が展開していく。
やがてフリークスたちがアーバン家に遊びにくるようにもなり、下の娘は屈託なく付き合うが、夫は、いい気持ちはしない。ライオネルに対する嫉妬もある。
 
ダイアンが天井のネジ止めをはずして階段を下ろし、自分の家の部屋とライオネルの家の部屋をつなげるところは、まるでマリリンの「七年目の浮気」の一場面。
下りてきたのはマリリンではなく、フリークスたちだったが。
 
ダイアンとライオネルの触れ合いが印象的なラブストーリーだった。
ニコールは相変わらず、きれいです。後ろ姿のヌードまでは見せてくれます。スリムだけど、おなかあたりとか、意外に「ふっくら感」もありそうで、熟れてるなあ…。。。(あとで考えたけど、そのシーンだけボディ・ダブル〔別人〕という可能性は…あったかなあ?)
 
スティーヴン・シャインバーグは「セクレタリー」(2002年)の監督。私は「セクレタリー」は観ていないのだが、秘書が尻をたたかれるようなビザール系(奇妙な、とっぴな、変わってる)らしいから、この「毛皮のエロス」とも傾向としては似ているのかもしれない。
また、シャインバーグ監督のおじさんが、ダイアンの友人だったという。彼にはダイアンの映画を作る縁があったのかも?
 
ニコールの女優魂は素晴らしい。
大スターなのに(だから?)、映画のヒットは度外視して、こういう芸術作品系を選んで出演することが多いのも、いいところ。
自分のやりたい役をやる。そういう状況にある彼女は幸せなのだろうし、それが演技者としての、ひとつののあり方に違いない。
これからも応援します。
 
…あんな毛皮に包まれたら、どんな気持ちになることか。




〔2007年5月26日(土) シネマGAGA!〕


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