ブラック・スネーク・モーン

BLACK SNAKE MOAN
脚本・監督 クレイグ・ブリュワー
出演 クリスティーナ・リッチ  サミュエル・L・ジャクソン  ジャスティン・ティンバーレイク  S・エパサ・マーカーソン  ジョン・コスランJr  マイケル・レイモンド=ジェームズ  キム・リチャーズ  ネイマス・K・ウィリアムズ  デヴィッド・バナー  エイドリアン・レノックス  サン・ハウス
撮影 アメリア・ヴィンセント
音楽 スコット・ボマー
編集 ビリー・フォックス
2006年作品 116分
評価☆☆☆☆


女を鎖でつないで、家に監禁?
主演は、サミュジャク(サミュエル・L・ジャクソン)と、クリスティーナ・リッチ?(クリリチとは言いません!)
面白そう!
そんな情報のみで、ほいほいと観に行く私であった。

…すっごく良かった!
これ、心の「闇」や「きず」(「傷」「瑕」とするとイメージが固まるので、平がなにしておく)といったものを癒す話だったんだね。私は何度も涙してしまった。

クリスティーナ・リッチが断然良い!
申し訳ないのだが彼女、ふだん見ると可愛いんだか可愛くないんだか、よく分からない顔だと思っていた。
しかし、この映画では、ものすご〜く魅力的なのだ。
殴られて顔に傷やアザがあるという、女優としては挑戦的であろう演技も、個性的な彼女ならではの輝きに変わる。
かなり長い間、半Tシャツとパンティだけ、という姿なのも、魅惑的だ。その姿なのには、きちんとした理由があるし、セックス依存症という役柄をも印象づけている。

牧師と話をする場面がある。
たった1回、悔い改めたら、それで救われるの、そんな簡単なことでいいの? などと彼女が牧師に聞いたりする。
その会話をしているときに、彼女が、ふと、涙をこぼすんだよね。
ハッとした。
彼女の心の「闇」や「きず」の深さを知らされた思いで。

それは一例だけど、とにかく、クリスティーナ、素晴らしすぎ!
母親に感情をぶつける場面、サミュジャクの歌を聴きながら彼のひざに抱きつく一連の場面…その他、まあ、あらゆる場面においてですね…。
すごいわ、この女優は。
ちっちゃくて、細くて、サミュジャクと並ぶと、子どもみたいなのに、その存在感ったらない。
「アダムス・ファミリー」(1991年)で、変わった子役だなーと思っていたのが、嘘のような。

ラザラス(サミュジャク)には、こともあろうに妻を弟に寝取られて、独りになった、という心の「きず」が。
そんなとき、殴られて道端に捨てられた女レイ(クリスティーナ・リッチ)と出会い、彼女のセックス依存症を治してやろうとするうちに、彼自身も生きがいを見出し、また、癒されていくわけだ。

全編に流れるブルースが、これまた、いいんです。
サミュジャクがギターを持って弾き語るのが、いい味。
私は、とくにブルースを聴くこともないし、好きでもないと思っていたけど、ジンと染みてくるのだ、聴いてると。いいです。ブルースがこんなにいいと思えるなんて、我ながら奇跡みたいだ。
サミュジャク、かなり練習もしたらしい。ラザラスは以前、バーでブルースをやっていた、という設定だが、ホントにプロみたいなサミュジャク。
映画俳優って、役柄によって何かを練習しなくちゃいけない場合があると、いろんな技術がそれなりに身について、いいよね。

ところで、公式HPを見ていて、マリリン関連の話を発見したので、ここに挙げさせていただきます。
撮影監督アメリア・ヴィンセントの話。

…長椅子に寝そべる女性だったり、ふたりが引っ張り合う鎖やギターをフレームに収めるため、ワイドスクリーンを採用することは必然の結果だったと言えるでしょう。
参考にしたのは西部劇です。中でも「荒馬と女」(1961年)や「捜索者」(1956年)は特に念入りに研究しました。…

マリリン主演の「荒馬と女」には、クラーク・ゲーブルが馬にロープをかけて格闘する場面がある。…鎖で引っ張り合うのと絵的には似ているかな。

ちなみに、この映画のタイトルで、東京コミックショーのヘビ使いのネタでのセリフ「レッド・スネーク・カモーン!」を思い出す人もいるでしょうね…。なんて似てるんだ…。
ブラック・スネークくらいは意味分かるけど、「モーン」は普通分からないでしょ、日本人には。意味が分からない邦題が、またひとつ誕生。
moanは「うめき」。黒いヘビがうめくんです。これは、サミュジャクが歌うなかの歌詞に出てくる。やはり、心の「きず」なのでしょうね。

観ているうちに、彼女の依存症が治ればいいと、本当に心から願っていた。
希望の見える、前向きなラストも文句なし!
見た目は、変わった設定で興味を引きながらも、中身は、ブルースに彩(いろど)られながら、人と人との絆によって心の「闇」や「きず」を癒そうとする物語。ただし、映画でも言っていたように、立ち直るのは最終的には本人しだい、なのだろう。

インパクトのある変わった映画って、基本的に好きなほうだけど、この映画も、そのユニークさも含めて、とても好きな作品だ。




〔2007年9月8日(土) 渋谷シネ・アミューズ〕


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