転々

脚本・監督 三木聡
出演 オダギリジョー  三浦友和  小泉今日子  吉高由里子  岩松了  ふせえり  松重豊  平岩紙  広田レオナ  鷲尾真知子  石原良純  津村鷹志  笹野高史  岸部一徳  麻生久美子
原作 藤田宜永
撮影 谷川創平
編集 高橋信之
音楽 坂口修
2007年作品 101分
評価☆☆☆★


東京を散歩する男2人。
「やじきた道中 てれすこ」に続き、連日の小泉今日子さん出演映画を満喫。
当然のごとく、小泉さん目当てで観たわけだが、それは別にしても、いい雰囲気の映画だった。
ほのぼのして、笑えて、最後は、ちょっとだけ、しんみり。

大学8年生の文哉(オダギリジョー)は借金を抱えているが、借金取りの福原(三浦友和)に、一緒に霞ヶ関まで散歩してくれたら100万円をやる、と持ちかけられる。
文哉としては、福原の目的が何なのか分からず、多少は躊躇(ちゅうちょ)するものの、借金を返すために話に乗る。
吉祥寺公園から始まる、この散歩、どんなことになるのか…?

とくに、三浦友和が、こんなに、いい味を出せる俳優だとは知らなかった
私は邦画をろくに観てはいないので、あまり断定的なことは言えないのだが、三浦さんには「すごく、いい人」の役の固定的なイメージがあった。
その三浦さんが初めて登場するシーンが、文哉のアパートに借金を取りに来るところで、ここで裏社会のプロフェッショナルさを、さりげなく見せたところから、三浦友和って、こんな演技するんだ!?とインパクトを感じたのだ。
全体に、ちょっと、とぼけた面もあり、だらしない感じがありながら、クールな大人な男でもある、といったオーラがあって、素晴らしかった。

オダギリ君は、いつもながら、うまいと思う。
「うまい」というのか、普通にやってるのが「うまい」んだよねえ。力んだりしないし。

小泉さんは、スナックのママさん、麻紀子の役。
男2人が転がり込んでいた麻紀子の家に、彼女の姪(吉高由里子)がやってきたことから、彼らは擬似家族を演じることになる。
ふんわり、ほんわかと生きているような麻紀子を、小泉さんは軽やかに演じる。こういう役(も)、合ってるなあ。

コメディリリーフ(笑いを誘う場面を担当する俳優)には、三木監督がテレビでヒットさせた「時効警察」でもおなじみの岩松了、ふせえりが。
そこに松重豊が加わったトリオで、ゆるい笑いを巻き起こす。
この3人が並んで歩いているところ、松重が他の2人の2倍くらいの大きさがあって、なんだか、すごい風景。
婦警さんの後姿が映ったとき、あ、これは…と思ったら案の定、「時効警察」の三日月くん(麻生久美子)でした!

肉屋さんが「あぶどら肉店」とか(アブドラ・ザ・ブッチャーというプロレスラーがいたんですねえ。ブッチャーというのは肉屋の意味。)、麻紀子の店が「スナック時効」だったり。
岸部一徳がなにげなく、そこにいて、それを見た、ふせえりが「岸部一徳に会うと、いいことがある」と喜んだり。石原良純の意外な登場も。
そういう笑いの小ネタもいっぱい。そのへんは「時効警察」ノリで、おかしい。

そして終盤。
散歩の最後が迫り、浅草の「花やしき」のローラーコースターの場面は、じんわりと心に染みた。女2人が見守っている景色も、いい。
2人は日比谷公園のそばの道を歩く。ここは私も知っているところかな、と思う。ああ、霞ヶ関の近くまで来たんだ。
文哉は、福原と別れたくない。しかし…。
エンディングの、いさぎよさ。かえって余韻を残す。
観客として、登場人物と一緒に、ちょっとした、いい散歩をしたな、と思える映画だった。




〔2007年11月11日(日) テアトル新宿〕


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