ローリング・ストーンズのミック・ジャガーの元恋人であり、歌手であり、「あの胸にもういちど」(1968年、アラン・ドロン共演、ジャック・カーディフ監督)の主演女優だった、マリアンヌ・フェイスフル。
彼女が若い頃に活躍していた当時は、私はリアルタイムで見聞きしたことがないが、1975年にテレビ放送で「あの胸にもういちど」を観ていた。(いちど、観ていないと書いたが、よくよく調べてみたら、観てました。訂正します。だけど内容は、まったく覚えていない!)
最近は「マリー・アントワネット」(2006年)でマリア・テレジアを演じたり、「パリ・ジュテーム」(2006年)などにも出ているという。
母方の大叔父がマゾッホ男爵というのも、なんだか、すごい。
その彼女が久しぶりに主演ということ、珍しい性風俗のアルバイトをする話であること、そして、かなり良い映画の評判を聞いたことに興味を引かれた。
夫を亡くして数年になるマギー(マリアンヌ・フェイスフル)。孫が病気になり、オーストラリアにある病院でなければ治せないことが分かる。イギリスからは遠い。
しかし一家には、旅行代を含めて、その費用を作ることができない。
そこで、マギーは仕事を探す。年齢がいって特技もない人間に、かんたんには仕事が見つからない。
「接客係募集」の張り紙を見て、ふと、店の階段を下りていったマギー。事務所で彼女は仕事の内容を知って驚く。
つまり、手を使って、男を発射させてやる仕事、フィンガーサービスなのだった。
壁に穴だけがあいていて、向こう側から男がアレを差し込む。彼女は、こちら側にいてサービスする、という仕組みだ。
迷うマギーだが、仕事は選べない状況だし、高給の魅力もある…。
支配人のミキ(ミキ・マノイロヴィッチ)が、これは日本式だ、東京で見たんだ、と言ったのには笑った。
「ラッキーホール」「マジックホール」などといわれるものですね。行ったことないですが。(ホントです!)
壁をへだてているので、男のほうも従業員のほうも互いに顔を合わせないわけで、恥ずかしさはないと思うけど、これ、従業員が男でも、手がきれいだったら通用するんじゃないかと考えたら、ちょっと嫌だ。(笑)
顔が分からないから、マギーのようなおばちゃんでも、すべてOKな仕事ではあるけれども。
「手のひらイレーネ」(イレーネ・パーム、原題)という名前をつけたら、彼女は大人気に。名前があれば、男のほうでも「イレーネ・パーム」という人間を身近に想像することができるから、もともと評判がよかったのが、もっと人気は上がる。
お金のために働き始めたマギーだが、支配人や周囲の友人たちとの関係にも変化が生じてくる。
何をしているのかと詮索する友人を避けていた彼女。はじめは、ごく普通の、おとなしめな中年の主婦だった、そんな彼女が、どのように変わっていくかに注目。
彼女が稼いだ金に対する、息子夫婦それぞれの反応は興味深い。
息子の態度には、ちょっと見ていて腹が立ってしまったが、それも観客であるこちらがマギーに感情移入しているからだろう。
彼にしてみれば、自分が稼げずに母の世話になってしまったことが情けないに違いないのだ。
マギーが売れっ子になると、それまで働いていた女の子が仕事を失う、という厳しい現実も、きちんと見せている。
人間の自立、成長を描いた佳作だと思う。
仕事に、尊いも卑(いや)しいもない。精一杯生きるために頑張る人間は美しく、その者は救われるべきだ。
マリアンヌ・フェイスフルが話題だが、他にも注目すべき名前はある。
まず、ジェニー・アガター。マギーの行動の謎を知りたがる主婦の代表のような役。
彼女の映画で何を観た、というのはないのだが、とにかく懐かしい。名前はよく知っているのだ。
それから、支配人役を演じたミキ・マノイロヴィッチは、エミール・クストリッツァ監督の傑作「アンダーグラウンド」(1995年)の主演男優だ。
マギーの話がメインでありながら、この支配人が映画に占める比重も、だんだんと大きくなっていく。
そんな映画ではあるけれど、絶賛の声もあるけれど、私は、地味ながら、いい話だったな程度の思いだった。
それほど、飛び抜けたものがあるとは感じなかった。
公式ホームページにあった、マリアンヌ・フェイスフルの言葉を載せておく。一言でいえば、これがテーマになると思うから。
「…本当に重要なことは、あなたがあなた自身を、どう考えるか、ということなのです」