エンジェル

ANGEL
脚本・監督 フランソワ・オゾン
出演 ロモ−ラ・ガライ  マイケル・ファスべンダー  ルーシー・ラッセル  サム・ニール  シャーロット・ランプリング  ジャクリーン・トン  ロザンナ・ラベル
原作 エリザベス・テイラー
撮影 ドニ・ルノワール
編集 ミュリエル・ブレトン
音楽 フィリップ・ロンビ
2007年 イギリス・ベルギー・フランス作品 119分
評価☆☆☆☆


エンジェルの生意気でプライドの高い性格を見ながら、私は「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラみたいだな、と思っていた。

お屋敷で働く仕事の話をもってきたおばさんに対して、失礼なほど、すげなく断る。
彼女が時々外から眺めて、その優雅な生活に憧れていた、まさにその屋敷で働くという話ゆえに、なおのこと哀れみを受けたという勝手な思い込みが強かったに違いない。プライドからくる反発だ。施しは受けないわ、ということだ。自分は小説を書いて出世するんだという思いもある。
彼女の小説を出版する条件として、少しだけ文章を直したい、という出版者には、一言一句も変えません、と言い切る。そのくせ、後になって、ひとりで涙をこぼしている。そこまで映画の中で彼女のわがままを見てきた私は、彼女が泣くなんて、と驚いたが、なるほど、とも思った。ここで彼女が泣かなかったら、感情も何もない、とてもつまらないキャラクターにしかならなかっただろう。

画家に描いてもらった自画像を、画家の承諾も得ずに、パーティーで発表しようとする。
彼女のほうから男にプロポーズする。
私がいちばん面白いと思ったのは、旅行みやげの効能あらたかな「水」を自分が半分ほども飲んでしまって、ふつうの水を注ぎ足してからプレゼントしたところ。
母が亡くなるときも、好きではないおばさんを臨終の場に立ち合わせない。

小説の書き方にも性格は出る。
何も調べず、ただ想像だけで書きまくる。
情熱的に、自分の文章に酔いながら。
出版者の言葉によれば、出産の光景に「血の海」のような表現を使ったり、細かく言えば間違っている表現などがある。
出版者の妻は、彼女の作品のなかで好きなものはない、と言う。そういう小説を、エンジェルは書いた。

結婚相手との生活は、うまくいかない。
このわがままな性格の女と結婚生活を送ることができるのは、どんな男だろう。何もかも彼女の思うようにしてあげる男?
それは大変だ。

このように書いてくると、このヒロイン、どれだけ嫌な女なのかと思うかもしれない。
しかし私には、まったく、そうは映らなかった。
むしろ可哀想だと思った。それどころか、可愛いとさえ思えそうな。
自己中心的な性格は、そうでなければやっていけないという弱さの裏返しだ。

彼女は作家として世に出るという夢を実現した。
自分ができることを精いっぱい、やって生きてきたのだ。
それがもしも悲劇に終わろうとも、彼女は他にどのように生きることができただろうか。
私に言わせれば、むしろ彼女の夫のほうが弱すぎたと思うのだ。
彼は、エンジェルは弱いのだ、と理解しておきながら、自分勝手に生きていく。
ひとり残されたエンジェルのことを考えているのか。エンジェルを幸せにできないなら、結婚するな、ということだ。

ものの見事にエンジェルを演じていたロモーラ・ガライだが、私は、本作で初めて見た。
つい先日まで公開されていた「タロットカード殺人事件」(2006年)に出ていたという。観ればよかった…。
静かな役よりは、波乱に満ちた激しい役のほうが、もしかして簡単なのかもしれないが、とにかく素晴らしいと思った。
1982年、ロンドン生まれ。名前からするとフランス人なのかと考えていたが。

エンジェルの信奉者であり、彼女のそばで働くことになるノラを演じたルーシー・ラッセルも好演
地味だが大事な役どころ。

ひとつ気になったのが、馬車のシーンだったか、走っているときに、バックの風景がしっくりしていなかったこと。
昔の映画でよくある、スタジオ撮影でバックの風景を合成するという、やり方だ。
旅行の場面でも、セット撮影とはっきり分かる撮り方があって、少し変だなと思っていたのだが、あとでオゾン監督のインタビューを見ると、昔のアメリカ映画の手法を取り入れたのだという。
なるほど納得。
ただ、映画を観ている観客に、変だなと思われては、よくないのではないか、とも言える。
そんなマイナスともいえないマイナス面はあったとはいえ、ロモーラ・ガライの熱演、ドラマとしての満足感は、それを補って余りあるものだった。

オゾン監督の映画にしては、分かりやすい内容かもしれない。
だが、そもそもオゾン監督らしさとは何なのか。彼の映画はバラエティに富んでいる。それならば、どの作品もオゾンらしい、ということになる。
フランソワ・オゾン、私にとっては、これからも見逃せない監督だ。

今回は、アメリカ(ハリウッド)映画風味、大メロドラマによる、ヒロインの一代記、といえようか。




〔2007年12月16日(日) シャンテシネ1〕


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