ラスト、コーション

監督 アン・リー
出演 タン・ウェイ  トニー・レオン  ワン・リーホン  ジョアン・チェン  トゥオ・ツォンホァ  チュウ・チーイン  チン・ガーロウ  クー・ユールン  ガオ・インシュアン  ジョンソン・イェン
原作 アイリーン・チャン
脚本 ワン・フイリン  ジェームズ・シェイマス
撮影 ロドリゴ・プリエト
編集 ティム・スクワイアズ
音楽 アレクサンドル・デスプラ
2007年 中国・アメリカ作品 158分
アジア映画祭…主演男優賞
評価☆☆☆☆


本当のことを言えば、エッチシーンが第一の目当てで観に行ったことを白状しなければならない。(いや、白状しなくてもいいんだけど。)
しかーし! じつに丹念に、女と男の愛の姿を追った、悠然たる作品だった。
観る直前に、上映時間が2時間38分あることを知り、少し、たじろいだが、長さはほとんど気にならなかった。

「あなたはタブーを目撃する」などと公式HPにもあるが、いわゆるエッチなシーンは、私に言わせれば、たいしたことはない。アクロバット的な体位は笑えそうなくらいだったし。

営業戦略的には、エッチを押し出してもいいだろうが、それ(だけ)が映画の大切な部分ではない。(エッチに引かれた私が言うのも説得力がない!)
本作が描くのは、愛の感情の動きだ。

1万人の候補者から選ばれ、演技の練習を重ねていった、新人の主演女優タン・ウェイの素晴らしさ

アイリーン・チャンの原作短編は「色・戒」という。(映画は「色|戒」。色と戒を区切る壁が鮮明になっている。)
タン・ウェイの清楚さが、「色」(愛欲)に染まっていきながら、「戒」(いましめ)へと戻りつつ、揺れ動く女の情感。
清楚と妖艶が見え隠れする、なんと美事な存在感か。

相手役のトニー・レオンとともに、セリフ以外のところ、表情や視線など、心と動作で演じる部分が、力をもって迫ってくる。
ベッドシーンは、そうした2人の感情の激突の象徴といってもいいのだろう。
そして、ラストへ向かって最高潮になっていく、さまざまな決断と、物語が終息を迎える様を目にすれば、胸を衝(つ)かれずにはいられない。
主演の2人、とくにタン・ウェイがメインの映画である。

タン・ウェイは、10代の頃からモデルとして活躍し、2004年のミス・ユニバース北京大会で第5位だったという。
映画でも素晴らしい演技を見せた彼女、天は二物を与えたんですねえ。彼女のチャイナドレスに包まれた美しさも堪能した。

物語の舞台は、日中戦争(1937年〜1945年)時の中国。
日本に協力する男(トニー・レオン)を暗殺しようとするグループの一員が、タン・ウェイの役どころ。
男の警戒が厳重なので、彼女が男に近づく。暗殺が可能な状況を見つけるか、作るかしなければならない。
作るとすれば、2人だけになる情事に持ち込む作戦も、当然考えられるわけだ。

彼女自身は初めは、それほど乗り気ではなかったと思う。血気盛んな仲間、なかでも、ちょっと好意をもっている男と一緒に行動をともにしたい気持ちのほうが愛国心よりも大きかったはず。
若者たちの未熟な計画。どんどん彼女の負担は重くなり、ついには計画自体が思わぬ危機にさらされることになる…。

「ラスト、コーション」というタイトルを知って、え、「ラスト・コーション」じゃないの? なんで「、」なんだろう、変なタイトルつけるなよ、と思っていたのだが、じつは原題のとおりだったのですね。訳すと「欲、警告」といったふうになる。
つまり原作のタイトルどおり「色、戒」。
でも「ラスト、コーション」では、やはり意味は分からない。「ラスト」は「最後の」という意味だと、ずっと勘違いしてたし。

それはともかく、女と男の違いを、まざまざと見せつけながら、男(私)は女の情念に圧倒される
見ごたえのある一作だった。




〔2008年2月9日(土) 新宿バルト9〕


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