ノーカントリー

NO COUNTRY FOR OLD MEN
脚本・監督・編集 ジョエル・コーエン  イーサン・コーエン
出演 ハビエル・バルデム  ジョシュ・ブローリン  トミー・リー・ジョーンズ  ウディ・ハレルソン  ケリー・マクドナルド  ギャレット・ディラハント  テス・ハーパー
撮影 ロジャー・ディーキンス
音楽 カーター・バーウェル
2007年 アメリカ作品 122分
アカデミー賞…作品・監督・脚本・助演男優(ハビエル・バルデム、助演男優賞受賞者は特に表記のない限り、以下同じ)賞
美術監督組合賞
ゴールデングローブ賞…脚本・助演男優賞
ナショナル・ボード・オブ・レビュー…作品・脚色・アンサンブル賞
英国アカデミー賞…監督・撮影・助演男優賞
ボストン映画批評家協会賞…作品・助演男優賞
ブロードキャスト映画批評家協会賞…作品・監督・助演男優賞
セントラルオハイオ映画批評家協会…作品・監督・アンサンブル・脚色・助演男優賞
シカゴ映画批評家協会賞…作品・監督・脚色・助演男優賞
シネマオーディオソサエティ…音響効果賞
ダラスフォートワース映画批評家協会賞…作品・監督・助演男優賞
アメリカ監督組合賞
オーストラリア映画批評家協会賞…外国映画賞
フロリダ映画批評家協会賞…作品・監督・撮影・助演男優賞
カンサス映画批評家協会賞…脚色・助演男優賞
ラスベガス映画批評家協会賞…作品・監督・助演男優賞
ロンドン批評家協会賞…作品・助演女優(ケリー・マクドナルド)賞
ニューヨーク映画批評家協会賞…作品・監督・脚本・助演男優賞
オンライン映画批評家協会賞…作品・監督・脚色・撮影・編集・助演男優賞
PGA賞
フェニックス映画批評家協会賞…作品・監督・脚色・編集・アンサンブル・助演男優賞
サンディエゴ映画批評家協会賞…作品・撮影・アンサンブル・助演男優(トミー・リー・ジョーンズ)賞
サンフランシスコ映画批評家協会賞…監督賞
サテライト賞…作品・監督賞
映画俳優組合賞…助演男優・キャスト賞
サザンイースタン映画批評家協会賞…作品・監督・脚色・助演男優賞
トロント映画批評家協会賞…作品・監督・脚本・助演男優賞
USCスクリプター賞
バンクーバー映画批評家協会賞…作品・監督・助演男優賞
ワシントンDC映画批評家協会賞…作品・監督・アンサンブル・助演男優賞
アメリカ脚本家組合賞…脚色賞
サターン賞…助演男優賞
評価☆☆☆


大金を拾い、黙って自分のものにしようとした男が、恐ろしい殺し屋に追われる。
老保安官は、自分には理解できないような犯罪が増えたことを例に挙げて、年老いた者は今の世の中には、ついていけないと嘆く。
そういう話だ。
原題を直訳すると「老いた者のための国はない」。

殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)が怖い。怖すぎる。
ボンベを持ち歩き、圧縮した空気を使った銃(詳しくは知らないが)で、人を殺す。家畜を殺すときに、そうした銃を使うという話が映画の中で出てくることも、この男の怖さを高めたりする。家畜と同じように人を…。

この男と向かい合ったとき、何の理由で、いつ殺されるか分からない、という恐怖感は、ものすごいものがある。
ただ、ひとりだけで行動し、ただ、ひとりだけの論理を持つ。
絶対的な死神、悪魔、運命、荒廃。
愛や喜びといったものとは対極にあるような存在。

はじめは現代の物語かと思って観ていたが、違った。1980年。しかし、現代でも、じゅうぶんに通じる話ではないか。
とすると、病んだアメリカは、すでに20数年も続いていることになる。

殺し屋はすごいが、この映画、それだけのこと。そういうことにしておきたい。私は好きではない。こんなものは見たくない、そういう拒否感があるかもしれない。
同じコーエン兄弟の監督作を比べれば、「ブラッドシンプル/ザ・スリラー」(1999年)に見られたはずの、おかしさ、ユーモア感が不足しているのも好みではない。
観てから4日が経ち、いろいろ考えるにつれて評価は上がったが、好みの問題は変えられない。
人間の底知れない暗黒が世界を押さえつける時代。
絶望感、終末感にも通じる。
もはや古き良き昔の人間が生きる場所はないのか。

シガーが、映画の中で最後に実行しようとする殺しは興味深い。
もはや必要がなくなったはずの殺しを、彼は独自の論理をもって行おうとする。
相手は、私を殺す理由はない、と言う。シガーは、みんなそう言う、と応える。
ここから先のストーリー(殺人計画と車の事故)の解釈は2通りあるのではないかと思う。ネタばれになるので詳しくは書かないが。
救いのない展開か、救いのある展開か。
神を超越したか、神に赦(ゆる)されたか。
普通に考えれば前者になるのだろうが、後者であってほしいと、かすかな希望を思う

アカデミー賞作品賞をはじめ、多数の受賞を経てきているが、映画の出来は別として、こうした内容の作品が受賞するのは、世も末だ、という気もして複雑だ。




〔2008年3月15日(土) 日比谷スカラ座〕


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