ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

THERE WILL BE BLOOD
脚本・監督 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 ダニエル・デイ=ルイス  ポール・ダノ  ディロン・フレイジャー  ケヴィン・J・オコナー  キアラン・ハインズ  
原作 アプトン・シンクレア
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 ディラン・ティチェナー
音楽 ジョニー・グリーンウッド
2007年 アメリカ作品 158分
アカデミー賞…主演男優・撮影賞
ゴールデングローブ賞…主演男優賞(ドラマ部門)
ベルリン国際映画祭…監督・技術貢献(ジョニー・グリーンウッド)賞
全米批評家協会賞…作品・監督・主演男優・撮影賞
ニューヨーク映画批評家協会賞…男優・撮影賞
ロサンゼルス映画批評家協会賞…作品・監督・男優・美術賞
英国アカデミー賞…主演男優賞
ブロードキャスト映画批評家協会賞…主演男優・音楽賞
セントラル・オハイオ映画批評家協会賞…主演男優賞
シカゴ映画批評家協会賞…主演男優賞
ダラス・フォートワース映画批評家協会賞…主演男優賞
イブニング・スタンダード・ブリティッシュ映画賞…男優賞・音楽賞
フロリダ映画批評家協会賞…男優賞
アイリッシュ・フィルム・アンド・テレビジョン・アワード…男優賞
カンサスシティ映画批評家協会賞…作品・監督・男優賞
ラスベガス映画批評家協会賞…男優・撮影・音楽賞
ロンドン映画批評家協会賞…監督・男優賞
オンライン映画批評家協会賞…男優・音楽賞
フェニックス映画批評家協会賞…主演男優賞
サンディエゴ映画批評家協会賞…監督・男優・音楽・脚色賞
サウスイースタン映画批評家協会賞…男優賞
バンクーバー映画批評家賞…男優賞
映画俳優組合賞…主演男優賞
クロトルディス賞…監督・主演男優・助演男優(ポール・ダノ)賞
アメリカ撮影監督協会賞
美術監督組合賞
評価☆☆☆☆


ひとりの石油採掘人の強烈な生き方を描く。
ダニエル・デイ=ルイスの演技のうまさと、ポール・ダノのうさんくさい存在感。

デイ=ルイスは、彼が演じているダニエル・プレインビューという役柄の人物そのものとしか思えなくなってくる。
しかし、そんな怪物級のデイ=ルイスに立派に対抗していたのが、ポール・ダノ。
どこか子どものような、ぺろんとしている顔立ちの表情の中に隠された、嫌悪感をもよおすような俗物性
聖職者づらの陰で、金と、カリスマ性をまとった支配力を求める神父を演じるとき、彼の顔立ちが、見る者に、どんな感情を呼び起こさせるか、ということを計算したのなら、見事なキャスティングといえる。

全編を通して、2人の確執は続く。神職の仮面をかぶった偽善と、それを嫌悪する者。

ポール・ダノ、どこかで見たぞと思っていたが、「リトル・ミス・サンシャイン」の、口をきかない息子じゃないですか! なんとまあ。
ダニエル・デイ=ルイスと1対1の演技場面も多いので、彼に負けじと頑張ったことが、ダノの「怪演」とも見える結果を生んだのかもしれない。
なにしろ、エンディング間際の、ボウリング・レーンのある部屋での2人の対決といったら、鬼気迫る迫力だ。
デイ=ルイスの憎しみの感情のほとばしり、それを受けるダノ。
そして、いくつかの意味にとれる最後のセリフ、締めくくりの鮮やかさは、この物語が考えうるベスト・エンディングのなかのひとつだろう。

それにもまして素晴らしいのは、音楽。
スタートから、不協和音のような音楽が緊張感を高める。
不安な胸騒ぎをかもしだすような音に彩られて、ドラマは格段にランクを上げた。
作曲はジョニー・グリーンウッド。ロックバンドのレディオヘッドのメンバーだという。今後も、絶対に要注目!
エンドロールなどでは、ブラームスのバイオリン協奏曲第3章も使っていたらしい。

カリフォルニアで油田を採掘していた、ということは、恥ずかしながら認識していないことだった。
個人が掘り当てれば、それは個人の財産になったわけか。
ダニエル・プレインビューは、金を掘り当て、資金を得る。彼はチャンスをつかんだ。こういうことが、アメリカはチャンスの国(だった)、と言われるゆえんだろうか。
プレインビューは資本家であり、労働者を雇い、油田採掘をする。資本家と労働者、分かりやすい資本主義の構図だ。

人を信用しない生き方は、きっと、それまでの彼の人生経験からも身についてきたことなのだろうが、愛の存在しない社会的成功は、やはり、むなしい

日本公開時についたタイトルは、原題のとおり。直訳すると「血があるだろう」。(?)
雑誌で、「血が流れるだろう」という意味だというふうな映画評を見た。血がある、というのは、流血がある、つまり、血が流れる、ということなのだろう。
もちろん、文字どおりの、流す「血」のほかに「血縁」もあるだろう。そして原油も「血」のようなものと見ていいのだろう。
ダニエル・プレインビューやイーライ・サンデー神父の性格も、その「血」の為せることだったともいえる。

プレインビューに共感を持つには、悪者的な部分が強烈すぎるのか、人間的な弱さが見えにくいのが少し惜しい気がする。
だが、原油の炎が地下から天に向かって噴き上げるパワーの強烈さに象徴されるような、演出と演技の力強さには、ぐいぐいと引き込まれる
圧巻だった。




〔2008年4月29日(火) シャンテ シネ1〕


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