ダークナイト

THE DARK KNIGHT
監督 クリストファー・ノーラン
出演 クリスチャン・ベール  ヒース・レジャー  アーロン・エッカート  マギー・ギレンホール  ゲイリー・オールドマン  モーガン・フリーマン  マイケル・ケイン
脚本 ジョナサン・ノーラン  クリストファー・ノーラン
撮影 ウォーリー・フィスター
編集 リー・スミス
音楽 ハンス・ジマー  ジェームズ・ニュートン・ハワード
2008年作品 152分
アカデミー賞…助演男優賞(ヒース・レジャー、以下、助演男優賞受賞者は同じ)、音響編集賞
ゴールデングローブ賞…助演男優賞
シカゴ映画批評家協会賞…助演男優・撮影賞
ロサンゼルス映画批評家協会賞…助演男優賞
ワシントンDC映画批評家協会賞…助演男優賞
サウスイースタン映画批評家協会賞…助演男優賞
ブロードキャスト映画批評家協会賞…助演男優・アクション映画賞
トロント映画批評家協会賞…助演男優賞
ナショナル・ボード・オブ・レビュー…年間トップ10
ナショナル・ムービー・アワード…ベスト・スーパーヒーロー
ゴールデン・トレイラー賞…ベストアクション・ポスター賞
報知映画賞…外国語映画賞
評価☆☆☆☆


今年の1月22日、ヒース・レジャーは複数の薬物摂取による急性中毒で亡くなった。28歳の若すぎる死。
その後「ダークナイト」の予告編で、顔に独特のメイクをほどこした、バットマンの宿敵ジョーカーを演じる彼を見て、事故死の悲劇的な事実も印象に重なり、ただならない存在感をそこに感じた。

実際、本作でのヒースは、並みの俳優の演技というもの以上に、役柄になりきっていたように思う。
顔の異様なメイクがヒース自身の顔を隠すことも、別人格を創造するのに役だったと思うが、それにしても、すごい役作り、のめり込みようだ。
彼はジョーカーという異常な人間を、この映画の中に焼きつけていった。それこそ、命の何年か分を削って、本作に注ぎ込んだのかもしれない。
渾身(こんしん)の、この演技、映画ファンなら、見なきゃウソだ。

「ダークナイト」という題名、私は「暗い夜」という意味だと思っていたが、映画のラストで間違いを知った。ナイトは night ではなく、knight であって、「騎士」なのだった。暗闇の騎士、バットマン
ブルース(クリスチャン・ベール)=バットマンが、ゴッサムシティの新任検事デント(アーロン・エッカート)を「光の騎士」(white knight)と呼んだこととの対比でもあった。
前もって原題を見ていれば、 knight の文字に気づいたはずではあるが。

アーロン・エッカートも、いい。正義を行う地方検事の役をさっそうと演じ、終盤には、それがガラリと変わる。
ジョーカーはバットマンに言う。「ゴッサムの光の騎士をな、俺たちと同じレベルに落としてやった。ほら、狂気ってのは…知ってるだろ、重力みたいなもんさ、ほんの、ひと押しでいいんだ」
怒りと憎しみに支配された人間は、ひと押しの誘惑で、簡単に復讐鬼に変わることもある。

上に挙げたジョーカーのセリフからも分かるように、ジョーカーはバットマンを自分と同じような者と考えている。
悪に対する憎しみから、マスクをかぶったバットマン。自分の根底にあるのは悪ではないのか。勝手に悪を退治する自分は、ただの私的な制裁者ではないのか。
バットマンとジョーカーとデント、それぞれの複雑な関係性、結びつき。

「ダークナイト」は、映像も音も、最高の水準にできていると思う。撮影後の編集は、技術の粋(と莫大なお金)を使っただろう。

音楽は1作目の「バットマン ビギンズ」と同じく、ハンス・ジマーとジェームズ・ニュートン・ハワードの大物コンビ。打楽器ズンズン。緊張感高まるシーンでは、弦楽器の奏でる音がグングン音程高く上がってゆくストレートな力強さが圧巻。

2時間32分の長さを、ものともしない映画のパワー。まじめすぎるほど、まじめに作った超リアルな重厚さ

「今は、そのときではない…」
現代に、明快なヒーローは、すでにないのか。次作は、やはり、どうしても楽しみにせざるをえない。




〔2008年8月9日(土) 新宿バルト9〕


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