アクロス・ザ・ユニバース

ACROSS THE UNIVERSE
監督 ジュリー・テイモア
出演 エヴァン・レイチェル・ウッド  ジム・スタージェス  ジョー・アンダーソン  デイナ・ヒュークス  マーティン・ルーサー・マッコイ  T・V・カーピオ  ボノ  ジョー・コッカー  エディ・イザード  サルマ・ハエック
脚本 ジュリー・テイモア  ディック・クレメント  イアン・ラ・フレネ
撮影 ブリュノ・デルボネル
編集 フランソワーズ・ボノ
音楽 エリオット・ゴールデンサール
2007年作品 131分
カメリマージュ映画祭…シルバーフロッグ賞(ブリュノ・デルボネル)
評価☆☆☆☆


待ってました。劇場未公開になるのかとさえ思っていました。
そして、やっと観た。よかった。よかったよ〜!
 
ストーリーは、ベトナム戦争や公民権運動(アメリカの黒人たちが平等な地位を求めて起こした運動で、運動のシンボル的存在のキング牧師は有名。映画でも彼のニュースが出てくる。)をからめて、若者たちの恋と人生を描く、割合とオーソドックスなもの
1960年代が舞台なので、なんで? 古いなあ、と思う人もいるはず。
でも、考えてみると、ビートルズが活躍したのも1960年代が中心。その曲は、歌詞も含めて、1960年代の空気がフィットして、物語を作りやすかったのかもしれない。
 
ビートルズの曲を、どのように使うのか。つまり、歌詞がストーリーに合うように持ってこられるのか。ビートルズの曲そのままではなく、どのような編曲をしているのか。その点は大きな興味が生まれる。
そして、それは、とても上手くいっていたと思う。それ自体がパワーをもつビートルズの曲を使うのは、下手をすると、曲だけが目立ってしまう恐れがあるのだが、それが違和感なくストーリーの中に溶け込んでいる
ビートルズの、どの曲が、どんなふうに使われるか、これから映画を観るから知りたくないという方は、この先、読まないほうが。
 
“Girl”「ガール」で始まり、怒涛(どとう)の33曲が洪水のように押し寄せる!(輸入盤のデラックスエディションには31曲入ってるのだが、あとの2曲は何だっけ! すごく知りたい!)
 
CDを初めて聴いたとき、ジュード(ジム・スタージェス)の歌声が巻き舌っぽいというか、ねちょっとした(?)曲もあるのに気づいたが、それも個性で、すぐ慣れる。
映画では、プルーデンス役のT・V・カーピオ(テレサ・ビクトリア・カーピオ。私がまったく知らなかった女優さんである)が歌う“I Want to Hold Your Hand”「抱きしめたい」で、まず泣けた。チアガールの格好で、片思いな気持ちを歌っているのだが、彼女の少しハスキーの入った声が切なくて、きれいで素敵だ。
 
ルーシー(エヴァン・レイチェル・ウッド)の素直できれいな歌声も好き。“Hold Me Tight”「ホールド・ミー・タイト」、“It Won't be Long”「イット・ウォント・ビー・ロング」の楽しさ、“If I Fell”「恋におちたら」の透明感にある美しさ…。
私は、男性ボーカルより女性ボーカルのほうが好きな傾向にあるが、今回も同じ。そのなかでも、ラブソングの美しさが心にしみた。
 
ビートルズを知っているとニヤニヤしてしまうネタも多い。箇条書きにしてみると…。
・給料係のおじいちゃんが、64歳…と言った。「64歳になったら」という曲“When I'm Sixty Four” 「ホエン・アイム・シックスティー・フォー」を、おじいちゃんが歌い出すんじゃないかと思った。(が、歌わなかった…。)
・大家さんでもあるセディがマックス(マックスウェル)を見て「ハンマーで人を殺しそう…」などと言った。“Maxwell's Silver Hammer”「マックスウェルズ・シルバー・ハンマー」という曲があるのだ。
・ドクター・ロバート(演じるのは、U2のボノ)の名前自体が曲名“Doctor Robert”「ドクター・ロバート」からで、一行のバス旅行はビートルズのテレビ映画「マジカル・ミステリー・ツアー」みたい。
・ビートルズが行なった屋上ライブをやっている。
ほかにもあると思うけど、思いださないので、とりあえず、こんなところで。
 
テイモア監督の面目躍如たる、映像の面白さ。
いちばん面白いのは、徴兵検査の場面で“I Want You (She's So Heavy)”「アイ・ウォント・ユー」を使ってくる。
あなたが欲しい、というラブソングのはずが、おまえを「兵隊に」欲しい、という意味にしたアイデア。カリカチュア(風刺化)された検査者と兵隊候補者の集団ダンスは、軍隊の規律をも感じさせて皮肉いっぱい。
She's So Heavy(彼女は、すごくヘビーだぜ)という歌詞の部分に来ると、なんと自由の女神を背負う。彼女は重い(ヘビー)! 自由のために?祖国のために?戦う兵隊。これは、すごい表現。
 
“Strawberry Fields Forever”「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」では、ジュードがイチゴ(ストロベリー)を壁に刺して並べる。(作り物の赤い)果汁がたれてきて、まるで血を流すようなビジュアル。ジュードの心のうちを表現し、アート的でもあり、センスの良さにうなる
 
ミスター・カイト(演じるのはコメディアンのエディ・イザード)が“Being for the Benefit of Mr. Kite!”「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」を歌う場面は、サーカス風で遊び心満載だ。
 
他にも、“Dear Prudence”「ディア・プルーデンス」での青空などの表現、コラージュ風映像、仮装…ユニークな映像には見飽きることがない
 
サルマ・ハエックも、セクシー看護師で特別出演。観ているとき、気づかなかった…。
 
ラストは、もろに私好み。ベタなんだけど、いいよね。
ジュードが“All You Need Is Love”「愛こそはすべて」を歌ったとき、私は「ムーラン・ルージュ」でユアン・マクレガーがこの歌を歌ったのを、ちょっと思い出していた。
愛がすべて。これはやはり、メッセージとしてもガツンとくる内容です!
 
そしてエンドロールは、ボノが歌う“Lucy in the Sky with Diamonds”「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」。ヒロインがルーシーだから、絶対この曲はあると思ってた。最後にやってくれた。
 
ビートルズが好きなら、曲の斬新な生まれ変わり方や懐かしさに感動し、ビートルズを知らないなら、新しい曲を知る喜びがあったり、どこかで耳にしていて、あ、これもビートルズの曲なんだ!と新たに知ったりできるのではないか。
 
長くなったけど、ずっと読んでくれた方には感謝。All my loving, I will send to you.です。
もう1回、観に行きますよ。




〔2008年8月10日(日) 新宿バルト9〕


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