待ってました。劇場未公開になるのかとさえ思っていました。
そして、やっと観た。よかった。よかったよ〜!
ストーリーは、ベトナム戦争や公民権運動(アメリカの黒人たちが平等な地位を求めて起こした運動で、運動のシンボル的存在のキング牧師は有名。映画でも彼のニュースが出てくる。)をからめて、若者たちの恋と人生を描く、割合とオーソドックスなもの。
1960年代が舞台なので、なんで? 古いなあ、と思う人もいるはず。
でも、考えてみると、ビートルズが活躍したのも1960年代が中心。その曲は、歌詞も含めて、1960年代の空気がフィットして、物語を作りやすかったのかもしれない。
ビートルズの曲を、どのように使うのか。つまり、歌詞がストーリーに合うように持ってこられるのか。ビートルズの曲そのままではなく、どのような編曲をしているのか。その点は大きな興味が生まれる。
そして、それは、とても上手くいっていたと思う。それ自体がパワーをもつビートルズの曲を使うのは、下手をすると、曲だけが目立ってしまう恐れがあるのだが、それが違和感なくストーリーの中に溶け込んでいる。
ビートルズの、どの曲が、どんなふうに使われるか、これから映画を観るから知りたくないという方は、この先、読まないほうが。
“Girl”「ガール」で始まり、怒涛(どとう)の33曲が洪水のように押し寄せる!(輸入盤のデラックスエディションには31曲入ってるのだが、あとの2曲は何だっけ! すごく知りたい!)
CDを初めて聴いたとき、ジュード(ジム・スタージェス)の歌声が巻き舌っぽいというか、ねちょっとした(?)曲もあるのに気づいたが、それも個性で、すぐ慣れる。
映画では、プルーデンス役のT・V・カーピオ(テレサ・ビクトリア・カーピオ。私がまったく知らなかった女優さんである)が歌う“I Want to Hold Your Hand”「抱きしめたい」で、まず泣けた。チアガールの格好で、片思いな気持ちを歌っているのだが、彼女の少しハスキーの入った声が切なくて、きれいで素敵だ。
ルーシー(エヴァン・レイチェル・ウッド)の素直できれいな歌声も好き。“Hold Me Tight”「ホールド・ミー・タイト」、“It Won't be Long”「イット・ウォント・ビー・ロング」の楽しさ、“If I Fell”「恋におちたら」の透明感にある美しさ…。
私は、男性ボーカルより女性ボーカルのほうが好きな傾向にあるが、今回も同じ。そのなかでも、ラブソングの美しさが心にしみた。
ビートルズを知っているとニヤニヤしてしまうネタも多い。箇条書きにしてみると…。
・給料係のおじいちゃんが、64歳…と言った。「64歳になったら」という曲“When
I'm Sixty Four”
「ホエン・アイム・シックスティー・フォー」を、おじいちゃんが歌い出すんじゃないかと思った。(が、歌わなかった…。)
・大家さんでもあるセディがマックス(マックスウェル)を見て「ハンマーで人を殺しそう…」などと言った。“Maxwell's
Silver
Hammer”「マックスウェルズ・シルバー・ハンマー」という曲があるのだ。
・ドクター・ロバート(演じるのは、U2のボノ)の名前自体が曲名“Doctor
Robert”「ドクター・ロバート」からで、一行のバス旅行はビートルズのテレビ映画「マジカル・ミステリー・ツアー」みたい。
・ビートルズが行なった屋上ライブをやっている。
ほかにもあると思うけど、思いださないので、とりあえず、こんなところで。
テイモア監督の面目躍如たる、映像の面白さ。
いちばん面白いのは、徴兵検査の場面で“I Want You (She's So
Heavy)”「アイ・ウォント・ユー」を使ってくる。
あなたが欲しい、というラブソングのはずが、おまえを「兵隊に」欲しい、という意味にしたアイデア。カリカチュア(風刺化)された検査者と兵隊候補者の集団ダンスは、軍隊の規律をも感じさせて皮肉いっぱい。
She's
So
Heavy(彼女は、すごくヘビーだぜ)という歌詞の部分に来ると、なんと自由の女神を背負う。彼女は重い(ヘビー)! 自由のために?祖国のために?戦う兵隊。これは、すごい表現。
“Strawberry Fields Forever”「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」では、ジュードがイチゴ(ストロベリー)を壁に刺して並べる。(作り物の赤い)果汁がたれてきて、まるで血を流すようなビジュアル。ジュードの心のうちを表現し、アート的でもあり、センスの良さにうなる。
ミスター・カイト(演じるのはコメディアンのエディ・イザード)が“Being for the Benefit of Mr.
Kite!”「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」を歌う場面は、サーカス風で遊び心満載だ。
他にも、“Dear Prudence”「ディア・プルーデンス」での青空などの表現、コラージュ風映像、仮装…ユニークな映像には見飽きることがない。
サルマ・ハエックも、セクシー看護師で特別出演。観ているとき、気づかなかった…。
ラストは、もろに私好み。ベタなんだけど、いいよね。
ジュードが“All You Need Is
Love”「愛こそはすべて」を歌ったとき、私は「ムーラン・ルージュ」でユアン・マクレガーがこの歌を歌ったのを、ちょっと思い出していた。
愛がすべて。これはやはり、メッセージとしてもガツンとくる内容です!
そしてエンドロールは、ボノが歌う“Lucy in the Sky with
Diamonds”「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」。ヒロインがルーシーだから、絶対この曲はあると思ってた。最後にやってくれた。
ビートルズが好きなら、曲の斬新な生まれ変わり方や懐かしさに感動し、ビートルズを知らないなら、新しい曲を知る喜びがあったり、どこかで耳にしていて、あ、これもビートルズの曲なんだ!と新たに知ったりできるのではないか。
長くなったけど、ずっと読んでくれた方には感謝。All my loving, I will send to
you.です。
もう1回、観に行きますよ。