自分の夢にチャレンジする人たちの姿は、それだけで感動を呼ぶ。
ブロードウェイミュージカル「コーラスライン」のオーディションの風景を追った、この映画。役を得ようと真剣に取り組む人々、審査する人々などを、次々にカメラがとらえていく。
ひとりひとりの思いが重なって画面から圧倒してくる。
1975年初演の「コーラスライン」は、トニー賞を9部門で受賞し、15年のロングランを記録したミュージカルだ。2006年に16年ぶりの再演。そのオーディションの模様がドキュメンタリー映画になった。
しかも、「コーラスライン」を作り出したマイケル・ベネットが24人のダンサーたちと語り合った、「コーラスライン」のストーリーの原点になった録音テープの内容が並行して公開され、初演のステージ映像も流される、という重層構造。
「コーラスライン」とは何かを知らなくても、初演のことなどについて教えてくれるので、親切でもあるのに加えて、ああ、こういうミュージカルに挑戦するんだなあ、ということで、新しくオーディションを受ける人たちへの理解や共感にもなる。うまい構成だ。
プロ・アマを問わないオープン形式のオーディションなので、3000人あまりが参加、そこから、たった19人のキャストを競う。選考期間は8か月(8か月ずっとではなく、間があくようだが)。
選考されるほうはもちろん、選考する人たちもカメラは映し出す。
中盤のクライマックスは、ある候補者の演技と、それに泣かされる選考者たちの姿。
泣かされる人を見て泣けた、というところもあるが、ここは私も泣けた。映画館の中でも泣いている人がいるのが分かる。
人を感動させる演技というのは、はっきり存在するんだ、とも実感できる。
選考が進み、候補者が絞られてくる。観ているこちらも、なぜか、この人がいいんじゃないか、とか選考者と同じようにして見てしまう。
演技が終わってから、選考者のひとり(演出家)が、その人のところへ行ってアドバイスして、もう1回演技させたりすることがあるのは初めて知った。
いいものを持っていると期待している人には、チャンスを与えるということですね。
選考者を泣かせる演技をして、一発でほぼ役をゲットしてしまう人もいれば、前回の演技と違うと言われながら、どうしても前のようには演技できずに不合格になってしまう人もいる。8か月の選考期間という長丁場は大変だ。
私は、不合格になった人の姿を見ては泣き、合格して喜ぶ人の姿を見ては泣いた。
舞台を目標に全力をつくす人たちを映したこの映画は、作りごとではない、本物の努力や意志や感情、多くの人生の一場面があふれていて、感動しないわけにはいかない。
テレビのドキュメンタリーでも作れそうな気がするが、映画という大画面だと、また別な大きな感動を呼ぶ、といえそう。
オーディションにカメラを持ち込んだのは、こうした映画を作ろうという商売っ気がなかったわけではないだろうと、ちょっと引っ掛かるところもあるけれど、こんなに素晴らしいものを見せてくれたなら、文句のあろうはずもない。
これほどの熾烈な競争、高度な水準が、ブロードウェイを支えている力なのだろう。
映画の「コーラスライン」(リチャード・アッテンボロー監督、マイケル・ダグラス主演、1985年)は、そんなによかったかなあと思い出せずにいるが。
「コーラスライン」は、新作ミュージカルのオーディション場面での話だ。ならば、今回の映画は、演技ではない本物の、リアルな「コーラスライン」に近いものではないか!
作曲がマービン・ハムリッシュだったのは覚えていなかった。え、これって彼の作曲だったのか!と驚いた。「追憶」(1973年)、「スティング」(1973年)などのあとで、絶好調のときの作品だったんだ…。
なお、オーディションで誰が合格するのか、映画を見るまで知りたくない方は、紹介記事や、映画のチラシさえも見ないことをお勧めする。