マルホランド・ドライブ

MULHOLLAND DRIVE
脚本・監督 デビッド・リンチ
出演 ナオミ・ワッツ  ローラ・エレナ・ハリング  ジャスティン・セロー  アン・ミラー  ロバート・フォスター  ダン・ヘダヤ  マーク・ペレグリーノ  リー・グラント  チャド・エヴェレット  レベッカ・デル・リオ
音楽 アンジェロ・バダラメンティ
撮影 ピーター・デミング
衣装 アニエスベー
2001年 アメリカ作品 146分
カンヌ国際映画祭…監督賞受賞
ナショナル・ボード・オブ・レビュー…ブレイクスルーパフォーマンス賞(ナオミ・ワッツ)受賞
全米映画批評家協会賞…作品・主演女優(ナオミ・ワッツ)賞受賞
サンディエゴ映画批評家協会賞…助演女優賞(ナオミ・ワッツ)受賞
トロント映画批評家協会賞…監督賞受賞
ニューヨーク批評家協会賞…作品賞受賞
ロサンゼルス批評家協会賞…監督賞受賞
ボストン映画批評家協会賞…作品・監督賞受賞
英国アカデミー賞…編集賞(メアリー・スウィーニー)受賞
セザール賞…外国映画賞受賞
シカゴ批評家協会賞…作品・監督・主演女優(ナオミ・ワッツ)賞受賞
インディペンデント・スピリット賞…撮影賞受賞
評価☆☆☆☆★

“Mulholland Drive…” モウホランドライヴ…。女の唇からふわりと言葉が漏れる。もうひとりが確かめるように言葉を繰り返す。その言葉の滑らかな響きは官能に満ちている

濃密な雰囲気と微妙な緊張感に、奇妙な登場人物がミックスされてできあがる独特の世界。それはデビッド・リンチの世界であるとしか言いようがないものだ。

オープニングから、意表をつく。この始まりは、いったい何なのだろう。観客の頭に「?」が浮かぶ。煙に巻く。そこが面白い。

だが、物語に入ってからは、すごくまともだ。時折、変な人物が出てくるが、理解できないものではない。少なくとも途中までは。

主役2人―女優志願の娘と、交通事故で記憶をなくした女―の物語は、ごく普通に進んでいく。が。

物語の要所要所に、アンジェロ・バダラメンティの作り出す、心をざわつかせる音の蠢(うごめ)きが流れる。そして、この作曲家は、エスプレッソをまずいと言って吐き出す、謎の実力者まで怪演しているのだ。

この作品は「ツイン・ピークス」と同じように、最初はテレビシリーズとして企画された。しかしパイロット版を見たテレビ局側が、尻込みしてしまったらしい。内容の難解さゆえだったのかどうかは知らないが、結果的に、この映画が誕生したのだから、テレビ局には、テレビシリーズの実現を蹴ってくれてありがとう、と言いたい。

マルホランド・ドライブは、ロスの山道に実在する通りの名前。闇の中を曲がりくねって走り、ハリウッドのきらびやかな街を見下ろす。夜中に若者たちが猛スピードでレースをする道でもあるらしい。その話は「マルホランド・ラン」という映画でも取り上げられていた。

あの人物が、なぜ、ここにいる。あの人物が、なぜ、あれを持っている。
受話器を取られずに鳴りつづける電話は、誰の電話。留守録の返事の声は、誰の声。
1回観ただけでは気がつかないかもしれない。
彼女はなぜ、震える。彼女はなぜ、泣く。
自分なりの解釈が生まれたら。最高のスリルになる。

ナオミ・ワッツとローラ・エレナ・ハリング。主役の女優2人が素晴らしく新鮮かつ魅力的で、リンチ・ワールドの構築に見事に貢献した。



                  これは、ラヴストーリーである。

                            ※

                    そこ、そこ。その先。その角を曲がると…ほら、そこに。

                           ※

私はあなたが好き。迷子の子猫みたいに丸まっておびえてるあなたは、とても可愛くて守ってあげたい。記憶をなくしたのなら、思い出すために私は何でもしてあげる。だって、あなたは私の恋人だから。

                           ※

ちくしょうめ! 冗談じゃない。オレの留守に男を連れこみやがって。こいつは悪い夢かもな。オレはキレイな女優と、いい仲なんだよ。オレは若くてハンサムで才能ある映画監督なんだからな。

                           ※

壊れた車の中から這い出した。なぜ乗っていたのか。分からない。ふもとのほうに明かりが見える。ハリウッド。サンセット大通りの近く。何かの力に引き寄せられるように、ある家の前まで来た。ひどく疲れた。ここで、しばらく休まなければ…

                           ※

        お静かに願います。楽団は、いないのです。すべては録音されたもの。
  いままでのすべては、幻想なのです。(お分かりですか。)

                           ※

                          あなたが存在しているところは、どこ?


                さあ、その、箱を、開けて、ごらん
                開けて、さあ、箱を、ごらん、その
〔2002年2月17日(日) ワーナー・マイカル・シネマズ 板橋〕



映画感想/書くのは私だ 目次へ          トップページへ