マイケル・ジャクソン THIS IS IT

THIS IS IT
監督 ケニー・オルテガ
2009年 アメリカ作品 111分
評価☆☆☆☆


リハーサルの映像と音で、ここまで魅せてくれるとは。
舞台の上では、頭のてっぺんから、つま先まで全身が、見る者に目をみはらせる存在、マイケル・ジャクソンという、見事なアーティストだった。
 
今年6月25日に急逝したマイケル。ロンドンでのコンサートのオープニングを7月中旬に控えてのことだった。
それから約4か月後の10月28日、コンサート・リハーサルの映像を中心に作られた映画が公開になった。
それが、この「THIS IS IT」。そう、これなのだ!
監督は、コンサートのクリエイティブ・パートナーでもあるケニー・オルテガだ。「ハイスクール・ミュージカル ザ・ムービー」などを手がけているから、音楽映画は得意なのだろう。
 
私は、とくにマイケルのファンともいえないので、ファンの方の感想とは温度差があると思う。お世辞を言うつもりもない。
でも、観てよかったと確実に言える。マイケルが、あれほど音楽に熱意のある歌手&ダンサーだったと知ることができて。
リハーサルだから100パーセント熱を入れて歌っているわけではないが、それでも、ライブとして、そして映像を編集した場面はショーとしても上質なもの。
 
「スムーズ・クリミナル」では、映画の場面との合成で楽しませてくれる。
なんと、先日見て記憶に新しい「ギルダ」の名場面(←クリックすると、記事中に画像がありますよ)、リタ・ヘイワースが手袋を投げるのを、マイケルがキャッチ! そのあと、拳銃を持ったハンフリー・ボガートに追いかけられる、という展開に。
こうしたビデオを作って、会場のスクリーンに映しながらコンサートを進行する予定だったのだろう。完成形のコンサートが見たかった。
 
ちなみに、マイケルの曲をすべて知っているわけではないが、なかでは、この「スムーズ・クリミナル」が一番好きかもしれない。前奏から、もはや、かっこいい。Annie, are you okay? (アニー、だいじょうぶなのか?)を連発する歌詞と作りが、とてつもなく面白いし、緊迫感がある。これで1曲にしてしまうのかというほど、すごい。歌詞の内容は怖いけど。
この曲のプロモビデオでは、普通なら倒れるだろうというところまで前傾姿勢になる振り付けがユニークすぎて、また、かっこいいのだ。さすがにリハでは、やらなかったが。
 
超クール!(=めっちゃ、かっこいい!)と感じた場面は、何度もあった!
 
彼の場合は、歌とダンスが合わさった魅力。これほどダンスパフォーマンスが光る歌手って、珍しいのではないだろうか。
 
「スリラー」でも、新たな映像を製作していた。墓からゾンビたちが起き上がる、というのは、この曲が発表された1983年当時に作られたプロモーションビデオと同様だ。(いうまでもなく有名なことだと思うが、当時の約14分という長いプロモビデオは革新的で、見応えたっぷりの大傑作だった。)
 
ファンではないわりには、知っている曲が多いのは、テレビ番組「ベストヒットUSA」(テレビ朝日系、1981〜89年)のおかげ。
洋楽のビデオクリップを放送していて、毎週楽しみに見ていたから。
 
この映画の精神としては、とにかく、マイケルが亡くなったからといって、好きだからといって、特別べたべたしない。マイケルがリハーサルに臨む真摯な姿勢を、ただ、そのままに見せてくれた。
亡くなったあとにスタッフなどにインタビューして、その言葉や表情で観客に泣きを誘うようなことはしていなかった。すべてはマイケルが生きていたときのインタビュー。
それなのに、オープニングからすぐ、マイケルが好きで一緒にコンサートを作ることができる喜びを、体いっぱいにあふれさせて語る関係者の話を聞いているだけで泣けてきた。
ああ、こんなに愛されていたんだ、マイケル。
彼のためにも、彼を大好きなスタッフのためにも、ファンのためにも、このコンサート、出来上がってほしかった。
 
リードギターの人、髪が長いなあと思ったら、女性だった。名前は、オリアンティ・パナガリス。ギタープレイが、かっこいいのさ!
思い切り高音を出して、ここは君の見せ場なんだよ、そばにいるから、とマイケルが優しくアドバイスをする場面も。
 
できれば、歌詞を字幕でつけてほしかった。
歌詞字幕がないのは、字幕にわずらわされずに、マイケルのパフォーマンスを目いっぱい感じるため? それとも字幕をつける時間がなかった?
私たちは英語が母国語の国民じゃないんだから、これでは英語がわかる観客とは感じ方が違ってくるのではないか。
もうひとつ、ムーンウォークは見たかったなあ。
 
そして終盤には、かわいい女の子を映像に使って、地球を守ろう、自然を守ろうというメッセージ。
やさしさにあふれた彼の、ラストメッセージとして受け取ろう。何ができるかはわからないけど、心には留めておこう。




〔2009年11月3日(火) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕


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