スペル

DRAG ME TO HELL
監督 サム・ライミ
出演 アリソン・ローマン  ジャスティン・ロング  ローナ・レイヴァー  ディリープ・ラオ  アドリアナ・バラーザ  デヴィッド・ペイマー  レジー・リー  チェルシー・ロス  モリー・チーク  ボヤナ・ノヴァコヴィッチ
脚本 サム・ライミ  アイヴァン・ライミ
撮影 ピーター・デミング
編集 ボブ・ムラウスキー
音楽 クリストファー・ヤング
2009年 アメリカ作品 97分
評価☆☆☆☆★


笑えて、びっくりハラハラ怖い、悪趣味な味わいもうまく少し利かせた、一級品のB級感覚ホラー

おもしろすぎて文句なし。
見終わったときに、思わずケータイから投稿したくらいだから。(これが証拠。2週間も前だ。感想を書くのが遅い! 気に入った映画は気軽に書けないということもある。しかし、書いてみれば、長くなってしまった!)

「私を地獄へ引きずりこんで」という原題からして、ユーモアにあふれる。(DRAG ME TO HELL の「DRAG」は、引っ張るということ。)
私なら、その邦題にするか、ちょっと変えて「私を地獄へ連れてって」とする。それでホラー好きな観客が観に来ないと思うのだったら、配給会社は考えなおしたほうがいい。ましてや、監督がサム・ライミだ。それだけで映画ファンには、じゅうぶん。
邦題の「スペル」のほうが、かえって意味が分からない、という人がいるはず。「ん、つづり?」なんて思うかも。
原題のユーモアを生かさないで、どうするのか。
しかも映画本編では、このタイトルが、それにふさわしいタイミングで出てくるのだ。
私たちが英語に弱い日本人なのが、なんとも残念なところ。

文句なしと言っておきながら、つい、はじめに文句を言ってしまったが、それは邦題についてだけで、たいしたことではない。
有楽町のTOHOシネマズ日劇で、上映予定作品にホラーがあり、え、大作を上映するのにふさわしい日劇でホラー映画? と不思議に思ったのが、この作品を知った最初だった。
監督がサム・ライミと分かったので、「スパイダーマン」シリーズで広く名も知られているからね、と少し納得したが、主演がアリソン・ローマン? だれだっけ? と、今度はその部分で大丈夫なのかと思っていた。
だが、このアリソン・ローマンが絶妙なキャスティングだったのだ!

どこにでもいそうな女の子のアリソンだからこそ、観客が容易に彼女に感情移入できる部分があるし、なんといってもB級テイストにふさわしい。(ほめ言葉です。)
彼女が演じるクリスティンは農場出身で、昔は太っていてミス・ポーク(ブタちゃんですね)に選ばれた過去もある。がんばって銀行に勤めるようになり、出世目前。
だが、彼女の彼氏は、母親に、もっといいとこの娘と交際しなさい、なんて言われていたりする。それを偶然知ってしまったクリスティンは、なおさら仕事をがんばって成功しなくちゃ、と思うのだ。
そんなとき、上司の期待に応えて、ある老婆の頼み(家の差し押さえの延期)を断ったばっかりに、恨みを買って理不尽に、呪文(スペル)によって呪いをかけられてしまう。
悪霊だか何だかに3日間おどされ続け、その翌日には殺されるという運命におちいった彼女が、どんな目に遭い、どう戦うか。

当然ながら彼女を想う彼氏も巻き込まれるが、ジャスティン・ロングが演じるこの彼氏、彼女に誠実で、いい感じ。
お金のことで頼りになった場面では、私は泣けるほどだったよ。(しかし、このシーン、アイスクリームをやけ食いしているという笑えるクリスティンでもあった。)

呪いをかけるジプシーの老婆、ローナ・レイヴァーが、いかにもホラーっぽいうえに、気色が悪かったり
素晴らしいのは、笑えることだ。ホラーと笑いは相性がいいものだと思う。ただ怖いのもいいが、笑えるホラーは、もっと面白い。
クリスティンと老婆の直接対決は、ギャグまじりで笑う場面だ。
クリスティンの情け無用の反撃は、身を守るためとはいえ、仕方がないを通り越して、いっそ気分がすっきりするほど。
エンディング近くの最終決戦(?)では、ド迫力のタンカを切るクリスティン。かっこいい。かと思えば一転、危機になったりするのも笑えるし楽しい。

姿の見えないものの影と音におびえ驚くクリスティンの気持ちは、そのまま観客の気持ちになる。
びっくり、おどかし型のホラーとして楽しめる部分だ。
悪魔的なものの象徴として出てきているのだろう、ハエも大活躍。(笑)
さらに、心霊相談、霊媒師、降霊会、とくれば、もうワクワク。怖いもの見たさ。
ヤギさんの邪悪さも、とりつかれ空中踊りも、サイコーだった。

過剰な呪いに打ち勝とうと努力するクリスティンを応援しながら観ていくうちに、ついに驚きのラストへ。
私は本当に驚いた。
先読みして映画は見るものではない。びっくりしてこそ楽しい。

ええっ!と思わせてから、あっというまに終わる、その速さ、まとめ方。
これが素晴らしい。この鮮やかさに鳥肌が立った。
先読みしてしまった人が不幸といっていいほどの高揚感を私は味わったのだった。ああ、うれしい! 幸せ。

オープニングタイトルと音楽、エンディング音楽も、ムード満点。

シンプルにして円熟、楽しく怖い、サム・ライミ監督の傑作ホラー。
見事でした!




〔2009年11月15日(日) TOHOシネマズ 六本木ヒルズ〕


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