ラブリーボーン

THE LOVELY BONES
監督 ピーター・ジャクソン
出演 シアーシャ・ローナン  ローズ・マクアイヴァー  スタンリー・トゥッチ  マーク・ウォールバーグ  レイチェル・ワイズ  スーザン・サランドン  クリスチャン・トーマス・アシュデイル  マイケル・インペリオリ  リース・リッチー  キャロリン・ダンド  ジェイク・アペル  ニッキー・スーフー
原作 アリス・シーボルド
脚本 フラン・ウォルシュ  フィリッパ・ボウエン  ピーター・ジャクソン
撮影 アンドリュー・レスニー
編集 ジャベス・オルセン
音楽 ブライアン・イーノ
2009年 アメリカ・イギリス・ニュージーランド作品 135分
評価☆☆☆☆


リアルとファンタジーとスピリチュアルの渾然一体。刺激的。

ピーター・ジャクソン監督、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズや「キング・コング」でのメジャー風味ではなく、ハリウッドに行く以前の、ホラー系や少女心理もの作品の味を出したくなるような原作だったのではないか。

原作との違いが、どうあるのかは知らないが、映画ならば、普通こうなるだろう、という展開を、かなり小気味よく裏切るピージャク(ピーター・ジャクソン)。
キミは、いたずらっ子に違いないな?

ピージャクの(正確には脚本家たちの、だが)、いたずら&リアル具合を、以下、すごくネタばれするので、これから、この映画を見ようと思う方は、絶対に読まないでください。

1.まず、殺人犯らしい、いかにも怪しい男が映されるが、ナレーションで「犯人ではない」とすぐに説明される。いたずらの小手調べ。
このナレーションというのも、なんとなく、人を食ったような感もある。
「ロード・オブ・ザ・リング」の本が書店にあったり、監督自身が出演していたりするのも、お遊び。

2.犯人に襲われたスージーが走って逃げていく。しかし後で、これは現実の世界のことではなかったとわかる。

3.弟は亡くなった姉と交信しているかのようなことを言うが、殺人犯が誰かという肝心な話は出ない。スージーが犯人が誰かを家族に教えることはない。(方法がない?)

4.スージーと友だちが、あの世とこの世の中間世界で、楽しそうに遊ぶ。そんな場合か!? いえ、楽しいものは楽しいんです。

5.父親が、犯人が出かけるのを夜中につけるが、犯人は単なる「のぞき」に外出したのであり、父親は、とばっちりで、のぞかれたカップルの男に半死半生の目にあってしまう。その暴行を隠れて「のぞき」見ている犯人。なんと皮肉な。

6.妹のリンジーが犯人の家に侵入して、証拠のメモを見つける。犯人が帰宅しても、これが証拠だと確信できるまで中身をチェックしつづける妹。
観客は「早く逃げろ!」と思うが、彼女は、せっかく見つけたものを、はっきり証拠とわかるまでは見続けてしまう。大丈夫、逃げられるだろうという思いもある。人間って、案外そういうものではないか。すごくリアル。

7.見つかって逃げる妹。もう少しがんばれば捕まえられるかもしれないのに、すぐに、あきらめて逃走の決意をする犯人。
たとえ捕まえて殺したとしても、父親からは、すでに疑われているし、切り抜けることはできないと判断したはず。これもリアル。

8.妹が証拠のメモを父か母に渡さなかったのは、家庭から逃げ出していたのに、いまごろ、のこのこ帰ってきた母への反発か、そんな母を受け止める父も同罪か。私がこんなに危険な目にあってがんばっているのに、この2人は! のんきに、おのろけシーンを演じて! と思ったのかも。

9.金庫を、埋め立て穴に落とすことに成功する。扉が開いて中身が出てきたりはしない。
スージーにとっては、もはや肉体は、どうでもいい(どうしようもない)ことであり、そんなことより、妹に先を越されて悔しく思っていたキスを経験したかった。ここはファンタジーとスピリチュアルが入ってくるが、少女のリアルが、いじらしい。

10.犯人が、つららに当たって、よろけて転落死する。つららは、スージーがいた「あの世とこの世の中間世界」で出てきたような?
となれば、ここには何らかの意思(神?)がはたらいている。
映画の世界くらい、最後は勧善懲悪でなければ、やってられない。
犯人の死に、スージーも、その家族も直接には関わらないのも、この映画の単純ではないところ。

ほかにも思い出せばあるかもしれないが、かくのごとく、平凡な展開を見せない、リアルさも持つ本作には、けっこうな刺激を受けた。

あの世でもない、この世でもない世界のイマジネーションも楽しめた。ああいうイメージを考えてるのか〜、と。

耐え切れずに家族のもとを離れる母親もリアル。ありうるでしょう。
ユニークな、おばあちゃんは、あれが地なのだろうが、家族を笑わせたいために多少オーバーに暴れたところもあったのではないか。
妹や父親が怪しいとにらんだ男が、まさに犯人なのも、ありうると思う。ピンとくる、ってあるでしょう。
もしかしたら、それこそがスージーの思いを読み取ったということなのかも。

殺された少女、犯人、残された家族、という、切ない話だけれど、ユニークで、おもしろい感覚で、おおわれた映画でした。




〔2010年2月13日(土) TOHOシネマズ 府中〕


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