ビューティフル・マインド

A BEAUTIFUL MIND
監督 ロン・ハワード
出演 ラッセル・クロウ  ジェニファー・コネリー  エド・ハリス  クリストファー・プラマー  ポール・ベタニー  ヴィヴィアン・カードーン  アダム・ゴールドバーグ  アンソニー・ラップ  ジョシュ・ルーカス
脚本 アキヴァ・ゴールズマン
音楽 ジェームズ・ホーナー
2001年 アメリカ作品 134分
ゴールデングローブ賞…作品(ドラマ部門)・主演男優(ドラマ部門)・助演女優(ジェニファー・コネリー)・脚本賞受賞
アメリカ放送映画批評家協会賞…作品・監督・主演男優・助演女優賞受賞
全米監督組合賞受賞
全米俳優組合賞…主演男優賞受賞
全米脚本家組合賞…脚色賞受賞
アメリカ映画協会(AFI)賞…助演女優賞受賞
英国アカデミー賞…主演男優・助演女優賞受賞
アカデミー賞…作品・監督・助演女優・脚色賞受賞
評価☆☆☆

非協力ゲーム理論における均衡(と書いても、よく分からんが)、という考えを打ち出した功績によって、1994年にノーベル経済学賞を受賞した、ジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニアの物語。
「ナッシュ均衡」といわれるその考えかたは、経済学のみならず、政治学、社会学、さらには生物学にまで応用されたという。ナッシュが論文を書いたのは1949年だが、大きく注目されたのは1980年代になってかららしい。

映画はナッシュの、プリンストン大学・大学院時代から始まる。
彼は、授業など時間の無駄だとして、いっさい出席せず、自分のやりたい研究に没頭する。
人付き合いが苦手な彼が親しくしているのは、ルームメイトひとりだけ。
やがて彼は、アダム・スミス以来150年続いた定説を覆すような理論を発見する。弱冠21歳のときである。
その論文を評価され、念願のマサチューセッツ工科大学のウィーラー研究所に推薦されることになる。

ナッシュは、聴講生のアリシアと知り合い、交際を深める。(もっとも積極的だったのは彼女のほうだが)
あるとき、ソ連の暗号を見事に解読した彼に、諜報員が接触してくる。そして依頼された秘密の任務。しかし、その任務の重圧に、彼の神経は病んでいく…。


存命中の実在の人物を描き、さまざまな賞レースで栄冠を獲得した話題作。
あまりに賞をとるので、やっかみで事実を美化しすぎている、という批判が出たらしい。評判になるとたたかれる、というのは、どこかの政界でも見たような話だが、実話であるがゆえに嘘や美化がいけないとしたら、これまでにあった実話映画は、ほとんど批判されることになるのではないか。
そもそも他人が書いた伝記であれば、その著者の見たこと考えたことが物語になっているわけだから、100%真実とは断定できない。また、本人が書いた自伝であっても、書いた本人が話を美化していないとは限らないだろう。

この映画は、ナッシュの苦悩する精神という内面を軸に、彼を支える妻や周囲の人間との関係を描いていく。
秘密任務に関連して、敵側との攻防のスリルや、ナッシュの神経が弱ってきて起こるサスペンスなど、映画らしく「見せる」面白さもある。

タフな男の印象がある(特に「グラディエーター」のあとでは)ラッセル・クロウが、数学者というのはどうなのかと思ったが、違和感はなかった。
シャツ1枚の姿になったときに、やっぱり頭脳労働専門の数学者にしては胸板が厚いよな、とは思ってしまったが、ナッシュ本人も若いころは筋肉隆々だったというから、これでいいとしよう。
クロウは、プライベートでは、いろいろと、お騒がせしているらしいが(ウワサだから鵜呑みにはしてないけど)、演技がしっかりしていれば、少なくとも俳優としては評価されてしかるべき。
繊細な神経の持ち主を、抑えた演技でうまく表現していた。
いろんな役を演じられて、存在感もあるのは、さすがは役者やのう、とは思う。

妻役のジェニファー・コネリーも、さまざまに受賞している。いい役ではあるが、夫を支える妻として、とりたてて突出した素晴らしいところがあったとは思わない。

最後は、王道といえば王道、正統派、直球勝負といったシーンが来る。
感動シーンの最高潮のまま、そのまま押しきった、という感じ。

ロン・ハワード監督らしい、まっとうな作品だ。
私は彼の映画には「良心」という言葉を思い浮かべる。きっちり作るのだ。ていねいに、ていねいに。
「バックドラフト」「アポロ13」「身代金」…。
それは、ときには最高によい気分の映画になり、ときには今回のように、質のいい映画ではあっても、どこか面白みのない、平坦で、持ち上げて賞賛のできる出っ張りのない作品になる。
時間は長く感じなかったので、つまらないということではない。
優等生すぎて、その、「くささ」が好みに合わなかったのかな。

私にとっていちばんの収穫は、ジョン・ナッシュという人物を知ることができたということである。
〔2002年3月23日(土) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕



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