インソムニア

INSOMNIA
監督 クリストファー・ノーラン
出演 アル・パチーノ  ロビン・ウィリアムズ  ヒラリー・スワンク  モーラ・ティアニ−  マーティン・ドノバン  ニッキー・カット  ポール・ドゥーリー  ジョナサン・ジャクソン
製作総指揮 ジョージ・クルーニー  スティーブン・ソダーバーグ
2002年 アメリカ作品 119分
評価☆☆☆★



ミス・バー、聞こえるか? ウィル・ドーマーだ。

君のことだから、きちんと調べていると思うが、俺からも少し話をさせてくれ。
俺は考える。結局こうなるしかなかった。

霧が深かったから分からなかった?
撃たなかったら、逆に撃たれたかもしれなかった?
とにかく、よく確認しないで撃ったのは事実だ。いや、確認するのは不可能だった。つまり、撃つべきではなかったのだ。
それを撃ってしまった。
心のなかで、あいつを殺ってしまえ、という悪魔の囁きを聞かなかったとは言えない。前にも言った通り、実際のところ、よく分からないのだ。
罪悪感はずっと痛みとして残っていた。

なぜ正直に言えなかったのか。
この俺が、ミスをして同僚を射殺したなどと世間に知られるのは、考えただけでも耐えられず、また、怖かったこともある。

追っていた殺人犯が同僚を撃ったことにした。おかげで俺は、次々と隠蔽工作や辻褄合わせをしなければならなくなる。
自分が撃ったのではないことを当然知っている殺人犯が接触してきた。
奴の言うことを聞かなければならないのか。ひとつの嘘から、どんどん窮地に立たされていく。自ら袋小路に追い込まれていくようなものだ。
だが、もう戻ることはできない。

アラスカの白夜が俺の感覚を狂わせた。体の機能がついていかない。それでなくても眠れないのに、同僚殺しの罪悪感や、嘘がどんどん膨らんでいくような圧迫感に苛まれる。
眠れない日が続くと、頭が朦朧としてくる。それこそ白日夢のなかにいるようだった。
ボロが出ないように、よほど注意しなければならない。うっかり辻褄の合わないことなどをしてしまったら、一発でお終いだ。

体も心も、ぼろぼろだった。支えていたのは、自分を正当化しようとする精神力だけだった。
俺が刑事でなくなったら、悪人どもがのさばることになる。俺は今の地位を失うわけにはいかないのだ。そう思いこみ、自分が正しいふりをした。

考えてみれば、あの嘘を通したときから、いつかその先にくるだろう破綻を、はっきりと認識はしていなくても、心の片隅でかすかに感じていたに違いないのだ。

今度のことで嘘をついたのは、その場しのぎか? いや、そのまま何とかなるかもしれないとも思ったはずだが、そのときの俺は、いわばショックで心が麻痺状態のようなものだったのだろう。

あの作家、あいつは悪党だ。一度、道を誤ったら、はずれた道から戻れないままに行く奴も多い。
事件解決となったあと、なぜ俺が奴のところへ行ったのか。
奴を捕まえて、すべての事実を洗いざらい明らかにするつもりだったのか?
君はどう思う?
俺は、ただ、奴を殺しに行っただけかもしれないぞ。
本当のことを言えば、行ってみて奴がいたら、その後、実際にはどうなっていたのか、結局は自分が何をしただろうか、今もはっきりと言える自信はない。

それからのことは、君が見ての通りだ。少なくとも、あのときは、俺は人間として恥ずかしくないように行動できたと思う。そう思いたい。

俺の名誉なんか、どうでもいい。
君がどうするつもりなのかは知らないが、ただ、自分に悔いのない選択をしてほしいだけだ。
俺に気を使うことはない。

君が良き警官でいられることを、心から望んでいる。



◇オリジナルは1997年のノルウェー映画。
◇アル・パチーノの演技は相変わらず見応えあり。
◇地味めでメリハリは少ないが、それが悪い夢を見ているような感覚にもつながる。
◇ひとりの人間の心の葛藤をよく捉えている人間ドラマ。
◇拳銃に関する一連の偽装工作の意味を理解するのが、けっこう難しい。
◇水面に浮かぶ丸太の群れの上を渡る追跡シーンはリアルで秀逸。
◇アラスカの風景を見ることができて、お得。
◇ロビン・ウィリアムズの悪役は、善人面に騙されるな、という教訓。
◇ヒラリー・スワンクは脇から物語を引き締めて、好感が持てる。
◇「メメント」の監督だが、トリッキーな変化球映画を期待しては駄目。今回は直球の力勝負。
◇ありがちな話、退屈で詰まらん、という人と、面白さを感じることができる人と、分かれる映画。
〔2002年9月29日(日) 渋谷東急2〕



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