ザ・ロイヤル・テネンバウムズ

THE ROYAL TENENBAUMS
監督 ウェス・アンダーソン
出演 ジーン・ハックマン  アンジェリカ・ヒューストン  ベン・スティラー  グウィネス・パルトロウ  ルーク・ウィルソン  オーウェン・ウィルソン  ダニー・グローヴァー  ビル・マーレー  シーモア・カッセル  クマール・パラーナ
ナレーション アレック・ボールドウィン
脚本 ウェス・アンダーソン  オーウェン・ウィルソン
衣装 カレン・パッチ
音楽 マーク・マザーズボー
2001年 アメリカ作品 109分
ゴールデングローブ賞…主演男優賞(コメディ・ミュージカル部門)受賞
全米映画批評家協会賞…主演男優賞受賞
アメリカ映画協会(AFI)賞…主演男優賞受賞
全米衣装デザイン組合賞…最優秀デザイン賞(現代物)受賞
評価☆☆☆★

映画のポスターを撮影したのは、マリリンを撮ったこともある、あの、リチャード・アヴェドン

天才一家として、かつて名を馳せたテネンバウム家。
長男のチャスは10代で国際的なビジネスマンとして活躍。養子だが長女のマーゴも幼くして劇作家として成功。次男のリッチーはテニスプレイヤーとして何度もタイトルを取った。
だが、有能な弁護士である父親のロイヤルは、子どもの気持ちを考えないような自分勝手でワガママな性格。その気はなくても長男、長女の心を傷つけてしまう。その性格ゆえか、妻とも別居状態になり、子どもたちは独立して、家族の絆は、はかなく薄いものになってしまった。

現在、長男は妻と死別して、その後遺症から抜け出していない。長女は精神科医と結婚しているが、風呂に浸かって何時間もテレビを見るような空虚な生活を送っている。次男は、好きだった長女の結婚が決まったあと、無気力な試合をしたのを最後に、船旅で世界を放浪している。
かつては天才だった3人の子どもは、いまや「ただの人」。いや、昔すごかっただけに、いまは、ただの人よりも落ちぶれているのだ。

ロイヤルは、妻が仕事上の付き合いのある男からプロポーズされたことを知り、それが気になる。いっぽう、住んでいたホテルの支払いが滞り、追い出されることになってしまう。そこで彼は、病気で余命いくばくもないと偽り、妻の元に戻ることを計画、子どもたちも戻ってくることになる。はたして、家族の幸せ、家族のヨリは戻るのだろうか…。

というのが、あらすじ。長いけど。

この映画、不思議な味。コメディと書いてある紹介もあるが、そうではない。
静かな中で真面目に話は進むのだ。話だけ追ったら退屈かもしれない。だが、独特の調子とユーモアがあり、ビミョーにヘン
とくに人物はヘン。
着ているものがワンパターン(しかもブランド)に凝り固まっているのも、視覚的な面白さを出すとともに、何かの殻を破れずにブランドで身を守っている、心の停滞状態を表す象徴かもしれない。
長男は、赤いアディダスのジャージ。2人の子にも同じ格好をさせている。
長女は、ラコステの横縞ワンピースにフェンディの毛皮コート。
次男は、フィラのシャツとヘアバンド。

とくに、長女役のグウィネス・パルトロウは、目の下に黒いアイシャドウを塗るパンダ・メイクとあいまって、インパクトがある。無表情でいることによって、かえって複雑な性格や謎めいた私生活を窺わせて、とてもいい。

それに、構図(人物配置とか)、色遣い、小道具(壁の絵とか、いろいろ)。これが面白いぞ。映画自体が絵のように思える場面がある。これを実感するには、観てみるしかない。

1冊の本をめくり、章ごとに物語が進む。それは、奇妙な童話を読み進むようでもある。
冒頭で子どもたちの生い立ちを説明するシーン。
箇条書き風に出来事を並べていく手法は、どこかで観たような。あ、「アメリ」か。
そういえば、映画全体に漂う少々変わった印象も似ているかもしれない。
このシーンではビートルズの「ヘイ・ジュード」が流れる。これがとても合っているのだ。もともと、息子に向って歌いかける歌詞なので、その意味からも合っているのだろうが、なんともセンスがいい。心地いい。他の曲も同様。ジョン・レノン、ニコ、ローリング・ストーンズ、クラッシュ、ボブ・ディランなどといったところが、さりげなく心地よく流れている。

私には、この映画、いい大人であるロイヤルが、やっと、真の家族愛のようなものを感じる、という、ロイヤル・テネンバウムの成長物語に思える。
数日間の家族一緒の生活に、彼は思いがけず、幸せを感じたのだ。
彼は、エレべーター・ボーイの仕事を始め、妻にも素直に離婚届を渡す。明らかに彼の心情は変化している。
そして、その次は、子どもたちが自分の幸せをつかまえる番だ。彼らがどう変わっていくか。それは子どもたち次第なのだろう。

ジーン・ハックマンがこの映画に出たのは、「エネミー・ライン」でオーウェン・ウィルソンと共演して、意気投合したことから始まった、という。どこでどういう出会いがあって、そこから何が生まれるか、面白いもんだよね。

ニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ、2001年ベスト・ムービーという宣伝文句がついているが、これは専属の映画批評家が「ベストだ」と書いたということなのだろうか。

他に特筆すべきは、ロイヤルに付き従っている男。いるだけでも面白い雰囲気を醸し出す。クマール・パラーナという人だが、監督がカフェかどこかに行ったときに見出した、店のオヤジであるらしい。見る目がある監督だ。

日本人には見逃せないネタが2つ。
まず1つは、大使館が出てくるが、表に日本語で「大使館」と書いてある。たぶん日本大使館なのだろうなあ。
2つめは、「ヤスオ・オオシマ」という日本人が登場。何者か? それは観てチェックしてね。
〔2002年10月26日(土) 恵比寿ガーデンシネマ1〕



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