ギャング・オブ・ニューヨーク

GANGS OF NEW YORK
監督 マーティン・スコセッシ
出演 レオナルド・ディカプリオ  ダニエル・デイ=ルイス  キャメロン・ディアス  ジム・ブロードべント  ジョン・C・ライリー  ヘンリー・トーマス  ブレンダン・グリーソン  ゲイリー・ルイス  リーアム・ニーソン
脚本 ジェイ・コックス  スティーブン・ザイリアン  ケネス・ロナガン
撮影 ミヒャエル・バルハウス
衣装 サンディ・パウエル
美術 ダンテ・フェレッティ
音楽 ハワード・ショア
2002年 アメリカ作品 168分
ロサンゼルス映画批評家協会賞…主演男優(ダニエル・デイ=ルイス)・美術賞受賞
ニューヨーク映画批評家協会賞…主演男優(ダニエル・デイ=ルイス)賞受賞
全米映画俳優組合賞…主演男優(ダニエル・デイ=ルイス)賞受賞
ゴールデン・グローブ賞…監督・主題歌賞受賞
ラスベガス映画批評家協会賞…助演男優(ジョン・C・ライリー、「シカゴ」「めぐりあう時間たち」と本作の3作が対象)賞受賞
ナショナル・ボード・オブ・レビュー…作品トップ10、第3位
評価☆☆☆

マーティン・スコセッシ監督は、この作品の原案を知人の書棚で見つけたという。1971年頃から、すでに映画化を考えていたそうだ。

南北戦争の時代のニューヨークを、ほとんどCGなしで、大規模なセットと生身の人間たちの演技で見せる。当時のニューヨークの町が再現されたのは、フェデリコ・フェリーニ監督などの名匠も使用した、ローマのチネチッタ・スタジオ。ハリウッド大作でも、「ベン・ハー」(ウィリアム・ワイラー監督)などが、ここで作られている。

「ミーン・ストリート」「タクシードライバー」など、ニューヨークを舞台とした映画を作ってきたスコセッシ監督にとって、あまり知られていない、このニューヨークの歴史の1ページを描くことは、とても思い入れの深いものだったのだろう。

移民たちが仲間どうしで結束して、数多くのグループを作り、互いに争い、しのぎをけずっていた1861年のニューヨーク。
まだ子供だった16年前に、グループ間抗争で、リーダーだった父を殺されたアムステルダム(レオナルド・ディカプリオ)が、復讐を胸に、町に戻ってくる。
父を殺したビル(ダニエル・デイ=ルイス)をリーダーとする「ネイティブズ」は、町じゅうに勢力を伸ばしている。
アムステルダムは、ビルの手下となり、頭角をあらわしていく。

物語は、アムステルダムとビルの関係を中心に、周辺の人々を絡ませながら展開していく。

レオナルド・ディカプリオは、なかなかカッコよく、頑張っていた。
しかし、それ以上に存在感があるのは、ダニエル・デイ=ルイスだ。5年ぶりの映画出演。聞くところによると、靴職人をめざして修業していたのだという。ディカプリオなども、彼に映画に出てくれるように説得に行ったらしい。デイ=ルイスに、手元の靴より向こうの映画に興味を抱かせたのは、やはりスコセッシ監督の映画だということが大きいのだろう。

この存在感というのは、どうやって出てくるのか。ダニエル・デイ=ルイスの場合は、演技をしていないときでも役になりきって集中しているという。そうした努力があってこそのものなのだろう。
自分の右腕として、まるで息子のように可愛がっているアムステルダムが、実は自分を仇と狙う人間だと知ったならば、ビルはいったいどう思うのか、どう行動するのか。そこは見どころだ。本当に上手い。

キャメロン・ディアスは、女スリの役。最初は、ちょい役だったが、ディカプリオとの絡みを膨らませて、役が大きくなっていったらしい。
男くさいドラマのなかで、ほとんど紅一点の活躍。激動の時代を生きていく勝気な女性の役は、彼女にぴったりだった。

ジム・ブロードベントが出ていることが、私には注目だった。「アイリス」に続いて彼の映画を観るわけだが、今回の彼は押しが強い役で、喋り方なども「アイリス」よりも「ムーラン・ルージュ」を思わせるところがある。
町の有力なグループと裏で手を結んで、権力を広げようとする政治家を演じて、相変わらずのうまさを見せている。

注目したい俳優があと2人。
アムステルダムと共にビルの手下で働く若者を演じるのが、ヘンリー・トーマス。
どこかで聞いた名前だと思ったら、「E..T.」のエリオット少年だ。ちゃんと役者で頑張ってるんだね。

もう1人は、以前からのビルの手下、マグロイン。演じるは「リトル・ダンサー」で父親役だったゲイリー・ルイスだ。観ているときは、ちっとも気づかなかった。

グループ同士の決闘の場面が凄い。ナイフや農機具を武器に、正面からぶつかりあうのだ。
しかし、こんなやり方で生き残れるのか? 私だったら怖くて逃げるぞ、と思いながら観ていた。
アムステルダムの父親がリーダーだった「デッド・ラビッツ」は、アイルランド移民系のグループ。アイルランドのじゃがいも飢饉(1845年〜1849年)を避けて彼らが大量に新天地ニューヨークに流入しはじめたのをこころよく思わない「ネイティブズ」は、イングランド・オランダ・ウェールズからの移民系で、すでにアメリカの地に根を下ろしている。この2つのグループが激突するのだ。監督によれば、この決闘は「原始的な戦い」。血なまぐさいシーンが嫌いな人には、観ているのが、きついかもしれない。

面白かったのは、火事のシーン。消防隊が2組やってきて、お互いに争い、消化活動そっちのけ。しかも一方を指揮しているのが政治家のジム・ブロードベントだ。政治家が指揮するのかと驚いた。
なんとなく、日本の江戸時代の火消しのような感じで、興味深かった。
火事場泥棒も出没、まったく、こいつらワルだ。ほんとに、こんなにやりたい放題のワイルドな町だったのか。ヤクザだ。ギャングだ(ギャングはタイトル通りだから、いいのか)。

しかし、徳川家康が江戸で町づくりを始めた当初も、全国から人々が流入し、人口は一気に膨れ上がり、雑多なエネルギーが集結して町を作っていったわけだが、治安はよくなかった、というから、ニューヨークも江戸も、火消しの件をはじめ、何もないところから大きな都市が出来る過程には、基本的に似た点があったのかもしれない。

そしてクライマックスは、グループ間抗争に、南北戦争の徴兵に対する不満から起きた、民衆の暴動が重なる。(この1863年の徴兵暴動は、4日4晩続いたという。)

俳優たちは皆、熱演していると思う。最後はスコセッシ監督の、ニューヨークという都市が歩んできた歴史への愛情がにじみ出たエンディングだった。

映画の舞台となったニューヨークなどで起きた同時多発テロ事件。その影響で1年近く公開が遅れたことは、映画への期待を煽り、2002年5月のカンヌ国際映画祭で、たった20分のダイジェスト版が上映されただけでも話題となった。

映画が終わったとき、隣りに座っていたカップルの女性のほうが、「何が言いたいのか分からない」と言った。映画関係のメールマガジンにも同様の感想があった。
ニューヨークで、こういうことがあった。だから、何なの? ということなのだろう。
私などは、多少フィクションが混ざっていたとしても、知らなかった歴史を見せてくれたというだけで、意味があると思うのだが、興味がない人にとっては、つまらないのかもしれない。

それに、昔のセシル・B・デミル監督の史劇などに代表されるような、「手作りの大掛かりなセットと大勢の人間が出てくる劇」の感触が楽しめなければ、何の楽しみがあるのか。
私は、このアナログこつこつ手作りドラマに注がれた、力と重厚感を評価したい

しかし、感動という面では、どうなのか。
映画を観て、しばらく経ってみて考えると、あまり、心に残るものがない
この映画は、ニューヨークを、ひいてはアメリカを愛している映画だ。ラストクレジットに流れるU2の曲が“The Hands That Built America”、「アメリカを作った手」というところからも窺えるように、アメリカ映画にしばしば見られる愛国心が、下手をすると、鼻につきがちになる。

アメリカ人ではない私は、ニューヨークを、アメリカを、特別には愛していない。
だから、愛国心だけで物語を観るわけにはいかないのだ。歴史を見せるスケールはすごい。決闘もすごい。それぞれの演技もがんばっている。しかし、その、映画作りの規模、個々の演技、そして映画が描く本物の歴史の大きさが勝(まさ)ってしまって、作られた物語が隠れてしまうような印象なのだ。
なぜなら、これは、ニューヨークの歴史を語るために、作られた物語だからだ。だから、この作られた物語は、ここで描かれる実際の歴史の大きさには勝てない。ゆえに、観終わって、歴史は心に残るが、物語は心に残りきらないのではないか。
したがって、観た直後には星3つ半にしてみたが、「半」を減らすことにする。

もしも、何かの映画賞で作品賞などを取ったなら、実際の投票にその気持ちが働いたかどうかは分からないにしても、アメリカ万歳という気分が覗いているようで、けっこう複雑な気持ちになるかもしれない。

おまけ:嬉しい発見。キャメロン・ディアスのヘアメイクが、日本人女性の名前だった。
〔2002年12月22日(日) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕



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