マイノリティ・リポート

MINORITY REPORT
監督 スティーブン・スピルバーグ
出演 トム・クルーズ  マックス・フォン・シドー  サマンサ・モートン  コリン・ファレル  ピーター・ストーメア  キャスリン・モリス  ロイス・スミス
脚本 スコット・フランク  ジョン・コーエン
原作 フィリップ・K・ディック
撮影 ヤヌス・カミンスキー
美術 アレックス・マクドウェル
2002年 アメリカ作品 145分
評価☆☆☆

1年ほど前から映画館で予告が流れていた。だからこの映画のことは、そのときから知っていた。
予告編といっても、タイトルだけのようなものではあったけれども。最近はその手の、予告編の前の予告みたいなものが増えている。1年前から宣伝するなんて、ずいぶん気の長い話だと思ったものだ。

監督や出演者に、あまり心を惹かれるものがなく、それほど期待はしていなかった。
私は、出ている女優に関心がないと、あまり興味が湧かないという、不埒(ふらち)な観客だ。
で、実際観てみると、期待しなかったぶんだけ(?)、まあまあ面白かったといえよう。

特に、未来世界のイメージや、未来犯罪の防止方法には興味を引かれた。
まず未来世界のほうでは、自動車の交通システム。出てくる車は、トヨタの海外ブランドであるレクサスであるらしい(エンドクレジットに書いてあった)。
車が壁に沿って垂直にぐんぐん降りていく場面は、視覚的にとても面白かった。

エンドクレジットを観ていて、ロボットが日本製だということも分かった。このロボットというのは、車を組み立てている自動のロボットのことだろう。車といい、ロボットといい、日本のテクノロジーは、なかなかのものだ。

画面全体が、くすんだ色味に感じられる。あまり希望に満ち満ちているとはいえない近未来のようでもある。映画の雰囲気はいい。
スピルバーグ監督は、この映画をフィルム・ノワールだと言っている。
フィルム・ノワールとは、その名の通り、黒い映画、つまり暗い雰囲気の犯罪ものと言っていいだろう。
悪女が出て来たり、破滅の物語だったり、ニヒルな探偵ものだったりする。
「三つ数えろ」(ハワード・ホークス監督)、「深夜の告白」(ビリー・ワイルダー監督)などは、しびれるフィルム・ノワールだ。(関係ないが、この2人の監督ともにマリリンの映画を作っていることも嬉しい。)
そういえば、マリリンが端役で出演した「アスファルト・ジャングル」も、ジョン・ヒューストン監督の見事なフィルム・ノワールだ。
そして、確かに、「マイノリティ・リポート」も、自らの破滅の危機から逃げる一方で、探偵をして真実を探し求める話であるから、フィルム・ノワールなのだと言えるだろう。

未来犯罪防止システムでは、未来の犯罪が起きる場面を予知能力者たちが感じ取る。彼らが感じ取った映像をもとに、捜査官が現場を特定する。そして起こるべき犯罪を未然に防いでしまうのだ。
映像を調べる人間が、手振りだけで映像を操作するのが面白い。実際に触らず、手を動かして、次々に映像を移動させたり、ズームアップさせたり、片付けたりするのだ。

観たあとで、矛盾していて変ではないかと思える点があった。が、しばらく考えて解決した。
時間の流れが行き来する話というのは、こまかく考えると、ややこしいのだ。
起こるはずの犯罪を防止することは、未来を変えること。
タイムトラベルで過去へ行って過去の出来事を変えると、現在が違ったものになってしまうから、それはまずいことだとされる。だが、未来をよりよいものに変えることは、歓迎すべきことなのだろう。

未来は変えられる。未来は人間の選択に任される。だから、よりよい選択をしていこう。映画はこう主張している。

トム・クルーズが目を交換する。替えた目の、元の持ち主が「ヤカモト」さん、というのには苦笑だった。ヤカモトという人がいないとは言いきれないが、それにしたって、珍しすぎる名前には違いない。外国映画における日本についての知識不足はどうしようもない。
もしかして、ワカモトの間違いか。ワカモトといえば、「ブレードランナー」に出てくるネオンだ。同じディック原作のSF映画。ヤカモトがそこから取られている名前だったりしたら面白い。

目玉取り替えの一連のシーンは、マッドサイエンティスト風な医者のいじめが、かなりシュールで楽しい
時間が来るまで目の包帯を取ってはいけない。さもなければ見えなくなる、と言っていたが、きっとこれは大嘘に違いない。なぜなら…(映画を観れば分かります)。

観終わってみると、やはりトム・クルーズが、がっちりと主役だ。マックス・フォン・シドーやコリン・ファレルは、あくまでも脇役。
どんな映画に出てもトム・クルーズであることが前面に出る俳優だから、彼のファンでなければ、最高!という映画には成りえないような気もする。
それがスターたるゆえんでもあるわけだが。
〔2002年12月23日(月) ワーナー・マイカル・シネマズ 大井〕



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